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0日目 プロローグ HELLO UNDERWORLD
記念イベント チュートリアル
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麗奈は塁とのフレンドチャットを切る。
「さて、色々確認しないと。まずはオプションか」
先程のテストで全手動制動オプションなるものが追加されたため、確認する麗奈。
先程、ショートカットに追加したものを思考操作で呼び出したメニューより起動を選択する。
「えーっと、システムサポートの無効化、
完全に自前の運動神経で動かすオプション?」
要約するとそんな感じであるらしい。
これは使った方が良いのか?わからないなぁ?
「少し試してみるかな」
まず手を開いたり閉じたりする。
次に歩き、走り、跳び、宙返り、倒立。
指を細かく動かす。
踊ったり、歌ったり。
「何か、動きが単調だよね」
試してみた結論としては、あらかじめ用意された基礎的な動作をある程度柔軟にはこなせるようだ。しかし、現実と較べると決して良いとは言えない。普通は十分だが本職には物足りないだろう。
「そしてオプションをつけてもう一回」
麗奈は先程と同じく、運動してみる。
違いはすぐに分かる。
今まで普通に動けていた仮想身体が重い。
水のなかにいるような、何かに引かれるような、そんな煩わしさが麗奈にのしかってくる。
「これは…動きにくいね」
そう、動きにくい。
先程のサポートありがスポーツマンなら、
なしが全身に重りを着けたスポーツマン位だ。
「でも、利点はある。」
例えば、サポートありが人間の感覚で仮想身体を動かすものならば、なしは仮想身体を動かす為のオプションだ。本来ならデフォルトにしようとした開発者が、一般人公開のために実装したのが、サポートだと思われる。
「これなら将来的には手動の方がいいかな?
細かな足の指の動きまで出来るのは大きな
メリットだよね。うん、決めた、こっちだ」
そうとなれば、ある程度動けるよう練習だね。といっても時間もないし、二十分くらいかな。
……………………………二十分後………………………………
「よし、終わりっと」
二十分後、麗奈は独特の感覚にもなれてきて、ある程度動けるようになってきた。
このまま練習すればもっと上手くなるだろうが、今は時間がないしこれで十分。堪え性の無い親友は既に行動していて何をするかわからない。
だから早く待ち合わせに行かないとね。
そう考えた麗奈は前辺りにあるそれに目を向ける。
「えーっと、これだよね?」
麗奈は、これ見よがしに置いてある円柱を斜めに切ったような金属端末に手を触れる。
すると、黄色と翠の光が端末に広がり、端末の形が変わり始める。
表面には鈴蘭の、上部には茨のレリーフ。
中心には、小さな石が出来始める。
やがてそれが収まると、音声が流れる。
【端末中央の石は《抗菌石》、細菌を吸収する
性質をもつ石です。一日一つ入手出来ます】
【これはゲームを円滑に進めるためのものです】
【未使用のまま探索を終えると、特典があります】
【ぜひ、目指してみてください】
【また、ワールド接続はこの端末より可能です】
【難易度別に数個づつチャンネルがありフレンドと合流するにはチャンネルを合わせる必要があります。】
なるほど、幾つかチャンネルを分け、混雑を防ぎチャンネルごとにイベントも起こせる、昔ながらの手法だ。
「でも塁は記念イベントで待ち合わせとは言ったけどチャンネルを指定してたりはしてないよね?」
そう、塁ちゃんは記念イベントで待ち合わせと言ったが、チャンネルを指定していなかった。なぜだろう?と思っていると、追加音声が流れる。
【また、フレンドリストからフレンドの接続先を閲覧することができ、フレンドへの接続先の
開示はメニューより、個別に設定が可能です】
「なるほど、これでフレンドに会いに行けると」
えーっと、塁の接続先は記念イベントch13か。チャンネルは全部で20個。同時進行らしい。
「記念イベントワールド:ch13に接続」
……………………………………………………………………………
『曰く、人は獣である』
『崇めるものも、文化も、知恵も』
『それらは全て原初の争いに起因する』
『信じるものがあり、正しさがあり』
『人である、と言うことは難しい』
『しかしながら、人は人だ』
『なら、人とは何か、と言えば』
『正しいもの?違う』
『悪しきもの?卑しきもの?違う』
『貪欲なもの?謙虚なもの?違う』
『人は獣でありながら、知性を有し』
『常に自らの存在に疑問を抱き、違いを知る』
『自らの命に対して積極的に否定的になる』
『生まれたことに疑問を持つ唯一の生物』
『欠陥品、不適合、なんでもいい』
『人は、はなる星にいきられない』
『必要のない発展、無駄な知恵』
『崩れる足場から目を背けて享楽に浸る』
『そんないらないもの』
『ある日、一人の人間が言った』
『菜食主義も肉食主義も変わらない』
『どちらも生き方があり、反目し合うだけだ』
『そこに髪の毛一本分の違いもない』
『だが、私は違う』
『人の生き方に根本的に満足しない』
『人は獣であるべきだと』
『そして悲劇は起こる』
『正体不明の怪物が現れ、瞬く間に人を侵した』
『侵された人は獣でなく人でなく、只の物に』
『人の作りし物は怪物へと変貌した』
『反攻の目はなく、このまでは人類に明日はない』
『君達は立ち向かわなくてはならない』
『獣と成ることを恐れる者のみが明日を見るから』
『健闘を祈る』
……………………………………………………………………………
長いオープニングの後、私は記念イベント会場に来ていた。
そこはノスタルジーあふれる街で、 ジーンズやナイロン製の服を着た人間が歩いている。
一昔前にはまだ田舎にあったと言われている、コンクリートジャングルが聳え立つ。まだエネルギートランスポーターさえ発明されていない大昔のことだが。
「さて、塁ちゃんは何処かな?」
そういえば、キャラネームは聞いたが容姿は
聞いていなかったな、と間抜けな失態を悟る。
こうなってしまっては、チャットで連絡するしかないか等と思っていると後ろから声をかけられる。
「すいません」
「はい?なんでしょうか」
後ろには長身で、ボインで、セクシーな、
おとなのじょせーが立っていた。
「この近くで、170cm位のリアルモデルっぽい
女の子を見なかったかしら?十六歳くらいの」
「あー、すいません見てないですね」
「そう、ごめんなさいね?急に話しかけて」
「いえいえ、ただ、なぜ連絡しないんですか?」
「ああ、いえ、思い付かなかったわけではないのただこのゲームってフレンドに登録した人には連絡できるけれど、登録されている人から、
登録している人人には連絡は出来ないのよ」
なるほど、つまり聞いて回るしかないと。
「あの、もしよろしければご一緒に回りませんか」
「すいません、友達と待ち合わせをしていて」
「そうですか、フレンド登録なさっているのね」
「ええ、といっても向こうはしてないようですが」
「あら、友達ではないの?」
「いえ、友達です。ただ友達が忘れただけです」
「そうなのね、友達と会えると良いわね」
「はい、それじゃあ」
「あっと、お待ちになって。」
「はい?なんでしょうか」
「これも何かの縁、フレンドに成りましょう?」
「はあ、私たち会ったばかりですよ?」
「そうね、でも私はそんな気がしないわ」
「そうですか、どうましょう?」
申し出はありがたい。フレンドに成れば色々と出来ることも増えそうだし、何よりゲーム内で頼れる人がいるのは心強い。無論、過度にはしないが。
「そうですね、私もそんな気がしています」
「では?」
「はい、お受けしますよ」
「やった!ありがとうね?」
「いえいえ。それでフレンド登録はどの様に?」
「その前に、貴方堅苦しい口調だけど、
私には気なんて使わなくて良いのよ?」
「いえ、でも会ったばかりですし」
「でもともだちでしょ?」
「確かにそうですね、分かりました。」
「ではこれからよろしくね?」
「うん、よろしくね?」
「それでフレンド登録は、なんでもいいの」
「例えば?」
「握手したり、ハグしたり、友好を示すのよ」
「では握手しましょう」
「いやよ?」
「え?」
「だってビジネスみたいじゃない。私は日本人
じゃないから、違和感あるのよねそういうの」
「じゃあどうするの?」
「キスしましょ?」
「はい?すいません、私はそういうのはちょっと」
「他人行儀っ!冗談よ冗談。ハグで良いわ」
「まぁそれくらいなら?」
「オッケー、heycomeon」
「なんか上手くのせられた気がしますね?」
「ふふっ、気にしない気にしない」
『Cat'seyeと友誼を結んだ』
「それじゃあね、また会いましょ」
そう言ってキャッツアイさんは去っていった。
「さて、色々確認しないと。まずはオプションか」
先程のテストで全手動制動オプションなるものが追加されたため、確認する麗奈。
先程、ショートカットに追加したものを思考操作で呼び出したメニューより起動を選択する。
「えーっと、システムサポートの無効化、
完全に自前の運動神経で動かすオプション?」
要約するとそんな感じであるらしい。
これは使った方が良いのか?わからないなぁ?
「少し試してみるかな」
まず手を開いたり閉じたりする。
次に歩き、走り、跳び、宙返り、倒立。
指を細かく動かす。
踊ったり、歌ったり。
「何か、動きが単調だよね」
試してみた結論としては、あらかじめ用意された基礎的な動作をある程度柔軟にはこなせるようだ。しかし、現実と較べると決して良いとは言えない。普通は十分だが本職には物足りないだろう。
「そしてオプションをつけてもう一回」
麗奈は先程と同じく、運動してみる。
違いはすぐに分かる。
今まで普通に動けていた仮想身体が重い。
水のなかにいるような、何かに引かれるような、そんな煩わしさが麗奈にのしかってくる。
「これは…動きにくいね」
そう、動きにくい。
先程のサポートありがスポーツマンなら、
なしが全身に重りを着けたスポーツマン位だ。
「でも、利点はある。」
例えば、サポートありが人間の感覚で仮想身体を動かすものならば、なしは仮想身体を動かす為のオプションだ。本来ならデフォルトにしようとした開発者が、一般人公開のために実装したのが、サポートだと思われる。
「これなら将来的には手動の方がいいかな?
細かな足の指の動きまで出来るのは大きな
メリットだよね。うん、決めた、こっちだ」
そうとなれば、ある程度動けるよう練習だね。といっても時間もないし、二十分くらいかな。
……………………………二十分後………………………………
「よし、終わりっと」
二十分後、麗奈は独特の感覚にもなれてきて、ある程度動けるようになってきた。
このまま練習すればもっと上手くなるだろうが、今は時間がないしこれで十分。堪え性の無い親友は既に行動していて何をするかわからない。
だから早く待ち合わせに行かないとね。
そう考えた麗奈は前辺りにあるそれに目を向ける。
「えーっと、これだよね?」
麗奈は、これ見よがしに置いてある円柱を斜めに切ったような金属端末に手を触れる。
すると、黄色と翠の光が端末に広がり、端末の形が変わり始める。
表面には鈴蘭の、上部には茨のレリーフ。
中心には、小さな石が出来始める。
やがてそれが収まると、音声が流れる。
【端末中央の石は《抗菌石》、細菌を吸収する
性質をもつ石です。一日一つ入手出来ます】
【これはゲームを円滑に進めるためのものです】
【未使用のまま探索を終えると、特典があります】
【ぜひ、目指してみてください】
【また、ワールド接続はこの端末より可能です】
【難易度別に数個づつチャンネルがありフレンドと合流するにはチャンネルを合わせる必要があります。】
なるほど、幾つかチャンネルを分け、混雑を防ぎチャンネルごとにイベントも起こせる、昔ながらの手法だ。
「でも塁は記念イベントで待ち合わせとは言ったけどチャンネルを指定してたりはしてないよね?」
そう、塁ちゃんは記念イベントで待ち合わせと言ったが、チャンネルを指定していなかった。なぜだろう?と思っていると、追加音声が流れる。
【また、フレンドリストからフレンドの接続先を閲覧することができ、フレンドへの接続先の
開示はメニューより、個別に設定が可能です】
「なるほど、これでフレンドに会いに行けると」
えーっと、塁の接続先は記念イベントch13か。チャンネルは全部で20個。同時進行らしい。
「記念イベントワールド:ch13に接続」
……………………………………………………………………………
『曰く、人は獣である』
『崇めるものも、文化も、知恵も』
『それらは全て原初の争いに起因する』
『信じるものがあり、正しさがあり』
『人である、と言うことは難しい』
『しかしながら、人は人だ』
『なら、人とは何か、と言えば』
『正しいもの?違う』
『悪しきもの?卑しきもの?違う』
『貪欲なもの?謙虚なもの?違う』
『人は獣でありながら、知性を有し』
『常に自らの存在に疑問を抱き、違いを知る』
『自らの命に対して積極的に否定的になる』
『生まれたことに疑問を持つ唯一の生物』
『欠陥品、不適合、なんでもいい』
『人は、はなる星にいきられない』
『必要のない発展、無駄な知恵』
『崩れる足場から目を背けて享楽に浸る』
『そんないらないもの』
『ある日、一人の人間が言った』
『菜食主義も肉食主義も変わらない』
『どちらも生き方があり、反目し合うだけだ』
『そこに髪の毛一本分の違いもない』
『だが、私は違う』
『人の生き方に根本的に満足しない』
『人は獣であるべきだと』
『そして悲劇は起こる』
『正体不明の怪物が現れ、瞬く間に人を侵した』
『侵された人は獣でなく人でなく、只の物に』
『人の作りし物は怪物へと変貌した』
『反攻の目はなく、このまでは人類に明日はない』
『君達は立ち向かわなくてはならない』
『獣と成ることを恐れる者のみが明日を見るから』
『健闘を祈る』
……………………………………………………………………………
長いオープニングの後、私は記念イベント会場に来ていた。
そこはノスタルジーあふれる街で、 ジーンズやナイロン製の服を着た人間が歩いている。
一昔前にはまだ田舎にあったと言われている、コンクリートジャングルが聳え立つ。まだエネルギートランスポーターさえ発明されていない大昔のことだが。
「さて、塁ちゃんは何処かな?」
そういえば、キャラネームは聞いたが容姿は
聞いていなかったな、と間抜けな失態を悟る。
こうなってしまっては、チャットで連絡するしかないか等と思っていると後ろから声をかけられる。
「すいません」
「はい?なんでしょうか」
後ろには長身で、ボインで、セクシーな、
おとなのじょせーが立っていた。
「この近くで、170cm位のリアルモデルっぽい
女の子を見なかったかしら?十六歳くらいの」
「あー、すいません見てないですね」
「そう、ごめんなさいね?急に話しかけて」
「いえいえ、ただ、なぜ連絡しないんですか?」
「ああ、いえ、思い付かなかったわけではないのただこのゲームってフレンドに登録した人には連絡できるけれど、登録されている人から、
登録している人人には連絡は出来ないのよ」
なるほど、つまり聞いて回るしかないと。
「あの、もしよろしければご一緒に回りませんか」
「すいません、友達と待ち合わせをしていて」
「そうですか、フレンド登録なさっているのね」
「ええ、といっても向こうはしてないようですが」
「あら、友達ではないの?」
「いえ、友達です。ただ友達が忘れただけです」
「そうなのね、友達と会えると良いわね」
「はい、それじゃあ」
「あっと、お待ちになって。」
「はい?なんでしょうか」
「これも何かの縁、フレンドに成りましょう?」
「はあ、私たち会ったばかりですよ?」
「そうね、でも私はそんな気がしないわ」
「そうですか、どうましょう?」
申し出はありがたい。フレンドに成れば色々と出来ることも増えそうだし、何よりゲーム内で頼れる人がいるのは心強い。無論、過度にはしないが。
「そうですね、私もそんな気がしています」
「では?」
「はい、お受けしますよ」
「やった!ありがとうね?」
「いえいえ。それでフレンド登録はどの様に?」
「その前に、貴方堅苦しい口調だけど、
私には気なんて使わなくて良いのよ?」
「いえ、でも会ったばかりですし」
「でもともだちでしょ?」
「確かにそうですね、分かりました。」
「ではこれからよろしくね?」
「うん、よろしくね?」
「それでフレンド登録は、なんでもいいの」
「例えば?」
「握手したり、ハグしたり、友好を示すのよ」
「では握手しましょう」
「いやよ?」
「え?」
「だってビジネスみたいじゃない。私は日本人
じゃないから、違和感あるのよねそういうの」
「じゃあどうするの?」
「キスしましょ?」
「はい?すいません、私はそういうのはちょっと」
「他人行儀っ!冗談よ冗談。ハグで良いわ」
「まぁそれくらいなら?」
「オッケー、heycomeon」
「なんか上手くのせられた気がしますね?」
「ふふっ、気にしない気にしない」
『Cat'seyeと友誼を結んだ』
「それじゃあね、また会いましょ」
そう言ってキャッツアイさんは去っていった。
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