義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

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一章

俺は脱走した猫を捕まえなければならないので実家に帰らせていただきます

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 家に帰った後、とりあえずリアムの部屋にお邪魔することにした。
 いずれ色々と父と母にも話さなければならないと思うけど、俺もよく分かってない今の時点じゃ何も話せない。


「ええと、それで、マシュ……様? さん?」

『マシュでいいよぉ。ていうか多分今ならおまえ達も僕らのこと見えるでしょ。リアム、シャノンたん、ほぉらちゃんと意識してみて』

 マシュは俺の予想が外れていない限り光の精霊だと思う。
 言われた通り、テディのことを強く意識する。

「お、よしよし見えるな? 前言った通りちゃあんと兄貴と居てくれてるし、だいぶシャノンちゃんも光浴びまくってるだろ」

「え、なに? なにさせてんの?」

 前見た時となんら変わらないテディの横に、透けるような金の髪にテディとお揃いの色の目を持つ可愛い顔をした青年が立っていた。
 もうほぼ間違いなく光の精霊だと思う。思う、が。

「!? えっ……精霊に直接加護を与えられた人しか見えないんじゃ? 僕、どうして光の精霊……様が見えてるの?」

「普通はそうだよ。ただオレたちは特別。言ったろ? 表裏一体の存在だって。……ってかさ」


 すすす、と俺の耳元に顔を寄せて、俺だけに聞こえる声で囁いてくるテディ。


「ふ、お前の僕呼び、いつもの話し方知ってるとおもしろいなあ?」

「!!! しーっ!」

 慌ててテディのおしゃべりな口を手で塞ぐ。ニヤニヤすんな!


「待ってくれ。このお二方は精霊なのか?」

 リアムが困惑した顔で俺のもう片方の手を握る。
 俺の手を握る必要性はどこにあるんだ? 体温が上がるからやめてほしい。

「はい、この黒髪がテディ……闇の精霊で、おそらくそちらの金髪の方が光の精霊だと……」

「そうだよぉ! あは、ごめんね。ちゃんと僕のこと見えるようになってからでいいかな~ってリアムと接触するのサボってたあ」

 けらけらと子供みたいに笑う光の精霊。
 ますます困惑するリアムに、テディが俺に説明してくれた話と同じものを話してくれた。



「……はあ、なんとなく理解しました。じゃあシャノンが俺と一緒にいたのは……このため?」

「ちがっちがちが違います! 違くないですが、えっと、甘えたかったのは本当で、それに付随した形というか」

 義兄の眉尻が少し下がったのを見て俺はなぜかショックを受けた。
 そうだけど、そうじゃないとどうか伝わってほしい。リアムの手を両手でぎゅっと握って必死に伝える。


「……うん? 仲良くしてるとこ悪いんだけどさぁ。え、テディ、規定量溜めるためにそばに居ろって言ったの? ほんとに?」

「言ったが……。間違ってないだろ」

「間違ってないけど、そんなことしてたら時間がいくらあっても足りないだろ! おまえってなんでそういうところで純情なわけ? もっと手っ取り早い方法あるよねぇ?」

「……待て、待て待て待て。お前の言いたいことは分かるけど、シャノンちゃんにはちょっと早いだろ!」

「はあ!? おまえ何!? ママなの!? 体液に含まれてる魔力をお互いに交換したら、こんな問題すぐ解決するだろっ。キスすればいいの、キス!」


 え?


 俺が義兄に目で語りかけている間に精霊たちでとんでもない話がされている気がする。

「え? キ……」

「ん? 人間じゃキスって言わない? えーと、接吻! 口付け! ちゅー!」

 全然言うがそういう問題じゃない。俺が固まっている間にリアムはいち早く動いて、「ただの口付けじゃダメだということですか?」と聞いていた。この人順応性すごない?

「そーそー、唾液に魔力含めてべろちゅーするってこと。まあもーっともーっと効率的な方法もあるけど、さすがの僕もそこまでは言わないよ。ほんとほんと」

 ニヤリと笑うマシュに嫌な予感がする。テディは頭を抱えていた。

「知りたい? あはっ、この先なんてひとつしかないだろ。セッ「馬鹿!!!!!!」うわうるさ」

 ナイス、ナイスだテディ! いくら俺だってマシュの言わんとしてることは分かる!

 セクハラだからな、そういうこと言うの!!



「……まあなににしろ、いつ終わるかわかんない魔力交換してるよりはさっさとちゅーのひとつやふたつしたらいいと思うけど。今までの蓄積分があるから、ニ、三回でいいんじゃない? 僕たちのことちゃーんと見れるようになったら、その感情増幅も消えるし」

「感情増幅?」

「え、言ってないの? テディ」

 しばらくリアムの髪をいじっていたと思えば自然な動線で俺の横に座り、今度は俺の髪に触れ「やっぱかわい~」とにこにこ笑うマシュ。
 初めて聞いた単語に、思わず俺はきょとんである。


「……説明はしようと思ってた、が……。シャノンちゃん、前言ったろ? ちょっとした副作用があるって」

「……あっ! 言ってた、言った!」

 リアムへの感情がおかしいのはどういうことなのか聞いた時にそんなことを言ってた。お前の本心だとか言われて暴れたやつ。

「それが感情増幅作用なんだよ。ふたつでひとつのはずの光と闇がいわば引き裂かれてるわけだから、それが元に戻る……つまり今回の場合はシャノンちゃんと兄貴がそれぞれ一定のお互いの魔力を得るまでな。それまで、こう……。お互いに感じてる感情がちょーっと、過剰になるって言うか……」

「…………………………えっ!?!」



 は!?!?!!!?!?!?!?



「おま、おまお……テディ! オレのせいじゃないとか言ってたじゃんか!」

「シャノンちゃん、落ち着いて落ち着いて。違うだろ? オレは、シャノンちゃんの気持ちはオレのせいで生まれたわけじゃないって言ったんだ」

「うっ、うう……」

 秒で論破された。いや、でも、でもこのこと言ってなかったじゃん!

「シャノンちゃんがもし仮に兄貴のこと憎かったら、その気持ちが余計盛られてもっと憎く感じるんだよ。あくまでシャノンちゃんの中で生まれた感情が増幅するってだけだから! 気持ち自体は作れない。な? な?」

「うん……。いや、うんじゃない!! 俺……僕! 僕僕僕! 僕がっ、リア、兄上に対してなんかちょっとおかしくなっちゃうって話した時に軽くでも教えてくれたらっ……」

「おかしく?」

「あっ!」


 しまった。口を閉じるも時すでに遅し。猫も何匹か逃げてしまった。


「シャノンは俺に対しておかしな気持ちを抱いているのか?」

「あのっ、違くて、決して変な意味では!」

「……変な意味でいい。俺もおそらく、変だ」

「何が!?!」


 もはや悲鳴に近い声が喉から出る。
 テディは目を逸らしてるし、マシュは変わらずに俺の髪で遊んでいる。知らぬ間に編み込まれていた。


「でも、でもですね兄上。これは僕たちの気持ちではなく、こう、えーと光と闇属性の云々なので。おそらく全部それに引っ張られているだけだと思いますよ! ですのでちゃんと僕たちが精霊を見ることができるようになったら、きっと普通に戻ります!」


 シャノンに盗られるリアムの婚約者はちょっと人間的にアウトだとしても、彼にはまともで綺麗な女性が婚約者になる未来がきっとある。
 軋む気持ちを無視してそう告げた。


「しかし、感情自体は作れないと。一時的に強く感じる仕様になっていたとしても、この気持ち自体は俺たちが俺たちで作ったものだろう?」

「そうだよぉシャノンたーん。てか、感情増幅とかなくてもいずれそうなってたでしょ。あはは」


 マシュは何の話をしている!?

 ていうかリアム、リアム! どうした!?
 俺は義兄の何のスイッチを押してしまったんだ!?

 握っていたリアムの手を逆に握り込まれる形になって、どこか吹っ切れた様子の義兄がやたらと近い距離で俺を視線で射抜く。
 俺が真っ赤になっている背後では精霊たちがなにやらのんきに話していたけど、リアムでいっぱいいっぱいの俺には何も聞こえなかった。



「はー、シャノンたんは超可愛いし、リアムは美形だし。やっぱり天使の言うこと聞いてあげて良かったな。貸しも出来たし? こんなめんどくさい方法取らなきゃ姿すら見えないなら、今後は二度と別々の人に加護与えるとかやらないけどねえ」

「面食い……」

「別にいいだろ? ここ数百年、僕のお眼鏡にかなって且つおまえの面白センサーにひっかかる奴なんていなかったから、僕は今非っ常に気分がいいよ!」

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