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二章
嬉し恥ずかし両思い
しおりを挟む「シャノンちゃん、すんごい顔してるぞ」
「だって……」
だってえ!!
例の件ついて、何を魔道具にするかを決めた。
身につけていても違和感がなくて、小型なもの。指輪だ!
ネックレスやブレスレットでも良かったけど、万が一千切られたりしたら困るしな。
あ、そしてザックに魔力を込めてもらう件はあっさりオーケーをもらえた。タダでとは言わないので勿論後日お礼はするつもりだ。
あとは実際組み合わせてちゃんと動くのかを確認するだけである。
順調にことが進んでいるのになぜ俺が不貞腐れているのかというと……。
「だから言ったろ、見ても得るモンねえと思うぞって」
呆れた声のテディの言葉がぐさぐさと心に刺さる。
目の前にはリアムとやっったらいい匂いがしそうな女の子。つまり、例の転生者。
そう。俺は人様に言えない方法で義兄の後をつけて来たのだ。
(だって、だってだって! こんな可愛い子だなんて聞いてない! 髪の毛さらっさらじゃん、あー、こういうのが春の季節に攫われそうな美少女って言うんだな!)
彼女の肩を少し越えたところまで伸びた髪が風に揺らされている。その子は、恋してます! っていう顔全開でリアムを見つめていた。
主人公格のリアムとザ・ヒロインみたいな雰囲気を纏った女子生徒は側から見るだけならとってもお似合いだった。
うん、うん。そうだ。俺は義兄を疑ってなんてないけど、女の子と連日会ってる事実にそりゃあしっかり嫉妬していて、だからこうして面を拝もうと尾行してきたんだ。
それが、こんな場面を見ることになるなんて!!
漫画のひとコマなら背後にでっかくガーンって出てるところだ。
「ショック受けてるとこ悪いけど、兄貴のほうは氷みたいな顔してるぜ。早く帰って魔道具完成させたほうが有益だと思……まて、悪かった! 泣かないで!」
「泣いてない!!!!」
いや、別にそんな、リアムがちょっと心変わりするんじゃないかとか思ってないし。
彼女の方は同い年か一個下っぽいし、よく考えたら俺ってまだ十三だし、なんか色々向こうのほうが釣り合い取れてない? とか考えてないし。
あ、なんか目から汗出てきたな。
テディの言う通り大人しく帰ろうと屈めていた腰を上げたところで、リアムの隣で暇そうにうろついていたマシュとばっちり目が合ってしまう。
慌てて口に人差し指を当て、黙っててくれ! と念を込めて必死に首を横に振る。
マシュはふたつ頷いて、優しく微笑んでくれた。
よかった、と思ったのも束の間、マシュがリアムに何かを囁いた。
(うおおい! 待て! 話が違う!)
鮮やかすぎる裏切りに思わず拍手を送りたくなってしまう。
絶対、絶対今チクられた!!
義兄が気付くよりも先に、早く帰らなきゃ!
俺は今まで生きててこんな急いだことないってくらい秒速で建物の影と同調すると、背後を振り向かずに大慌てで影を縫い家を目指した。
「あら? シャノンちゃん、暑い? ずいぶん汗だくだけど……」
「母上……」
冷たいお茶を飲んで荒れた息を整えているとちょうど部屋に入ってきた母と鉢合わせる。
俺の横に座って心配そうに声をかけられると閉まっていたはずの涙腺が決壊して、気づけばぼろぼろと涙を流しながら心のうちの不安を話していた。
「そうなの、誰かにそう言われたの?」
「いえ、僕が勝手に思ってるだけです」
否定も肯定もせずただ話を聞いてくれる母に随分気持ちがスッキリした。どうやらあまりにもお似合いの二人という衝撃的なシーンを見たせいで情緒がぐちゃぐちゃになっていたようである。
「でも今話してだいぶ大丈夫になりました。母上、ありがとうございま……」
「ですって、リアム」
「え?」
自分の中で結論づけたその時、母のそんな言葉が聞こえ反射的に後ろを振り向く。
いつの間に帰っていたのか、そこには息を切らせたリアムが立っていた。
早くないか!? 俺は俺で最速で帰ったはずだったのに!
「……シャノン、おいで」
「あらあらあら、続きは部屋でおやりなさいな」
にっこりと美しく笑った母に優しく背中を押され、義兄の方へと距離が詰まる。
「ご、ごめんなさい、あにう」
「謝ることなんてないだろう? 俺の部屋で話そう」
どこまでも優しい彼の声に、なんだかまた泣きそうになってしまった。
「あの、ストーカーみたいな真似して本当に……」
「それは構わない。俺だって、理由があってもシャノンが俺に隠れるように誰かと会ってたら気になるさ。配慮が足りなかったな」
仏か?
優しさの擬人化みたいなリアムに余計俺の良心がバキバキ折れる。俺はただの好奇心とくだらない嫉妬で義兄にこんな顔をさせてしまったのか。
「それより、俺は君が嫉妬していることに驚いている。……俺はそれを嬉しいと思う」
ん?
流れ変わったな、と思ったのも束の間、義兄に思いっきり抱きしめられてぴたりと身体がくっついた。
「勘違いをまともに正そうとしないまま手に入れた自覚があるから、俺ばかり君を好きなのかと。シャノンも俺のこと、想ってくれてると思っていいか?」
好き?
「好き!?!?」
好き!?!?!?
聞き間違えでなければ、初めて好きとはっきり言葉にされた。
それと同時に気づく。俺は今までシャノンからのアクションを受けるばかりで、恋愛的な意味での好意を伝えたことがあっただろうかと。
(……なくない!?)
そんな状態で一丁前に嫉妬なんかしてたのか、俺は!
そっとリアムの肩を押して距離を空ける。
途端に義兄が不安を瞳に湛えて俺を見た。
美少女とちょっと会ってるからって、こんなに俺のことを好きだと瞳で語るこの人に不安になるなんて俺は馬鹿だ。
「僕、兄上……リアムお兄様のこと、大好きです。れっ、恋愛として!」
とはいえ告白なんてしたことないから、口を開いた瞬間緊張で喉がカラカラに乾く。
ぎゅっと目を瞑って思いの丈を口にした。
永遠にも感じる静かな時間――おそらく数秒だったと思うが――が過ぎて、不意に唇に柔らかな感触が伝わる。
「……ほ?」
「すまない、可愛くて」
「ほ!?」
キスされた、と瞬時に理解して目を開けると蕩けた笑みを浮かべるリアムがそこにいて、ズギュンと心臓が撃ち抜かれた。
「君はまだまだ幼いが、そんな君をこういう意味で愛しく思う俺はおかしいのかもしれないな」
「お、おかしくないれす」
「そうか」
石像よろしく固まる俺の頬や目尻に口付けの雨が降ってくる。
こういう接触はしばらくなかったから、上手く反応できずただただ頰が熱くなった。
「俺がシャノン以外に欲を抱くことはないよ。君がまだ幼いことが気になるなら、これから毎日、前みたいに口付けしようか?」
「え、え、お、え、遠慮しますう」
「そうか」
そういう話だったっけ。そういう話だったっけ!
リアムはそれはそれは嬉しそうに目を細めながら俺の耳を指先でくすぐった。す、すけべ!
「うう、兄上……」
「リアム、だろう?」
勝てない。強すぎる。
俺はもう好きにしてくれという気分になって身体の力を抜き、リアムの肩口に顔を埋めた。
「……まあ、君が遠慮してもするが。シャノンをまた不安にさせるくらいなら開き直ると今決めたから」
完全敗北を掲げた俺の耳元でなんだか非常に不穏な言葉が囁かれた。……好きにさせちゃダメだったかもしれない。
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