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二章
変態は遺伝なのか
しおりを挟むアルロってエドモンドの弟だったのか……。確かによく見たら目元とか似てるかもしれない。
身近な人物の思わぬ繋がりに一瞬、自分が誘拐されたことも忘れて彼らを交互に見やる。
「こうしてお呼びになるなんて珍しいですね。ご用件は何でしょうか」
「まあまあまあ、そこにかけて」
少し温度差がありそうな彼らの雰囲気に身体が縮こまる。俺のところが異常なのかもしれないけど、世間の普通の兄弟ってここまで冷めてるものだろうか。
一層植木鉢の後ろに身体を滑り込ませる。余計リアムに会いたくなってしまった。
「単刀直入に言うけど、アルロが何回も何回もシャノン君に送ろうとしている釣書は全部ボクのところで止めてある。叶わない恋はやめなさい」
「っ、」
釣書?
視線だけをアルロに向ければ、彼は唇を噛んで俯いていた。
釣書って……、そういうことだよな。
俺、アルロに好かれてる自覚はあったけどなんというか、あくまでアイドル的な好意かと思ってた。推しの接触会でうまく話せないみたいな……。自分をアイドルに例えるのもどうかと思うけど。
(そっか、そういう意味で好きだったのか。申し訳ないな)
とっくに好きな人がいるから彼の気持ちには応えられない。もし直接告白されていてもお断りするしかない。
でもなんだかんだで俺は好きと言われた経験がリアム以外ないから、申し訳なさ半分、普通にちょっと嬉しい。
ほわほわした気持ちになっていたその時、アルロが何か呟いている様子が目に入る。なんか俺の身の回りってひとりごと呟きがちな人、多いな。
「……しかし、我が家の方が身分も上で」
「今の時代で婚姻関係に家の権力を振りかざしなんかしたら、責められるのは権力者の方だ。それくらい分かるだろう」
「……」
「それに弟がしつこく釣書を送ってくるのが嫌だからって、もしあの約束を断られたらどうしてくれるんだ。ボクの大作になる予定なのに」
……。
こいつ、最後のが本音だろ。
ていうかそんなことで約束を反故にする程俺は狭量じゃないぞ……。
どういう印象を持たれてるんだよと思っている間に、話はそれだけと言わんばかりにエドモンドがアルロに退出を促した。俺もそろそろ監禁されに戻らないとまずいかもしれない。
ゆっくり、万が一にでも何かにぶつからないよう開けられたドアをくぐる。
来た道を引き返そうと振り向けば、俺と入れ違いに先ほど俺に会いに来た例のおどおどした男が慌てた様子で部屋に入っていった。
(やばっ、抜け出したのバレたか?)
「なんだ?」
「アルロ様、申し訳ありませんっ! 鍵、あの、へ、部屋の鍵をどこかに落としてしまってっ」
あ、それはここにあります。とは言えず、とりあえず抜け出したことはバレていなそうだと踏んで早歩きでその場を後にする。
……報告を受けたアルロが顔色を変えたのを見るに、俺らを攫ったのは彼なのかもしれない。
(身代金目的なんかじゃなさそうだ。でも、余計理由がわからない。だってアルロは俺のこと好きらしいのに……)
はっ、まさか俺のことが好きというのはフェイクで何か裏の目的でもあるのか?
途端に頭に浮かぶのは「人体実験」だとか「なんかやばいとこに売り飛ばされる」だとかいう物騒な単語。
ますます駄目だろ! 俺だけならまだしもマリアベルもいるんだぞ。
一緒に安全に脱出とか言ってられない。彼女だけでも先に逃さないと……!
ぶるりと背中を走る悪寒に早歩きの足がもつれそうになる。ああ、なんで俺がこんな目にあってるんだ!
「! シャノン、大丈夫?」
「大丈夫、それよりマリアベル! 俺を置いて先に逃げて欲しいっ。俺らを連れてきたのは俺のクラスメイトだ。でも目的が分からない。最悪の場合を考えると……、っ!」
口調を取り繕っている暇もなく、震える手でガチャガチャと鍵を漁る。
最悪の想定をすればするほど隠せない恐怖が如実に震えに表れる。
とにかく早くマリアベルをここから出さないと、と思うのに、タイミング悪く誰かが階段を降りる音が聞こえた。
咄嗟に鍵の束をマリアベルに投げ「これを隠して一旦寝てるふりをしてて。俺がどうにかあいつの意識をこっちに集中させるから、その隙にこっそり逃げて」と告げた。
窓も通気口も存在しないこの空間ではカッコいい脱出方法なんてミリも思いつかない。闇魔法で誰にもバレずに逃げられるのは俺だけ。ならもう正面突破で脱出させるしかない。
俺なら多分どうにでもなる。チート闇魔法だって使えるし、毒を飲まされても死なない。もし腕の一本くらい折れてもあとでリアムにさえ会えたら彼に治してもらえるだろう。
……やばい、今リアムのことを考えると涙腺が緩む。
首をぶんぶんと振ってから、足音の主にバレる前に俺の部屋に潜り込んだ。鍵は彼女に投げてしまったから閉じられないけど、まあ、あの男が閉め忘れたように思ってくれることを祈ろう。
背中に足枷を隠しつつ壁際ににじり寄って目をつむる。
「……? 開いてるじゃないか。あいつめ」
……アルロだ。
ほんとはちょっと外れてて欲しかったんだけどな。この人は学園に入学して初めて声をかけてくれた人だし、俺なりに友人のひとりだと思ってた。授業中ペアになって練習したりしてたしな。
「寝ているのか? 疲れてしまった?」
人肌の温度が間近に迫る。アルロの口から聞いたこともないような甘い声が出ていて、思わず叫びそうになったが堪える。
イケメンにこんな愛しさ全開の声で話しかけられても一ミリもきゅんとしないの、完全に義兄のせいだ。
さも今起きましたと言わんばかりに殊更ゆっくり目を開けて、目の前の人を見つめる。
「……アルロ様?」
「ああ! もっと私の名前を呼んでほしい、白鷺の君……」
(誰だよ!!!!!!)
俺のどこに白要素があるんだ!
教室で会う、目が合うだけで真っ赤になっていたアルロとはまるで別人の顔でうっとりと見つめられる。きゅんとしないどころかちょっとゾワっとした。
「ここ、どこですか? 僕はなぜ……」
「シャノン、安心して! ここに私たちを脅かすものなんて存在しないから。可哀想に、きっと無理矢理婚約させられたんだろう?」
「え?」
え? 怖……なに? え? 怖いんですけど、本当にアルロ?
痛ましいものを見る顔つきで眉を顰め口元を歪めるアルロ。対する俺は頭の上に大量のクエスチョンマーク。
「ん? あ、あの?」
「見てしまったんだ、君の兄が女子生徒と何度も会っているところを。カフェで待ち合わせたり、校門近くで話していたり……。大方、彼女が本命で君は隠れ蓑なんだろう?」
……くっそ失礼だな!?
というかそれはきっとマリアベルのことだけど、リアムは二人きりで会ってたわけじゃないし、そもそもそれくらいでどうしてそんな突飛な思考になるんだ!
目の前の男が怖くて思わず後退……しようとして背後が壁なことを思い出す。
「えーと、仰っている意味がよく分かりませんが」
「君は私の憧れそのものなんだ。初めて会った時、物語の中から白鷺姫が私のために出てきてくれたのかと」
「……????」
本当に言っていることがわからない。でもただひとつ、「この人やばい」とだけ頭の中にデカデカと浮かび上がった。彼の熱に塗れた目は俺を見ているようで、その向こうを見ている。
「あのー、人身売買とか人体実験とかするおつもりは?」
「? 何の話だ? そんなこと、君にするわけがない」
「じゃあ……」
ごくりと唾を飲み込んだ瞬間、隣の部屋からガシャン! と大きな音が聞こえた。
マリアベルが鍵でも開けたか? こっそり抜け出せって言ったのにっ。
反射的に肩を震わせた俺をアルロは優しく抱きしめる。おい、やめろ!
「大丈夫かい? すまない。君を連れ出す場面を君の兄上の本命の女に見られたから、彼女も連れてきてしまったんだ」
「ほっ……、ごほん。じっ、じゃあ、その人は関係ないんですよね? 早く帰してあげてください!」
「君は……! ああ、やっぱり君が白鷺姫だ。なんて優しい……」
本命じゃないっつーの! と言いたい気持ちを無理矢理飲み込んで、ついでに鳥肌も無視してアルロにしがみつく。
こいつに甘えるふりするなんて屈辱以外の何ものでもない。でも今がチャンスだ。
顔を赤く染めるアルロを見上げた。
マリアベルにはこの隙に逃げてもらうか、それか……。
「シャノン、幸せになろう。君はここにいてさえくれればいいんだ。仕方ないんだ、正攻法は全部兄上に止められてしまったから、私は」
思考を飛ばしたその隙を見て、腕を掴んだ俺の手に彼の手が重なる。
熱烈な言葉を口にしながら段々と距離が詰まって、あれ、これまずったか? と頬が引き攣った。
まじか、最悪だ、リアムじゃない人にこんな距離まで許すなんて。
唇を噛み締めてせめてもの抵抗で顔を逸らす。頬にですら嫌だけど、こいつに唇を明け渡すのは本当に本当に本当に嫌だ。
ぎゅっと目を閉じて身体を硬くした、その時。
「……おりゃーーーーっ!! ヒロインキック!!!!」
「ぐあっ!?!」
叫び声と共にアルロの身体がぐらりと傾いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回もリアム不在ですみません、すぐ出てきます!
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