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婚約の成立
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綾乃と葛城が偽装婚約を決めたーーと言っても、もちろん未成年の2人が口約束をしたからと成立するものではない。まずはお互いの両親に話を持っていく、という形で話は落ち着いた。
しかし綾乃も葛城も婚約そのものは難しくないだろうと考えていた。梅園側は有馬より格上の葛城との繋がりを喜ぶだろうし、葛城側もこれまで婚約者を作ろうともしなかった宗谷が自ら縁談を持ち込む事を歓迎するだろうと予想できたからだ。
それよりもと、綾乃は自身の唇に手を当てた。
「そういえば葛城さま。その、柳瀬さまは私が葛城さまの婚約者になっても大丈夫なのでしょうか?」
柳瀬が葛城が跡継ぎとなる事を望んだと言っていたが、もし2人が恋人関係にあるのなら綾乃の存在は愉快なものではないだろう。彼もこの話の当事者ならば、先に話はしておくべきだ。
言外にそう伝えると、葛城は「ああ」と納得したように笑う。
「そうだね。和希は俺に婚約者ができても構わないと言うと思う。ーーけど、その後別れると言うだろうね。相手に悪いとか言って」
「え!?それでは意味がないのではないですか!?」
和希のための偽装婚約なのに別れ話に発展しては意味がない。綾乃にしてもありもしない恋情に気を使われて別れられても迷惑である。
「うん。だから梅園さんからも和希を説得してほしいんだよね。多少泣かせても構わないから」
「説得はもちろんしますけど、泣かせるつもりはありませんよ!?」
何を言い出すのかと綾乃はギョッとする。これまでの人生で人を泣かせたことなどないというのに、葛城は何をもって説得で柳瀬が泣く事態になると思っているのか。
「いや、うん。君が案外辛辣だって知ったから和希は泣くかもしれないなと思って。別に和希は普段泣くようなタイプじゃないし、涙も流さないかもしれないけどね。ただ君は、俺たちの甘さを見抜くかもしれないから」
「はあ…?」
葛城の言わんとする事がさっぱり理解できないが、とりあえず説得すればいいのだろう。あり得ないとは思うが、泣かせてもよいというのなら自信を持って説得に当たるとしよう。
何せ別れられたら本当に迷惑だからだ。不要な気遣いは自己満足でしかないので、罪悪感を消すための道具に自分を使われても困ると真剣に伝えねばなるまい。
「柳瀬さまとのお話は、両親に話をする前がいいでしょうか?」
「そうだね。今回も急になるけど、明日時間は取れるかな?」
「はい。大丈夫です」
綾乃は普段のんびりと事を構えるタイプだが、一度決めてしまえばさっさと行動に出たい派なので異論はない。
「ありがとう。俺からは今日のうちに和希に伝えるつもりだ」
「わかりました」
「最初はバタつくだろうし迷惑をかけるだろうけど、これからよろしくね婚約者殿」
「それはお互いさまです、婚約者さま」
悪戯っぽい葛城の笑みにつられて綾乃も悪戯っぽく答えた。
なんとなく、この偽装婚約も、偽装結婚もうまくいくだろうーーそんな確信が持てて、綾乃は自身の体が軽くなったような気がした。
翌日、綾乃は誠心誠意心を込めて柳瀬の説得に当たった。それはもう熱心に説得に当たった。これでもかと熱を込めに込めたので、柳瀬は泣きそうになっていたかもしれない。しかし涙は流していなかったのでセーフのはずだ。
とにかく綾乃と葛城が婚約したからと言って別れる事はないと言質は取れた。別れる場合は葛城と柳瀬双方に性格の不一致などの問題が生じた時であり、そこに綾乃の存在を関与させる事はしないときっちりきっかり約束させたのだ。
葛城からは「思った以上に効果のある説得をありがとう」と大変感謝されたので結果オーライである。
和希への説得が終わったその日すぐに綾乃も葛城も両親に婚約の話を持っていくと、双方共にやはり歓迎され、週末には両家の顔合わせとなった。両親同士の相性も良かったのか、終始顔合わせは和やかに盛り上がり、終わった頃には婚約が成立していた。
元婚約者との婚約解消よりもスピード感があったが、翌週には元婚約者の謹慎が解けると公香から連絡があったので結果的に急いで良かったのかもしれない。
もちろん事の経緯は今回の件の発案者の公香に逐一報告していた。綾乃が何度も公香に感謝の気持ちを伝えていると、「じゃあお礼に丸一日スイーツ巡りに付き合って。旅行も一緒に行こう!」と笑って言った。
それは綾乃にもご褒美なのでお礼にならない気がする。それでも公香が嬉しそうにするのなら、綾乃に否やはない。やはり綾乃にとって、公香は特別な存在だ。
もし公香に何かあればこの身を犠牲にしてでも助けよう、綾乃はこの件を通してそう決めたのだった。
しかし綾乃も葛城も婚約そのものは難しくないだろうと考えていた。梅園側は有馬より格上の葛城との繋がりを喜ぶだろうし、葛城側もこれまで婚約者を作ろうともしなかった宗谷が自ら縁談を持ち込む事を歓迎するだろうと予想できたからだ。
それよりもと、綾乃は自身の唇に手を当てた。
「そういえば葛城さま。その、柳瀬さまは私が葛城さまの婚約者になっても大丈夫なのでしょうか?」
柳瀬が葛城が跡継ぎとなる事を望んだと言っていたが、もし2人が恋人関係にあるのなら綾乃の存在は愉快なものではないだろう。彼もこの話の当事者ならば、先に話はしておくべきだ。
言外にそう伝えると、葛城は「ああ」と納得したように笑う。
「そうだね。和希は俺に婚約者ができても構わないと言うと思う。ーーけど、その後別れると言うだろうね。相手に悪いとか言って」
「え!?それでは意味がないのではないですか!?」
和希のための偽装婚約なのに別れ話に発展しては意味がない。綾乃にしてもありもしない恋情に気を使われて別れられても迷惑である。
「うん。だから梅園さんからも和希を説得してほしいんだよね。多少泣かせても構わないから」
「説得はもちろんしますけど、泣かせるつもりはありませんよ!?」
何を言い出すのかと綾乃はギョッとする。これまでの人生で人を泣かせたことなどないというのに、葛城は何をもって説得で柳瀬が泣く事態になると思っているのか。
「いや、うん。君が案外辛辣だって知ったから和希は泣くかもしれないなと思って。別に和希は普段泣くようなタイプじゃないし、涙も流さないかもしれないけどね。ただ君は、俺たちの甘さを見抜くかもしれないから」
「はあ…?」
葛城の言わんとする事がさっぱり理解できないが、とりあえず説得すればいいのだろう。あり得ないとは思うが、泣かせてもよいというのなら自信を持って説得に当たるとしよう。
何せ別れられたら本当に迷惑だからだ。不要な気遣いは自己満足でしかないので、罪悪感を消すための道具に自分を使われても困ると真剣に伝えねばなるまい。
「柳瀬さまとのお話は、両親に話をする前がいいでしょうか?」
「そうだね。今回も急になるけど、明日時間は取れるかな?」
「はい。大丈夫です」
綾乃は普段のんびりと事を構えるタイプだが、一度決めてしまえばさっさと行動に出たい派なので異論はない。
「ありがとう。俺からは今日のうちに和希に伝えるつもりだ」
「わかりました」
「最初はバタつくだろうし迷惑をかけるだろうけど、これからよろしくね婚約者殿」
「それはお互いさまです、婚約者さま」
悪戯っぽい葛城の笑みにつられて綾乃も悪戯っぽく答えた。
なんとなく、この偽装婚約も、偽装結婚もうまくいくだろうーーそんな確信が持てて、綾乃は自身の体が軽くなったような気がした。
翌日、綾乃は誠心誠意心を込めて柳瀬の説得に当たった。それはもう熱心に説得に当たった。これでもかと熱を込めに込めたので、柳瀬は泣きそうになっていたかもしれない。しかし涙は流していなかったのでセーフのはずだ。
とにかく綾乃と葛城が婚約したからと言って別れる事はないと言質は取れた。別れる場合は葛城と柳瀬双方に性格の不一致などの問題が生じた時であり、そこに綾乃の存在を関与させる事はしないときっちりきっかり約束させたのだ。
葛城からは「思った以上に効果のある説得をありがとう」と大変感謝されたので結果オーライである。
和希への説得が終わったその日すぐに綾乃も葛城も両親に婚約の話を持っていくと、双方共にやはり歓迎され、週末には両家の顔合わせとなった。両親同士の相性も良かったのか、終始顔合わせは和やかに盛り上がり、終わった頃には婚約が成立していた。
元婚約者との婚約解消よりもスピード感があったが、翌週には元婚約者の謹慎が解けると公香から連絡があったので結果的に急いで良かったのかもしれない。
もちろん事の経緯は今回の件の発案者の公香に逐一報告していた。綾乃が何度も公香に感謝の気持ちを伝えていると、「じゃあお礼に丸一日スイーツ巡りに付き合って。旅行も一緒に行こう!」と笑って言った。
それは綾乃にもご褒美なのでお礼にならない気がする。それでも公香が嬉しそうにするのなら、綾乃に否やはない。やはり綾乃にとって、公香は特別な存在だ。
もし公香に何かあればこの身を犠牲にしてでも助けよう、綾乃はこの件を通してそう決めたのだった。
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