鬼怒川さんと坊

花田トギ

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逃亡先の安らぎ

やくざでは無い2

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「ピィちゃんも元気そうですね。いつまで預かるんですっけ?」
 錆びた音の鳴る扉をあけながら、小鳥を確認する。あの騒動からもう二週間が経っていった。たった二週間、だというのに季節は一気に冬に近づいた。今ではお互いすっかり長袖だ。
「わかんない。きぬの知り合いから預かってるらしいけど……」
 ピィちゃんは横山を歓迎するように、綺麗な鳴き声で歌っている。玄関に前川がプレゼントしたスニーカーが置いてあった。その横に綺麗に自分の靴も揃えると、休日の恰好をした前川がちゃぶ台の前に立った。
 座るよう促され、腰を下ろす。
「お茶かコーヒーしかないけど」
 そう言ってやかんを火にかけようとする竜児を、前川は慌てて止める。
「そういう事したら絹田さんにバレませんか?オレを部屋にあげたって」
「ん-……なんか、きぬはもう分かってる気がするんだよね」
「え」
 防犯カメラでもついているのだろうかと怖くなって天井をしっかり見回した。
「あはは、そういうんじゃなくて。なんかあいつすごい察しが良いんだよね。いっつも」
「いつも?」
「うん、俺がもっとうんと小さい時。いくつだったかなぁ、まだ母さんが生きてた頃だから四つとか?」
 懐かしい思い出を頭に浮かべながら、竜児は笑顔を浮かべる。他愛無い過去の記憶の話は、憧憬もあるのだろうがキラキラしていた。
「――そんな時からの付き合いなんですか?」
「そうだね。なんか、ちょっと色々やらかして関西から東京に来たらしいよ。そんで母さんに気に入られて俺のお世話係って感じかな」
「それで俺が十六の時だったかな。その辺の年齢ってさ、こう、色々あるじゃん?俺も色々あってさ。それで、きぬを押し倒したんだよね、抱いてくれって」
「ええ?!」
 微笑ましい話から不穏な話を経て大人な話になってしまい、前川は純粋に驚いた。
「でもね、あいつ抱いてくれなかったんだよね」
「ど、どうして?」
「未成年だからってさ。やくざのくせに法律守るの?って聞いてやったらさ『竜児さんはやくざじゃないですから』とか言うの。やくざの息子なのに、手続きしてないから俺は違うんだってさ」
 ほっと胸を撫で下ろす。まさかここで未成年淫行の罪を聞かされてはたまらない。
「そんで十八になった時に、これで大丈夫だと思ってきぬの部屋に行こうとしたら、父親が廊下にいて。……うちの廊下すげぇ長いんだよね。ンで、広い。両脇にずらーって強面のオッサン並べる用だと思うんだけど……で、気付いたら俺はきぬに担がれて車に乗ってた」
 お湯が沸いて、二つのカップに注がれる。中にはインスタントコーヒーが入っていて、香ばしい香りが広がった。
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