冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆

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第二十四話 聞かれてる?

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 朝練が終わり部員もシバ、湊音も朝から汗だくである。
「放課後もご指導よろしくお願いします!」
「お願いします!」
 部員たちは疲れても溌剌している。若さといういうものか、とシバの隣でバテている湊音と見比べる。

「あー、そうだ。まぁ手の空いてるやつだけでいいけど昼に剣道場にこれるやつは来てくれよ」
「え? 昼は部活動の時間ではないですよ」
 湊音は水をがぶ飲みする。

「あー、その。剣道室の畳の張り替えを昼過ぎにするから。来れる人は掃除手伝ってほしい」
 湊音はびっくりして飲んでいた水を吐き出してむせる。

「張り替え?! そ、そんなの聞いて……」
「ちゃんと理事長許可済みだ」
「予算はどこから?」
「まぁその辺は後々」
 部員たちは喜んでいる。相当畳が汚かったことに不満を持っていたようだ。

「やります、やります! 部員全員やります!」
「おー! 助かるなぁ。今までの畳に感謝だ!」
「はい!」

 シバと部員だけ気合いが入ってて湊音だけ置いてけぼりである。解散して湊音とシバは変わる変わるに顧問室のシャワーを浴びる。

「おい、いきなり畳を張り替えるだなんて。ここ数年大島先生が頼んでも変わらなかったし……そう、あのジュリってやつが理事長になってから」
 湊音は上半身裸でタオルで体を拭き、ロッカーに置いていたミストを振りかける。
 それを見たシバはダダダダダっと駆け寄り湊音を壁に追いやる。

「な、な、な、な、なんだよっ!」
 と湊音が押し返すがシバはびくりともせず両腕を上げて湊音の上半身の臭いをクンクンと嗅ぐ。
 シーツに染み付いていた匂いと同じだ。タバコや元々の彼の匂いも。
 シバはまたこの匂いを嗅いであの夜の方が蘇る。

 あの時と同じ匂い。タバコや酒の匂い、そして体液の匂い、頭皮の匂い。

 抱きしめた時、湊音のシバに委ねている顔。

「だからやめろって!」
 今度押し返された時は油断していたのかシバは後ろによろめいた。

「ほんとセクハラだぞ!」
「……前も聞いたが、その……お前はコンドームやローション常備してるって、相手がいるのか?」
 湊音は赤面した。顔は怒っている。

「だからそんなの答える義務はないだろ?」
「いくらなんでも常備、コンドームだけならまだしもローション……」
「ああ。いるよ! 男で」
「……恋人か?」
 シバはそう聞くと湊音は俯いてしばらくしてから首を横に振る。

「恋人かどうかわからん」
「は? ただのセフレか?」
「……」
「ほぉ、セフレかぁ……そりゃこんな立派なもん持ってるもんな」
「これ以上変なことすると大声出しますよ」
「……」
 シバは黙って湊音から離れた。

「あくまでも君と僕は剣道部顧問、剣道部再建、ビジネスパートナーだ! 認めたくないけど理事長が採用したわけだし、悔しいが僕だけでは無理だから我慢しているわけだ!」
 湊音は慌てて上の服を着てダーっと話し始める。

「それに、勝手に畳の入れ替えだなんて。何がどうなってんだか知りませんけどビジネスパートナーになった以上、僕に相談なしで勝手にやめてほしい。それに僕だって長年大島先生のそばについていた。ちゃんとホウレンソウを徹底しろ! 警察官で優秀だがなんだか知らんけどそれくらいしろ!」
 捲し立ててゼーゼー言う湊音。シバは呆気に取られてる。
 そして荷物を持ち部屋を出る前に

「あとプライベートのことは踏み入れないでくれ!」
「そ、そんな……てか、その……」
 シバが静止しようとしたが無駄で、湊音はドアを閉めて去っていった。

「なんだあいつ……シャワー浴びたのにまたダッシュして出たったよ」
 プルルルル

 シバのスマホじゃない。用務員用として校内専用のスマホをジュリから渡されていたことを思い出した。(これこそ館内放送システム使えばいいのに)

『朝の練習は終わったかしら? いつまでも顧問室でちちくりあってないで。まだやることはあるわよ』
「ち、ちちくりあってませんって!」

 シバは顧問室にはカメラはないと言われていたもののキョロキョロしてカメラを探すがなさそうである。

『湊音先生が全速力で剣道室から走ってくる様子が見えたんだけど? まぁ湊音先生も難しい先生だから……変なのに手を出しちゃったわねー』
 の受話器越しにいるジュリもだいぶ変なものだとシバは口から出そうになったが抑え込む。

『ちょっと今日は来客があってね。是非ともシバに会って欲しいの』
「来客……掃除と昼からは畳の搬入もあるしよーツメツメだな、スケジュール」
『文句を言わない。あなたにどうしてもあって欲しいの』
「誰なんだよ。超絶美人の姉ちゃんなら……おっと」
 シバの欲望がつい。やや間があったがジュリは笑った。

『そうね、美人よ。その前に用務員さんとしてのお仕事、終わらせてちょうだいね』
 通話は切れた。

「美人、まじか……」
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