上 下
41 / 56
2021

遅めの春

しおりを挟む
 シバは笑いながらソファーにどかっと座った。
「うまかった、ご飯。ありがとうな。でもさ今日は泊められないって。それに明里には嫌いじゃないけど付き合う事はできませんってさ」
「フラれたってことね……」
 そう李仁がいうと一気にガクッと肩を落とすシバ。そしてすかさず床に土下座する。
「頼む、しばらく家にいさせてくれ! この通りだ!」
「どうしよう、李仁」
 湊音は土下座するシバを可哀想な目で見る。李仁は作戦失敗だと彼もがっかりしている。

「もう他に当てがここしかない。俺、明里が一番好きだった……子供たちも懐いてるし、こんなみじめな俺に対してしっかり人として対応してくれてて……」
「でも、少し前まで他の女の子の家にいたわよね」
「行くあてもない俺を捨てる女なんて最低だよ」
 シバはワンワンと泣き出した。湊音が背中を撫でている。
「ねぇ李仁、可哀想だよシバが」
「……ほんと情けない」
 すると誰かのスマホから着信があった。李仁のスマホである。

「明里だわ……」
 シバはそれを聞くと立ち上がって涙を拭く。李仁はスピーカーモードにしてみんなが聴けるようにした。

『李仁さん、こんばんは。今日はありがとう。美味しかったです。あ、湊音くんもいるかな』
「うん、いるわよ。それと……」

『シバくんもだよね……』
「明里!!!」

「ねぇ、明里ちゃん。シバのどこがだめだったの?」
『いや、ダメとかじゃなくてさ……そのさ、20代の頃だったら良かったと思うよ。頼もしくて明るくて……まぁ女にはだらしないけど』
 その言葉にシバはアチャーという顔をする。

『今はバツイチで子供二人いる……そんな私が好きです、すぐ付き合いましょう、同棲しますとはいかないの……シバくんには結構お世話になってて子供たちも懐いているけどさ』
「……明里。俺も子供たち……斗真、竜星好きだ。もちろん明里もだよ。フラフラして情けない男だが……今はもう明里だけだ。好きなのは」
 シバがスマホを取り上げて真剣に話し出した。

「なにこれ……シバ本気じゃん」
 湊音はその様子を見てぽろっとこぼした。

『ねぇ、ビデオモードにして』
「お、おう。李仁、これはどうするんだ?」
 李仁に聞いてスマホの通話モードからビデオ通話モードに変えた。
 どうやら今は明里一人のようだ。シバは真剣に画面に映る明里を見る。

「……まぁ身体の関係は一回あったけどさ、でもその関係だけでなくて、託児として雇われてる関係だけでもなくて、明里と共に暮らしていきたい」
『シバくん……』
「女にだらしない俺だけども……」
 明里とシバだけの会話に李仁と湊音は少し遠まきに見ている。

「あっちの家でやればいい話なのに」
「まぁ、李仁。見守っていようよ」
 李仁はおもしろくないようだ。

『……別に嫌いって言ったわけじゃないし、フったつもりもないから』
「えっ、俺はフられてないの?!」
『そうよ。でもまだ同棲とかは先の話だけどさ』
「いや、住むところなくて困ってて……」
『だからといってすぐ同棲ないから』
「そ、そんなぁー」
『李仁さんと湊音くんのお家に居させてもらったら?』
 シバは李仁と湊音たちの方を見る。二人は見つめあった。

「まぁしょうがないわね。明里さんと付き合うまで」
「……そうだね。李仁がいいって言うなら」

 シバはよっしゃとガッツポーズをして飛び跳ねる。明里と少し話をし、終わらせて李仁にスマホを返した。

「いやー、早とちりだったわ~明里は俺と付き合うけど、少しずつ距離縮めていく感じ……なんかこんな恋愛、新鮮だなぁーってことで……」
「ことで?!」
 と李仁と湊音は同時に声が出た。

「しばらくはよろしくお願いしまーす!」
 シバは二人に頭を下げた。

「はいはい、よろしくね」
「よろしくね」

 ということで男3人の同居生活が始まった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

子持ち人妻Ωが拉致されて○○暴行されるだけ

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:14

きつく縛って、キスをして

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:224

地味でさえない会社の先輩にうっかりはまってしまった話

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:136

彼氏持ち大学生がストーカー犯に遭遇して人生終わる話

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:25

きつく縛って、キスをして【2】

BL / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:182

ドMの狗のしつけ方

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:28

NTRハッピーエンド

BL / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:296

処理中です...