何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ

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第四十話 選んだ国

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第四十話 選んだ国

 

 期限の朝は、驚くほど静かだった。

 王城の中庭には、
 いつも通りの人の往来があり、
 鐘の音も、
 いつもと同じ時刻に鳴った。

 世界は、
 王国の判断など待っていない。

 

 王太子は、
 執務室で一通の文書を前にしていた。

 内容は、
 長くない。

 条件の受諾。
 限定的な参加。
 発言権の範囲。

 すべて、
 完全ではない。

 だが――
 空白ではない。

 

「……送ってくれ」

 静かな声だった。

 側近は、
 一瞬だけ躊躇い、
 それから深く頷く。

「はい」

 文書は、
 封をされ、
 使者の手に渡る。

 

 それだけで、
 何かが劇的に変わるわけではない。

 誰も、
 そう思っていなかった。

 

 一方、帝国。

 期限の刻限を前に、
 宰相府では淡々と業務が続いていた。

「王国からの返答は?」

「届きました」

 書簡が、
 机の上に置かれる。

 ネフェリアは、
 それを開き、
 一読する。

 

「……異議ではない。
 だが、
 沈黙でもありませんね」

 誰にともなく、
 そう呟く。

 

「扱いは?」

「参加国です」

 即答だった。

「条件通りに。
 例外は設けません」

 それで十分だった。

 帝国は、
 王国を救ったわけではない。

 ただ、
 選んだ意思を、
 記録しただけだ。

 

 数日後。

 新協定の参加国一覧が、
 公表された。

 そこに、
 王国の名はあった。

 主導国ではない。
 中心でもない。

 だが――
 欄外ではない。

 

 王国では、
 静かな反応が広がっていた。

「……参加している?」

「条件付き、ですが」

「でも、
 関与はできる」

 歓声は上がらない。
 祝宴もない。

 だが、
 安堵の息が、
 あちこちで漏れた。

 

 王太子は、
 報告を受け、
 小さく息を吐いた。

「……戻った、
 とは言えないな」

 側近が、
 静かに答える。

「はい。
 ですが……」

「はい」

「戻ろうとした、
 とは言えます」

 

 その言葉に、
 王太子は、
 しばらく黙った。

 

「……それで、
 十分だ」

 

 同じ頃、帝国。

 ネフェリアは、
 新しい予定表に
 目を通していた。

 王国との連絡窓口。
 確認期限。
 次回調整。

 すべて、
 実務的な項目だ。

 

「……選ぶ、
 というのは」

 彼女は、
 ペンを置き、
 小さく呟く。

「正解を選ぶことではありません」

「結果を、
 引き受けると
 決めることです」

 

 王国は、
 かつての立場には戻らない。

 失った時間も、
 消えない。

 だが――
 選ばない国ではなくなった。

 

 それは、
 劇的な逆転でも、
 甘い救済でもない。

 ただ、
 盤の上に、
 もう一度、
 自分の手を伸ばしただけだ。

 

 選択肢は、
 少ない。

 条件も、
 厳しい。

 それでも、
 次の局面で、
 また選ぶことはできる。

 

 王国は、
 静かに、
 歩みを再開する。

 誰かに導かれるのではなく、
 誰かに任せるのでもなく。

 自分で選ぶ国として。

 

 それが、
 この物語の、
 最初で最後の
 “ざまぁ”だった。

 ――
 何も決めなかった過去に対する、
 静かな、
 しかし確かな決別として。
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