婚約破棄された公爵令嬢は厨二病でした。私は最後までモブでいたい』

第20話 王家の名の下に

第20話　王家の名の下に

王太子ダイナスティは、決意していた。

（……これ以上……
　学園が……
　好き勝手……
　するなら……）

（……王家として……
　正す……）

それは、彼にとって自然な発想だった。

なぜなら――
これまでの人生で、
「王家の名」を出して解決しなかった問題など、
存在しなかったからだ。


---

書状は、即日用意された。

宛先は、
王立聖女学園 学園長。

内容は、
簡潔で、
そして――
一方的だった。

> 王家の権限に基づき、
王太子による聖女教育への正式関与を再開する。

また、学園内における
「不明瞭な身分・立場の生徒」について
速やかに報告を求める。



――要するに。

学園の自治を認めない
生徒の匿名性を否定する
王太子が再び「選別」する

そう宣言する文面だった。

ダイナスティは、
書状に目を通し、
満足そうに息を吐いた。

（……これで……
　逃げ場は……
　ない……）

（……誰も……
　逆らえない……）

彼は、
自分が何を壊そうとしているのか、
まったく理解していなかった。


---

その書状が届いたのは、
翌朝。

学園長室。

学園長は、
静かに文面を読み終え、
そっと書状を机に置いた。

「……なるほど……」

その表情に、
怒りはなかった。

代わりにあったのは、
深い失望だった。

「……ここまで……
　分からぬか……」

同席していた教師Aが、
控えめに口を開く。

「……殿下……
　完全に……
　越えては……
　ならない……
　線を……」

「……ええ……」

学園長は、
静かに頷いた。

「……王立……
　ではありますが……」

「……ここは……
　“王家の私物”……
　では……
　ありません……」

書状を指先で叩く。

「……聖女教育は……
　国家の……
　基盤……」

「……だからこそ……
　“独立性”……
　が……
　保証……
　されている……」

教師たちが、
一斉に頷いた。

「……これは……」

学園長は、
ゆっくりと結論を出す。

「……正式な……
　“介入拒否”……
　案件です……」

沈黙。

だが、
迷いはなかった。


---

その日の午後。

学園内には、
静かな、
しかし決定的な通知が回った。

> 王立聖女学園は、
王家権限による直接介入を
学園規約に基づき拒否する。

以後、
王太子による学園内活動は
規定範囲に限定される。



それは、
事実上の――

公式な拒絶。


---

ダイナスティは、
その通知を受け取った瞬間、
言葉を失った。

「……拒否……？」

（……あり得ない……）

（……王家……
　だぞ……）

側近が、
青ざめた顔で報告する。

「……学園は……
　法的に……
　正しい……
　と……」

「……教育……
　独立権……
　が……」

「……黙れ……！」

ダイナスティは、
机を蹴り倒した。

「……俺は……
　王太子だ……！」

「……拒否……
　される……
　はずが……
　ない……！」

だが――
拒否された。

それが、
現実だった。


---

その噂は、
一瞬で広がる。

「……学園……
　王家……
　断った……
　らしい……」

「……前代……
　未聞……」

「……殿下……
　完全に……
　やらかした……」

生徒たちは、
もはや隠さなかった。

恐れは、
消えていた。

なぜなら――
守られている
と、
はっきり示されたから。


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令嬢Cは、
その通知を読み、
静かに息を吐いた。

（……終わりました……）

友人1が、
目を丸くする。

「……え……
　王家……
　断られた……？」

友人2が、
信じられない、
という顔をする。

「……そんな……
　こと……
　ある……？」

友人3は、
小さく笑った。

「……あるんだね……」

令嬢Cは、
小さく頷いた。

「……学園は……
　守るべき……
　ものを……
　守った……
　だけ……」

（……これで……）

（……私が……
　前に……
　出る……
　必要は……
　なくなりました……）

彼女は、
心の底から、
安堵していた。


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その頃。

エスカレードは、
どこか誇らしげに、
この事態を受け止めていた。

（……やはり……）

（……これは……
　異世界の……
　均衡……）

（……王家が……
　踏み込み……
　過ぎた……
　結果……）

――完全に、
別の意味で、
理解していた。

だが、
結果だけ見れば、
彼女は“正しい側”に立っていた。


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そして。

アルテッツァは、
一人、
中庭で空を見上げていた。

（……怖かった……）

（……でも……
　学園が……
　守って……
　くれた……）

胸に、
初めて、
「安心」が芽生える。

（……私……）

（……一人じゃ……
　なかった……）

その瞬間。

聖女としてではなく、
一人の人間として、
彼女は初めて、
ここに立てた気がした。


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こうして。

王太子は、王家権限を持ち出し

学園は公式にそれを拒否し

王子は完全に公的権威を失い

生徒と教師は守られ

令嬢Cは表に出ずに勝利し

アルテッツァは解放され

エスカレードは勘違いのまま英雄気分