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第22話 奇跡は名乗らない
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第22話 奇跡は名乗らない
その日は、静かな始まりだった。
王太子ダイナスティが学園から事実上排除された翌日。
騒ぎが起きるかと思われた学園は、意外なほど落ち着いていた。
むしろ――
重しが外れたように、空気が軽い。
(……嵐の後……
というより……
嵐が……
いなくなった……
感じ……)
令嬢Cは、廊下を歩きながら、そう感じていた。
友人1と友人2が、小声で話す。
「……殿下……
もう……
来ない……
らしい……」
「……学園……
平和……
だね……」
友人3が、肩をすくめる。
「……王子様……
いない方が……
静か……」
令嬢Cは、何も言わない。
(……ええ……
平和です……)
(……でも……
“揺り戻し”……
は……
来ます……)
その予感は、外れなかった。
---
その日の昼過ぎ。
学園の一角、
聖女実習用の温室で、異変が起きた。
「……え……?」
「……これ……
枯れて……
なかった……?」
温室は、
本来、聖女候補が「浄化」や「回復」を学ぶ場。
だが最近、
土壌の劣化が進み、
植物の多くが枯れ始めていた。
「……原因……
不明……」
「……聖力……
足りない……
のかな……」
教師たちも、
首を傾げていた。
そこに――
アルテッツァが、立っていた。
「……私……
やって……
みます……」
声は、まだ震えている。
だが、逃げてはいなかった。
(……アルテッツァ様……)
令嬢Cは、
少し離れた場所で、
様子を見ていた。
(……頑張って……
います……)
アルテッツァは、
そっと手をかざし、
祈る。
――光。
確かに、
聖力は発動した。
だが。
植物は、
ぴくりとも、
動かない。
沈黙。
「……あ……」
アルテッツァの顔が、
青ざめる。
「……やっぱり……
私……」
「……大丈夫……
です……」
教師Aが、
優しく声をかける。
「……これは……
難しい……
症状……」
だが、
空気は重かった。
そのとき。
「……少し……
下がって……
いただけます……?」
控えめな声が、
響いた。
全員が、
そちらを見る。
――令嬢C。
「……え……?」
「……令嬢C……?」
彼女は、
戸惑う視線を受けながら、
一歩、
前に出た。
(……しまった……)
(……言って……
しまいました……)
だが、
もう遅い。
「……危険……
では……
ありません……」
「……ただ……
少し……
“調整”……
します……」
誰も、
その意味を理解していなかった。
令嬢Cは、
膝をつき、
土に触れた。
祈らない。
詠唱しない。
ただ――
触れただけ。
その瞬間。
温室全体の空気が、
変わった。
「……え……?」
「……なに……
これ……」
乾いた土が、
しっとりと色を変え、
枯れていた植物が、
一斉に――
芽吹いた。
音もなく。
だが、
確実に。
葉が広がり、
花が咲き、
香りが満ちる。
「……っ……」
教師Aは、
言葉を失った。
(……これは……)
(……浄化……
では……
ない……)
(……“再生”……)
アルテッツァは、
目を見開いていた。
「……私……
何年……
やっても……」
「……できなかった……」
令嬢Cは、
慌てて立ち上がった。
「……あ……
あの……」
「……たまたま……
です……」
「……土の……
状態が……
良かった……
だけ……」
誰も、
信じなかった。
だが、
誰も、
追及もしなかった。
――追及できなかった。
あまりにも、
“自然”だったから。
奇跡なのに、
誇示がない。
主張がない。
ただ、
起きた。
それだけ。
---
その日の夕方。
温室の件は、
噂になった。
だが、
奇妙なことに――
大きくは広がらない。
「……なんか……
すごかった……
らしい……」
「……でも……
名前……
出てない……」
「……誰……
だった……?」
誰も、
「令嬢Cだ」と、
はっきり言わない。
言えない。
(……皆……
分かって……
いる……)
(……でも……
踏み込まない……)
令嬢Cは、
それを感じ取り、
胸を撫で下ろした。
(……よかった……)
(……まだ……
モブ……
です……)
---
その夜。
アルテッツァは、
一人、
寮の部屋で、
考え込んでいた。
(……あれ……)
(……私の……
力……
じゃ……
なかった……)
否定しない。
逃げない。
ただ、
静かに受け止める。
(……でも……)
(……あの方……)
令嬢Cの姿を、
思い出す。
控えめで、
静かで、
誰よりも、
“人”だった。
(……聖女って……)
(……ああいう……
人……
なのかも……)
その考えは、
胸に、
温かく残った。
---
その頃。
学園の外で、
ダイナスティは、
この噂を耳にする。
「……温室で……
奇跡……?」
「……誰が……?」
答えは、
なかった。
だが。
(……あいつだ……)
(……間違いない……)
確信だけが、
胸に残る。
――それが、
次なる破滅の、
引き金になるとも知らず。
---
こうして。
真の聖女の力は、名乗らずに示され
学園は静かに理解し
アルテッツァは“聖女像”を更新し
令嬢Cは、なおもモブに留まり
王子だけが、歪んだ確信を深める
その日は、静かな始まりだった。
王太子ダイナスティが学園から事実上排除された翌日。
騒ぎが起きるかと思われた学園は、意外なほど落ち着いていた。
むしろ――
重しが外れたように、空気が軽い。
(……嵐の後……
というより……
嵐が……
いなくなった……
感じ……)
令嬢Cは、廊下を歩きながら、そう感じていた。
友人1と友人2が、小声で話す。
「……殿下……
もう……
来ない……
らしい……」
「……学園……
平和……
だね……」
友人3が、肩をすくめる。
「……王子様……
いない方が……
静か……」
令嬢Cは、何も言わない。
(……ええ……
平和です……)
(……でも……
“揺り戻し”……
は……
来ます……)
その予感は、外れなかった。
---
その日の昼過ぎ。
学園の一角、
聖女実習用の温室で、異変が起きた。
「……え……?」
「……これ……
枯れて……
なかった……?」
温室は、
本来、聖女候補が「浄化」や「回復」を学ぶ場。
だが最近、
土壌の劣化が進み、
植物の多くが枯れ始めていた。
「……原因……
不明……」
「……聖力……
足りない……
のかな……」
教師たちも、
首を傾げていた。
そこに――
アルテッツァが、立っていた。
「……私……
やって……
みます……」
声は、まだ震えている。
だが、逃げてはいなかった。
(……アルテッツァ様……)
令嬢Cは、
少し離れた場所で、
様子を見ていた。
(……頑張って……
います……)
アルテッツァは、
そっと手をかざし、
祈る。
――光。
確かに、
聖力は発動した。
だが。
植物は、
ぴくりとも、
動かない。
沈黙。
「……あ……」
アルテッツァの顔が、
青ざめる。
「……やっぱり……
私……」
「……大丈夫……
です……」
教師Aが、
優しく声をかける。
「……これは……
難しい……
症状……」
だが、
空気は重かった。
そのとき。
「……少し……
下がって……
いただけます……?」
控えめな声が、
響いた。
全員が、
そちらを見る。
――令嬢C。
「……え……?」
「……令嬢C……?」
彼女は、
戸惑う視線を受けながら、
一歩、
前に出た。
(……しまった……)
(……言って……
しまいました……)
だが、
もう遅い。
「……危険……
では……
ありません……」
「……ただ……
少し……
“調整”……
します……」
誰も、
その意味を理解していなかった。
令嬢Cは、
膝をつき、
土に触れた。
祈らない。
詠唱しない。
ただ――
触れただけ。
その瞬間。
温室全体の空気が、
変わった。
「……え……?」
「……なに……
これ……」
乾いた土が、
しっとりと色を変え、
枯れていた植物が、
一斉に――
芽吹いた。
音もなく。
だが、
確実に。
葉が広がり、
花が咲き、
香りが満ちる。
「……っ……」
教師Aは、
言葉を失った。
(……これは……)
(……浄化……
では……
ない……)
(……“再生”……)
アルテッツァは、
目を見開いていた。
「……私……
何年……
やっても……」
「……できなかった……」
令嬢Cは、
慌てて立ち上がった。
「……あ……
あの……」
「……たまたま……
です……」
「……土の……
状態が……
良かった……
だけ……」
誰も、
信じなかった。
だが、
誰も、
追及もしなかった。
――追及できなかった。
あまりにも、
“自然”だったから。
奇跡なのに、
誇示がない。
主張がない。
ただ、
起きた。
それだけ。
---
その日の夕方。
温室の件は、
噂になった。
だが、
奇妙なことに――
大きくは広がらない。
「……なんか……
すごかった……
らしい……」
「……でも……
名前……
出てない……」
「……誰……
だった……?」
誰も、
「令嬢Cだ」と、
はっきり言わない。
言えない。
(……皆……
分かって……
いる……)
(……でも……
踏み込まない……)
令嬢Cは、
それを感じ取り、
胸を撫で下ろした。
(……よかった……)
(……まだ……
モブ……
です……)
---
その夜。
アルテッツァは、
一人、
寮の部屋で、
考え込んでいた。
(……あれ……)
(……私の……
力……
じゃ……
なかった……)
否定しない。
逃げない。
ただ、
静かに受け止める。
(……でも……)
(……あの方……)
令嬢Cの姿を、
思い出す。
控えめで、
静かで、
誰よりも、
“人”だった。
(……聖女って……)
(……ああいう……
人……
なのかも……)
その考えは、
胸に、
温かく残った。
---
その頃。
学園の外で、
ダイナスティは、
この噂を耳にする。
「……温室で……
奇跡……?」
「……誰が……?」
答えは、
なかった。
だが。
(……あいつだ……)
(……間違いない……)
確信だけが、
胸に残る。
――それが、
次なる破滅の、
引き金になるとも知らず。
---
こうして。
真の聖女の力は、名乗らずに示され
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