婚約破棄された公爵令嬢は厨二病でした。私は最後までモブでいたい』

ふわふわ

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第23話 最後の策

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第23話 最後の策

王太子ダイナスティは、もはや学園にいなかった。

正確に言えば――
いられなかった。

学園からの公式な「関与制限」。
教師会と生徒会の一致した対応。
アルテッツァの拒絶。
そして、名も知らぬ“誰か”の奇跡。

(……全て……
 奪われた……)

王太子という肩書きは、まだ残っている。
だが、それは“形”だけだった。

誰も、彼に従わない。
誰も、彼の判断を仰がない。
誰も、彼を中心に世界を回さない。

(……ならば……)

(……世界の方を……
 動かす……)

それが、彼の導き出した結論だった。


---

王城・王太子執務室。

夜更け。
灯りは一つだけ。

ダイナスティは、机に広げられた古い文書を睨みつけていた。

(……聖女認定権……)

王国には、古くから伝わる慣習がある。

「聖女は王家が認める存在である」

だが、それは同時に――
王家が“認定を撤回できる”ことも意味していた。

(……学園が……
 拒否する……
 なら……)

(……王国全体で……
 決める……)

彼の最後の策は、単純だった。

王国主導で「真の聖女認定式」を行う
その場で“真の聖女”を確定させる
学園の判断を無効化する

そのために必要なのは――
大衆と貴族の前での“奇跡”。

(……アルテッツァ……
 では……
 弱い……)

あの日の温室。
確かに奇跡は起きた。

だが、それは――
アルテッツァの力ではなかった。

(……ならば……)

(……あの……
 名も……
 立場も……
 曖昧な……
 存在……)

「……令嬢C……」

その名を、
彼は初めて、
はっきりと口にした。

(……あいつを……
 引きずり出す……)

(……公の場へ……)

(……名を……
 晒し……)

(……選ばせる……)

それが、彼の最後の策。

自分が「選ぶ側」であることを、世界に示すための舞台。


---

数日後。

王都に、公式な告知が出された。

> 王家主催
「聖女認定式」

王国の未来を担う
真の聖女を
公の場で認定する。



その告知は、
瞬く間に広がった。

「……聖女……
 認定式……?」

「……今さら……?」

「……学園……
 無視……?」

ざわめきは、
不安と疑問を含んでいる。

だが、
“王家主催”という言葉は、
無視できない重みを持っていた。


---

学園。

教師Aは、
掲示を見て、
静かに息を吐いた。

「……来ましたね……」

学園長も、
苦い表情を浮かべる。

「……最悪の……
 選択……」

「……だが……」

「……止められません……
 形式上は……」

彼らは理解していた。

これは――
王太子個人の暴走。

だが、
“王家の名”を使われれば、
完全には拒めない。

「……だからこそ……」

学園長は、
静かに言った。

「……我々は……
 “見守る”……」

「……そして……」

「……真実が……
 露わになるのを……」


---

その知らせは、
令嬢Cの耳にも届いた。

(……やはり……
 来ましたか……)

彼女は、
静かに目を閉じる。

(……殿下は……)

(……最後まで……
 “選ぶ側”……
 で……
 いたい……
 のですね……)

友人たちが、
不安げに集まる。

「……ねえ……
 これ……
 大丈夫……?」

「……また……
 巻き込まれ……
 ない……?」

令嬢Cは、
少しだけ微笑んだ。

「……大丈夫……
 です……」

(……もう……
 舞台は……
 整いました……)

(……私は……
 前に……
 出ません……)

(……でも……
 逃げもしません……)

それが、
彼女の選択だった。


---

アルテッツァも、
この告知を受け取り、
長い沈黙の後、
静かに呟いた。

「……殿下……
 まだ……
 諦めて……
 いない……」

だが、
もう恐れはなかった。

(……私は……
 もう……
 決めた……)

(……私は……
 “選ばれる”……
 存在では……
 ない……)

(……選ぶ……
 側でも……
 ない……)

(……ただ……
 自分で……
 立つ……)

彼女は、
その式に――
自分の意思で出席することを決める。


---

そして。

王城の高い塔で。

ダイナスティは、
王都を見下ろしていた。

(……これが……
 最後……)

(……ここで……
 全てを……
 取り戻す……)

彼は、
確信していた。

――この式で、
――全てが逆転する。

――自分は再び、
――“選ぶ側”へ戻る。

だが。

その確信こそが、
最大の勘違いであることを、
彼は、
まだ知らない。


---

こうして。

王子は最後の策「聖女認定式」を打ち

学園は静観を選び

アルテッツァは覚悟を固め

令嬢Cは逃げず、名乗らず、ただ立つことを選ぶ

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