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第26話 決定打――公式の場で明かされる差
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第26話 決定打――公式の場で明かされる差
王都の大広間は、久しぶりに華やいでいた。
各地の貴族、商人代表、外交使節。
立場も目的も異なる者たちが、一堂に会している。
名目は――
経済状況の共有と、今後の方針説明。
だが、実際のところ、
多くの者が、ある一点に注目していた。
(……どう説明するつもりだ)
王太子アレクシオンは、
玉座の前に立ちながら、内心でそう思っていた。
最近の混乱。
噂の反転。
そして――
“隣国との差”。
隠しきれない。
だからこそ、
今日の場で、
“王都は健在だ”と示す必要がある。
「……では、
本年度の施策について説明する」
アレクシオンは、
用意された原稿を読み上げ始めた。
言葉は、丁寧だ。
内容も、間違ってはいない。
だが――
どこか、抽象的だった。
「今後は、各部門の連携を強化し……」
貴族たちの反応は、静かだ。
頷く者もいる。
だが、
目は、冷静だった。
(……具体性が、ない)
そう感じている者は、少なくない。
説明が終わり、
質疑応答の時間に入る。
最初に手を挙げたのは、
商人組合の代表だった。
「殿下。
港湾部の遅延についてですが……」
会場の空気が、張り詰める。
「今後、どのような改善策を?」
アレクシオンは、
一瞬、言葉に詰まった。
「……現在、検討中で――」
その瞬間。
「失礼いたします」
澄んだ声が、
会場に響いた。
全員の視線が、
入口へ向かう。
そこに立っていたのは――
グラーフ公爵夫妻だった。
ざわめきが、広がる。
(……なぜ、ここに)
アレクシオンの背に、
冷たい汗が伝った。
アレスト・グラーフは、
落ち着いた足取りで前へ進み、
一礼する。
「本日は、
隣国代表として、
状況共有のため参上しました」
その隣に、
リオネッタ・ラーヴェンシュタインが立つ。
静かな佇まい。
だが、
視線は、揺るがない。
「……発言を許可する」
アレクシオンは、
硬い声で告げた。
アレストは、
短く頷き、
隣のリオネッタに視線を送る。
「では、
こちらから、
現状報告を」
リオネッタが、
一歩前に出た。
会場が、静まり返る。
「グラーフ公爵領では、
港湾遅延への対策として、
通行税の一時調整と、
優先処理制度を導入しました」
明確な数字。
具体的な期限。
誰もが、
“分かる”説明。
「結果として、
現在、遅延は解消傾向にあります」
ざわめきが、
抑えきれなくなる。
「……すでに?」
「こちらは、まだ……」
比較は、
あまりにも残酷だった。
リオネッタは、続ける。
「また、部門間の調整については、
窓口を一本化し、
判断の遅れを防いでおります」
それは――
王城が、
“できていないこと”。
誰もが、理解していた。
説明が終わる。
静寂。
そして――
拍手。
控えめだが、
確かな拍手。
それは、
個人への称賛ではない。
結果への評価だった。
アレクシオンは、
その音を聞きながら、
動けずにいた。
(……これは)
偶然ではない。
彼女は、
“その場しのぎ”で話していない。
日常的に、
積み上げてきた結果を、
淡々と示しただけだ。
質疑応答。
今度は、
別の貴族が手を挙げた。
「……王太子殿下」
視線が、
アレクシオンに集まる。
「隣国では、
元王城関係者である彼女が、
これほどの成果を上げています」
一瞬の沈黙。
「我が国では、
なぜ、同様の動きが
できていないのでしょうか」
その問いは、
非難ではなかった。
だが――
逃げ場も、なかった。
「……それは」
言葉が、続かない。
誰も、助け舟を出さない。
なぜなら――
答えは、
皆、分かっているからだ。
会は、
形式的に締めくくられた。
だが――
その場にいた者たちの中で、
一つの認識が、
完全に共有された。
――差は、
偶然ではない。
――人の違いだ。
会場を後にする途中。
リオネッタは、
ふと、立ち止まった。
振り返ると、
そこに、アレクシオンが立っていた。
一瞬、
目が合う。
だが、
言葉は、交わさない。
彼女は、
軽く一礼し、
そのまま、去っていった。
それだけ。
それだけで、
十分だった。
アレクシオンは、
その背中を見送りながら、
理解した。
(……終わった)
取り繕いも、
言い訳も、
もう、意味を持たない。
公式の場で、
差は、明確に示された。
そして、それは――
誰の手も借りない、
最も完璧な“ざまぁ”だった。
---
王都の大広間は、久しぶりに華やいでいた。
各地の貴族、商人代表、外交使節。
立場も目的も異なる者たちが、一堂に会している。
名目は――
経済状況の共有と、今後の方針説明。
だが、実際のところ、
多くの者が、ある一点に注目していた。
(……どう説明するつもりだ)
王太子アレクシオンは、
玉座の前に立ちながら、内心でそう思っていた。
最近の混乱。
噂の反転。
そして――
“隣国との差”。
隠しきれない。
だからこそ、
今日の場で、
“王都は健在だ”と示す必要がある。
「……では、
本年度の施策について説明する」
アレクシオンは、
用意された原稿を読み上げ始めた。
言葉は、丁寧だ。
内容も、間違ってはいない。
だが――
どこか、抽象的だった。
「今後は、各部門の連携を強化し……」
貴族たちの反応は、静かだ。
頷く者もいる。
だが、
目は、冷静だった。
(……具体性が、ない)
そう感じている者は、少なくない。
説明が終わり、
質疑応答の時間に入る。
最初に手を挙げたのは、
商人組合の代表だった。
「殿下。
港湾部の遅延についてですが……」
会場の空気が、張り詰める。
「今後、どのような改善策を?」
アレクシオンは、
一瞬、言葉に詰まった。
「……現在、検討中で――」
その瞬間。
「失礼いたします」
澄んだ声が、
会場に響いた。
全員の視線が、
入口へ向かう。
そこに立っていたのは――
グラーフ公爵夫妻だった。
ざわめきが、広がる。
(……なぜ、ここに)
アレクシオンの背に、
冷たい汗が伝った。
アレスト・グラーフは、
落ち着いた足取りで前へ進み、
一礼する。
「本日は、
隣国代表として、
状況共有のため参上しました」
その隣に、
リオネッタ・ラーヴェンシュタインが立つ。
静かな佇まい。
だが、
視線は、揺るがない。
「……発言を許可する」
アレクシオンは、
硬い声で告げた。
アレストは、
短く頷き、
隣のリオネッタに視線を送る。
「では、
こちらから、
現状報告を」
リオネッタが、
一歩前に出た。
会場が、静まり返る。
「グラーフ公爵領では、
港湾遅延への対策として、
通行税の一時調整と、
優先処理制度を導入しました」
明確な数字。
具体的な期限。
誰もが、
“分かる”説明。
「結果として、
現在、遅延は解消傾向にあります」
ざわめきが、
抑えきれなくなる。
「……すでに?」
「こちらは、まだ……」
比較は、
あまりにも残酷だった。
リオネッタは、続ける。
「また、部門間の調整については、
窓口を一本化し、
判断の遅れを防いでおります」
それは――
王城が、
“できていないこと”。
誰もが、理解していた。
説明が終わる。
静寂。
そして――
拍手。
控えめだが、
確かな拍手。
それは、
個人への称賛ではない。
結果への評価だった。
アレクシオンは、
その音を聞きながら、
動けずにいた。
(……これは)
偶然ではない。
彼女は、
“その場しのぎ”で話していない。
日常的に、
積み上げてきた結果を、
淡々と示しただけだ。
質疑応答。
今度は、
別の貴族が手を挙げた。
「……王太子殿下」
視線が、
アレクシオンに集まる。
「隣国では、
元王城関係者である彼女が、
これほどの成果を上げています」
一瞬の沈黙。
「我が国では、
なぜ、同様の動きが
できていないのでしょうか」
その問いは、
非難ではなかった。
だが――
逃げ場も、なかった。
「……それは」
言葉が、続かない。
誰も、助け舟を出さない。
なぜなら――
答えは、
皆、分かっているからだ。
会は、
形式的に締めくくられた。
だが――
その場にいた者たちの中で、
一つの認識が、
完全に共有された。
――差は、
偶然ではない。
――人の違いだ。
会場を後にする途中。
リオネッタは、
ふと、立ち止まった。
振り返ると、
そこに、アレクシオンが立っていた。
一瞬、
目が合う。
だが、
言葉は、交わさない。
彼女は、
軽く一礼し、
そのまま、去っていった。
それだけ。
それだけで、
十分だった。
アレクシオンは、
その背中を見送りながら、
理解した。
(……終わった)
取り繕いも、
言い訳も、
もう、意味を持たない。
公式の場で、
差は、明確に示された。
そして、それは――
誰の手も借りない、
最も完璧な“ざまぁ”だった。
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