聖女と呼ばれたくなかった公爵令嬢は、静かにざまぁを選ぶ

ふわふわ

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第十五話 繕いきれない違和感

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第十五話 繕いきれない違和感

 最初の失敗は、教会にとって「想定外」ではあったが、「致命的」ではなかった。

 中央広場での一件は、すぐに公式発表で覆い隠された。
 ――強風による影響。
 ――聖女様の体調。
 ――奇跡は常に同じ形で現れるものではない。

 どれも、それらしく聞こえる理由だ。民衆の多くも、納得した顔で頷いた。

 だが、違和感は残った。

 「失敗した」という事実そのものよりも、「失敗しても当然だ」という説明の方が、人々の胸に引っかかっていた。

 ヘレン・バートンは、屋敷の応接室でその反応を聞いていた。
 執事の報告は、淡々としているが、内容は興味深い。

「奇跡を見に行った者たちの間で、意見が分かれています」

「分かれていますの?」

「はい。
 “聖女様でも失敗することはある”と受け止める者と、
 “以前より演出が雑になった”と感じる者が」

 ヘレンは、わずかに口元を緩めた。

(ええ、それでいいのです)

 疑念は、大きな音を立てて生まれない。
 こうして、日常会話の中に、自然に混じっていく。

 午後、教会では緊急の打ち合わせが行われていた。

「次は失敗できない」
「演出を強化しろ」
「いや、むしろ控えめにした方が……」

 聖女マルガリータは、黙ってその様子を見ていた。
 壇上で尻もちをついた感触が、まだ体に残っている。

(……おかしい)

 今までなら、問題なくできていた。
 手順も、準備も、変えていない。

 なのに、なぜ。

「マルガリータ、次は“光の奇跡”にしましょう」

 幹部の一人が、そう提案した。

「浮遊より安全ですし、失敗しても誤魔化しやすい」

「……分かりました」

 返事はしたが、胸の奥に、不安が広がる。

 夜、ヘレンは書斎で記録を整理していた。
 奇跡の種類、失敗の傾向、観衆の反応。

(次は、より小さな奇跡)

 教会は慎重になる。
 派手さを抑え、失敗のリスクを下げる。

 だが、それは同時に、奇跡の“格”を下げる行為でもあった。

「……焦り始めましたわね」

 独り言のように呟き、ペンを置く。

 数日後、教会は新たな奇跡を告知した。
 今度は、夜の祈祷会で行われる「光の祝福」。

 安全で、見栄えがよく、失敗しても理由をつけやすい。
 まさに、教会側の“修正案”だった。

 ヘレンは、その告知を見て静かに頷いた。

(ええ、その選択は正しいですわ)

 ――普通なら。

 だが、彼女がいる以上、
 “普通”にはならない。

 この失敗は、偶然ではない。
 そして次も、同じように説明されるだろう。

 だが説明が増えるほど、
 人は「なぜ説明が必要なのか」と考え始める。

 夜、王都のどこかで、誰かが囁いた。

「最近の奇跡、前ほどすごくないわよね」
「……言われてみれば」

 その小さな囁きは、
 まだ風に紛れて消える程度のものだった。

 けれど、ヘレンは知っている。

 疑念は、
 一度生まれれば、自然には消えない。

 それは、次の失敗を待っている。
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