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第二十七話 静かな余韻
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第二十七話 静かな余韻
春の気配が、王都にゆっくりと満ちてきていた。
冬の間、重く閉ざされていた空気は和らぎ、人々の会話も自然と軽くなる。教会の件が話題に上ることは、ほとんどなくなった。触れれば思い出すが、わざわざ口にするほどの熱は残っていない。
それが、完全に終わった証だった。
ヘレン・バートンは、屋敷のテラスで紅茶を飲んでいた。庭では、使用人たちが春の準備を進めている。土を耕し、枯れた枝を切り、花壇を整える。どれも地味な作業だが、確実に季節を前へ進める。
(奇跡より、こういう手間の方が大切ですわね)
前世では、人の願いを一瞬で叶える力を持っていた。だが、その力は、願いが増えるほど重くなった。今は違う。少しずつ整え、少しずつ形にする。それが、こんなにも心を穏やかにするとは思わなかった。
午後、王宮から一通の礼状が届く。内容は簡潔で、今回の混乱に際し、冷静な対応を取ったことへの感謝が述べられているだけだ。褒賞も、特別な言及もない。
ヘレンは、その文面を読み、静かに頷いた。
(これでいい)
表に立てば、また役割を背負わされる。
名前が出れば、期待が集まる。
どちらも、彼女が望むものではなかった。
夕方、屋敷の回廊を歩きながら、ふと足を止める。壁に掛けられた古い絵画――かつての聖女を描いたものだ。ヘレンヘレンの名を持つ、遠い存在。
視線を向けても、胸は騒がなかった。
(もう、他人事ですわね)
その名は、歴史の中に戻った。
今の彼女を縛るものではない。
夜、書斎で本を閉じ、灯りを落とす。静けさが、心地よい。何かを成し遂げた達成感も、誰かを倒した高揚もない。
ただ、余韻だけが残っている。
――嘘が終わり、
――役割が終わり、
――日常が戻った。
それ以上の結末は、必要なかった。
ヘレンは、窓を少しだけ開け、夜風を吸い込む。
明日も、同じ朝が来る。
同じ仕事があり、
同じ紅茶を飲む。
だが、その平凡さこそが、
今の彼女にとって、
何よりの贈り物だった。
そして物語は、
大きな音を立てることなく、
静かな余韻を残したまま、
終章へと近づいていく。
春の気配が、王都にゆっくりと満ちてきていた。
冬の間、重く閉ざされていた空気は和らぎ、人々の会話も自然と軽くなる。教会の件が話題に上ることは、ほとんどなくなった。触れれば思い出すが、わざわざ口にするほどの熱は残っていない。
それが、完全に終わった証だった。
ヘレン・バートンは、屋敷のテラスで紅茶を飲んでいた。庭では、使用人たちが春の準備を進めている。土を耕し、枯れた枝を切り、花壇を整える。どれも地味な作業だが、確実に季節を前へ進める。
(奇跡より、こういう手間の方が大切ですわね)
前世では、人の願いを一瞬で叶える力を持っていた。だが、その力は、願いが増えるほど重くなった。今は違う。少しずつ整え、少しずつ形にする。それが、こんなにも心を穏やかにするとは思わなかった。
午後、王宮から一通の礼状が届く。内容は簡潔で、今回の混乱に際し、冷静な対応を取ったことへの感謝が述べられているだけだ。褒賞も、特別な言及もない。
ヘレンは、その文面を読み、静かに頷いた。
(これでいい)
表に立てば、また役割を背負わされる。
名前が出れば、期待が集まる。
どちらも、彼女が望むものではなかった。
夕方、屋敷の回廊を歩きながら、ふと足を止める。壁に掛けられた古い絵画――かつての聖女を描いたものだ。ヘレンヘレンの名を持つ、遠い存在。
視線を向けても、胸は騒がなかった。
(もう、他人事ですわね)
その名は、歴史の中に戻った。
今の彼女を縛るものではない。
夜、書斎で本を閉じ、灯りを落とす。静けさが、心地よい。何かを成し遂げた達成感も、誰かを倒した高揚もない。
ただ、余韻だけが残っている。
――嘘が終わり、
――役割が終わり、
――日常が戻った。
それ以上の結末は、必要なかった。
ヘレンは、窓を少しだけ開け、夜風を吸い込む。
明日も、同じ朝が来る。
同じ仕事があり、
同じ紅茶を飲む。
だが、その平凡さこそが、
今の彼女にとって、
何よりの贈り物だった。
そして物語は、
大きな音を立てることなく、
静かな余韻を残したまま、
終章へと近づいていく。
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