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第1話 追放宣告のその日
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第1話 追放宣告のその日
晴れ渡った空の下、王都中央広場には、異様な静けさが漂っていた。
本来なら笑い声と噂話が飛び交うはずの昼下がり。だがこの日、集められた貴族や官僚、騎士たちは、誰一人として無駄口を叩かなかった。
視線の先――演壇の中央に立つのは、金髪をなびかせた王太子レオニス。
その隣には、見慣れぬ若い令嬢が一人、得意げな笑みを浮かべて控えている。
そして、少し離れた場所に立つのが、公爵令嬢カグラ・サクヤ。
銀色の髪を背に流し、凛と背筋を伸ばして佇むその姿は、これから断罪される者のものとは思えなかった。
「――本日をもって」
王太子の声が、広場に響き渡る。
「カグラ・サクヤとの婚約を、正式に破棄する」
一瞬、風が止んだかのように感じられた。
ざわり、と空気が揺れる。
驚き、戸惑い、そして抑えきれぬ動揺が、人々の間を走った。
だが――当の本人であるカグラは、微動だにしなかった。
ゆっくりと視線を上げ、王太子を真っ直ぐに見据える。
「理由を、お聞かせいただけますか」
その声は澄んでいた。
怒りも悲しみも含まない、ただの確認。
レオニスは一瞬、言葉に詰まったように見えたが、すぐに鼻で笑った。
「理由? 簡単なことだ。君は冷たい。可愛げがない。それに――」
言葉を区切り、隣の令嬢にちらりと視線を向ける。
「真の意味で、王太子妃にふさわしくない」
あまりにも幼稚で、あまりにも身勝手な理由だった。
周囲の貴族たちは顔をしかめ、騎士たちは視線を伏せる。
誰もが内心で思ったはずだ。
――それだけで、十年以上続いた婚約を破棄するのか、と。
だが、誰も口に出すことはできない。
それでもカグラは、静かに微笑んだ。
「左様でございますか」
彼女は一礼し、淡々と続ける。
「では、本日をもって婚約は解消。以降、私は王家と一切の関係を持たぬ身となります」
そのあまりにあっさりとした受け入れに、王太子の眉がひくりと動いた。
「……それだけでは済まぬ」
低い声が、再び広場を凍らせる。
「カグラ・サクヤ。貴様には、王都からの退去を命じる。いや――王国からの追放だ」
一斉に息を呑む音が重なった。
追放。
それは貴族にとって、名誉も地位も未来も奪われる宣告に等しい。
だが。
「……追放、ですか」
カグラは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
そして次の瞬間、顔を上げ、いつもと変わらぬ穏やかな声で答えた。
「承知いたしました。旅の準備を整え次第、王都を発たせていただきます」
ざわめきが、悲鳴のように広がった。
怒りも抗議もない。
泣き叫ぶことすらしない。
あまりに潔いその態度に、王太子の顔には苛立ちが浮かぶ。
「……随分と物分かりがいいな」
「ええ。無理に縋る趣味はございませんので」
カグラはそう言い残し、くるりと踵を返した。
誰も、彼女を引き止めることはできなかった。
――その背中を、この国が失うことになるなど、
この場にいる誰一人として、まだ理解していなかったのだから。
その日の夕刻。
王城の一角で、カグラは静かに荷をまとめていた。
部屋に残るのは、最低限の衣服と、数冊の本だけ。
宝石も装飾品も、すべて置いていく。
「お嬢様……本当に、よろしいのですか……」
震える声で問いかける侍女に、カグラは優しく微笑んだ。
「大丈夫です。心配しないで」
だが、その穏やかな時間は、扉を叩く音によって破られる。
「――入ってもよいか」
聞き慣れた、少し掠れた声。
扉の向こうに立っていたのは、現国王――レオニスの父だった。
「陛下……」
「追放など、馬鹿げた話じゃ」
国王は吐き捨てるように言う。
「あの愚か者……。だがな、カグラ。お前に伝えねばならぬことがある」
彼は、静かに周囲を見渡し、低い声で告げた。
「お前が追放された時点で、この国は終わった」
カグラは、初めて目を見開いた。
「……それは、どういう意味でございますか」
国王は苦く笑う。
「民も、貴族も、騎士も……皆、お前を選んだ」
その言葉が意味することを、カグラはまだ正確には理解できなかった。
だが――
この瞬間から、
“追放された令嬢”の物語は、
静かに、そして確実に、国家規模の転換点へと踏み出していた。
晴れ渡った空の下、王都中央広場には、異様な静けさが漂っていた。
本来なら笑い声と噂話が飛び交うはずの昼下がり。だがこの日、集められた貴族や官僚、騎士たちは、誰一人として無駄口を叩かなかった。
視線の先――演壇の中央に立つのは、金髪をなびかせた王太子レオニス。
その隣には、見慣れぬ若い令嬢が一人、得意げな笑みを浮かべて控えている。
そして、少し離れた場所に立つのが、公爵令嬢カグラ・サクヤ。
銀色の髪を背に流し、凛と背筋を伸ばして佇むその姿は、これから断罪される者のものとは思えなかった。
「――本日をもって」
王太子の声が、広場に響き渡る。
「カグラ・サクヤとの婚約を、正式に破棄する」
一瞬、風が止んだかのように感じられた。
ざわり、と空気が揺れる。
驚き、戸惑い、そして抑えきれぬ動揺が、人々の間を走った。
だが――当の本人であるカグラは、微動だにしなかった。
ゆっくりと視線を上げ、王太子を真っ直ぐに見据える。
「理由を、お聞かせいただけますか」
その声は澄んでいた。
怒りも悲しみも含まない、ただの確認。
レオニスは一瞬、言葉に詰まったように見えたが、すぐに鼻で笑った。
「理由? 簡単なことだ。君は冷たい。可愛げがない。それに――」
言葉を区切り、隣の令嬢にちらりと視線を向ける。
「真の意味で、王太子妃にふさわしくない」
あまりにも幼稚で、あまりにも身勝手な理由だった。
周囲の貴族たちは顔をしかめ、騎士たちは視線を伏せる。
誰もが内心で思ったはずだ。
――それだけで、十年以上続いた婚約を破棄するのか、と。
だが、誰も口に出すことはできない。
それでもカグラは、静かに微笑んだ。
「左様でございますか」
彼女は一礼し、淡々と続ける。
「では、本日をもって婚約は解消。以降、私は王家と一切の関係を持たぬ身となります」
そのあまりにあっさりとした受け入れに、王太子の眉がひくりと動いた。
「……それだけでは済まぬ」
低い声が、再び広場を凍らせる。
「カグラ・サクヤ。貴様には、王都からの退去を命じる。いや――王国からの追放だ」
一斉に息を呑む音が重なった。
追放。
それは貴族にとって、名誉も地位も未来も奪われる宣告に等しい。
だが。
「……追放、ですか」
カグラは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
そして次の瞬間、顔を上げ、いつもと変わらぬ穏やかな声で答えた。
「承知いたしました。旅の準備を整え次第、王都を発たせていただきます」
ざわめきが、悲鳴のように広がった。
怒りも抗議もない。
泣き叫ぶことすらしない。
あまりに潔いその態度に、王太子の顔には苛立ちが浮かぶ。
「……随分と物分かりがいいな」
「ええ。無理に縋る趣味はございませんので」
カグラはそう言い残し、くるりと踵を返した。
誰も、彼女を引き止めることはできなかった。
――その背中を、この国が失うことになるなど、
この場にいる誰一人として、まだ理解していなかったのだから。
その日の夕刻。
王城の一角で、カグラは静かに荷をまとめていた。
部屋に残るのは、最低限の衣服と、数冊の本だけ。
宝石も装飾品も、すべて置いていく。
「お嬢様……本当に、よろしいのですか……」
震える声で問いかける侍女に、カグラは優しく微笑んだ。
「大丈夫です。心配しないで」
だが、その穏やかな時間は、扉を叩く音によって破られる。
「――入ってもよいか」
聞き慣れた、少し掠れた声。
扉の向こうに立っていたのは、現国王――レオニスの父だった。
「陛下……」
「追放など、馬鹿げた話じゃ」
国王は吐き捨てるように言う。
「あの愚か者……。だがな、カグラ。お前に伝えねばならぬことがある」
彼は、静かに周囲を見渡し、低い声で告げた。
「お前が追放された時点で、この国は終わった」
カグラは、初めて目を見開いた。
「……それは、どういう意味でございますか」
国王は苦く笑う。
「民も、貴族も、騎士も……皆、お前を選んだ」
その言葉が意味することを、カグラはまだ正確には理解できなかった。
だが――
この瞬間から、
“追放された令嬢”の物語は、
静かに、そして確実に、国家規模の転換点へと踏み出していた。
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