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第14話 承認という名の檻
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第14話 承認という名の檻
グランディア王国軍が撤退してから、三日。
表向きは何事もなかったかのように、サクラ共同体の日常は続いていた。
市場では物資が行き交い、子どもたちは笑い、護衛付きの交易隊も動き始めている。
だが――
「空気が、変わりましたわね」
政庁の天幕で報告書に目を通しながら、カグラはぽつりと呟いた。
「はい」
隣に立つ補佐役が頷く。
「周辺諸国の動きが、妙に静かです。
軍も来ない。通達も出ない。
……その代わり」
「代わりに?」
「“使者”が増えています」
その言葉通りだった。
昨日は小国の外交官。
今朝は宗教都市の代表。
昼には、どこにも属さぬ学識者の一団。
いずれも敵意はない。
だが、共通点があった。
――必ず、同じ質問をする。
「あなた方は、何者なのか?」
「……答えは、ずっと同じですのに」
カグラは、机に肘をついた。
「国ではありません。
誰かに従わせる組織でもありません」
「ですが、向こうは納得しません」
「ええ。分かっています」
カグラは、ゆっくりと立ち上がった。
「彼らが欲しいのは、“説明”ではなく――」
そのとき、天幕の外がざわついた。
「カグラ様!
中央広場に、正式な使節団が到着しました!」
「どちらから?」
「……五カ国連名です」
一瞬、室内が静まり返る。
「五カ国、ですか」
(来ましたわね……“答え合わせ”が)
中央広場には、明らかに格の違う一団が並んでいた。
各国の紋章を刻んだ装束。
人数は少ないが、発する圧は強い。
その中央に立つ老紳士が、一歩前に出る。
「我々は、周辺五カ国を代表し、ここに参った」
深く、形式通りの礼。
「目的は一つ」
周囲の空気が張り詰める。
「貴方方を、
“独立自治共同体”として承認する」
どよめき。
それは、望んでいた言葉のはずだった。
だが、カグラの表情は変わらない。
「承認の条件を、お聞かせいただけますか」
老紳士は、満足そうに微笑んだ。
「話が早い」
彼は、用意していた文書を差し出す。
「・各国への定期報告
・交易税の設定
・防衛に関する相互協定
・共同体代表の明確化」
一項目ずつ、淡々と読み上げられる。
「要するに――」
老紳士は、はっきりと言った。
「“枠”に入ってもらう」
沈黙。
人々の視線が、カグラに集まる。
承認されれば、安全は増す。
交易は安定する。
軍事的な干渉も減る。
だが――
(自由は、減ります)
カグラは、文書に目を落としたまま言った。
「これは、“承認”ではありませんわね」
「ほう?」
「管理です」
老紳士の笑みが、わずかに薄れる。
「我々は、誰かの庇護を求めてここにいるわけではありません」
「だが、庇護なしでは――」
「庇護を受けた瞬間、
我々は“判断する力”を失います」
カグラは、顔を上げた。
「代表を固定しろ、とありますが」
「当然でしょう」
「では、その代表が間違えた場合、どうなりますか?」
老紳士は答えない。
「共同体は、“一人の頭”で動いていません」
「……非効率だ」
「ええ」
カグラは、微笑んだ。
「でも、壊れにくい」
老紳士は、ゆっくりと息を吐いた。
「承認を拒めば、どうなるか分かっているな?」
「ええ」
「圧力は強まる」
「承知しています」
一拍。
「それでも、拒否します」
その言葉が、広場に落ちた。
「我々は、“名前”よりも、
“選ぶ権利”を守ります」
老紳士は、しばらく黙っていたが、やがて文書を下ろした。
「……愚かだが」
振り返り、言い残す。
「その愚かさが、どこまで通じるか――
我々は、見届けよう」
使節団は、静かに去っていった。
残された人々の間に、不安が広がる。
「大丈夫、でしょうか……」
「ええ」
カグラは、はっきりと答えた。
「“承認という檻”には、入りませんでした」
空は、どこまでも高い。
サクラ共同体は、
安全を約束される代わりに自由を失う道を、
自ら断った。
そして――
次に訪れるのは、
試される時間だった。
選択が、正しかったかどうか。
世界が、それを測ろうとしている。
グランディア王国軍が撤退してから、三日。
表向きは何事もなかったかのように、サクラ共同体の日常は続いていた。
市場では物資が行き交い、子どもたちは笑い、護衛付きの交易隊も動き始めている。
だが――
「空気が、変わりましたわね」
政庁の天幕で報告書に目を通しながら、カグラはぽつりと呟いた。
「はい」
隣に立つ補佐役が頷く。
「周辺諸国の動きが、妙に静かです。
軍も来ない。通達も出ない。
……その代わり」
「代わりに?」
「“使者”が増えています」
その言葉通りだった。
昨日は小国の外交官。
今朝は宗教都市の代表。
昼には、どこにも属さぬ学識者の一団。
いずれも敵意はない。
だが、共通点があった。
――必ず、同じ質問をする。
「あなた方は、何者なのか?」
「……答えは、ずっと同じですのに」
カグラは、机に肘をついた。
「国ではありません。
誰かに従わせる組織でもありません」
「ですが、向こうは納得しません」
「ええ。分かっています」
カグラは、ゆっくりと立ち上がった。
「彼らが欲しいのは、“説明”ではなく――」
そのとき、天幕の外がざわついた。
「カグラ様!
中央広場に、正式な使節団が到着しました!」
「どちらから?」
「……五カ国連名です」
一瞬、室内が静まり返る。
「五カ国、ですか」
(来ましたわね……“答え合わせ”が)
中央広場には、明らかに格の違う一団が並んでいた。
各国の紋章を刻んだ装束。
人数は少ないが、発する圧は強い。
その中央に立つ老紳士が、一歩前に出る。
「我々は、周辺五カ国を代表し、ここに参った」
深く、形式通りの礼。
「目的は一つ」
周囲の空気が張り詰める。
「貴方方を、
“独立自治共同体”として承認する」
どよめき。
それは、望んでいた言葉のはずだった。
だが、カグラの表情は変わらない。
「承認の条件を、お聞かせいただけますか」
老紳士は、満足そうに微笑んだ。
「話が早い」
彼は、用意していた文書を差し出す。
「・各国への定期報告
・交易税の設定
・防衛に関する相互協定
・共同体代表の明確化」
一項目ずつ、淡々と読み上げられる。
「要するに――」
老紳士は、はっきりと言った。
「“枠”に入ってもらう」
沈黙。
人々の視線が、カグラに集まる。
承認されれば、安全は増す。
交易は安定する。
軍事的な干渉も減る。
だが――
(自由は、減ります)
カグラは、文書に目を落としたまま言った。
「これは、“承認”ではありませんわね」
「ほう?」
「管理です」
老紳士の笑みが、わずかに薄れる。
「我々は、誰かの庇護を求めてここにいるわけではありません」
「だが、庇護なしでは――」
「庇護を受けた瞬間、
我々は“判断する力”を失います」
カグラは、顔を上げた。
「代表を固定しろ、とありますが」
「当然でしょう」
「では、その代表が間違えた場合、どうなりますか?」
老紳士は答えない。
「共同体は、“一人の頭”で動いていません」
「……非効率だ」
「ええ」
カグラは、微笑んだ。
「でも、壊れにくい」
老紳士は、ゆっくりと息を吐いた。
「承認を拒めば、どうなるか分かっているな?」
「ええ」
「圧力は強まる」
「承知しています」
一拍。
「それでも、拒否します」
その言葉が、広場に落ちた。
「我々は、“名前”よりも、
“選ぶ権利”を守ります」
老紳士は、しばらく黙っていたが、やがて文書を下ろした。
「……愚かだが」
振り返り、言い残す。
「その愚かさが、どこまで通じるか――
我々は、見届けよう」
使節団は、静かに去っていった。
残された人々の間に、不安が広がる。
「大丈夫、でしょうか……」
「ええ」
カグラは、はっきりと答えた。
「“承認という檻”には、入りませんでした」
空は、どこまでも高い。
サクラ共同体は、
安全を約束される代わりに自由を失う道を、
自ら断った。
そして――
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試される時間だった。
選択が、正しかったかどうか。
世界が、それを測ろうとしている。
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