婚約破棄、追放された令嬢ですが、国民全員ついてきました ――国王陛下まで付いてくるのは聞いてません――

ふわふわ

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第15話 試される覚悟

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第15話 試される覚悟

五カ国連名の使節団が去った翌日。

サクラ共同体の空気は、目に見えて重くなっていた。

誰も騒ぎはしない。
だが、誰もが理解している。

――これで、後戻りはできなくなった。

「承認を断った、という噂は……?」

「もう広がっています」

政庁での朝会。
報告役の声は、いつもより低かった。

「周辺の交易都市では、“危うい共同体”として扱われ始めています」

「具体的には?」

「取引量の抑制。
宿の利用制限。
物資の値上げ……」

「……静かな締め付けですわね」

国王が腕を組んで唸る。

「力を使わず、疲弊させる。
最も“大人のやり方”じゃ」

「ええ」

カグラは頷いた。

「でも、予想通りです」

誰かが、恐る恐る尋ねる。

「……それでも、正しかったのでしょうか」

その問いに、カグラはすぐには答えなかった。

しばし沈黙し、やがて静かに口を開く。

「正しいかどうかは、
結果が出るまで分かりません」

視線を上げ、皆を見る。

「でも――
“選ばされた”のではなく、
“自分で選んだ”という事実は残ります」

その言葉に、室内の空気がわずかに変わった。

不安が消えたわけではない。
だが、腹は括られた。

その日の昼。

共同体の外縁にある小さな集落で、騒ぎが起きた。

「カグラ様!」

息を切らして駆け込んできた伝令。

「井戸の修復を頼んでいた村が……
契約を一方的に破棄されました!」

「理由は?」

「“承認されていない組織とは関われない”と……」

沈黙。

それは、露骨な見せしめだった。

「……分かりました」

カグラは、立ち上がった。

「私が行きます」

「え?」

「代表が固定されるのを嫌ったのに、
こういうときだけ隠れるわけにはいきません」

国王が、にやりと笑う。

「ようやく“前に出る”気になったか」

「前に出るのではありません」

カグラは、外套を手に取った。

「一緒に立つだけです」

村は、小さく、貧しかった。

井戸は半壊し、水汲みは危険な状態だ。

村人たちは、カグラを見てざわついた。

「……来てくださったのですか」

「ええ」

彼女は、膝を折り、目線を合わせる。

「井戸、直します」

「で、でも……もう、どこも手を貸してくれなくて……」

「構いません」

カグラは、はっきりと言った。

「私たちがやります」

その場にいた共同体の職人たちが、前に出る。

「道具ならある」

「手は足りてる」

「今日中に、仮復旧はいけるぞ」

村人たちの目が、見開かれる。

「……本当に?」

「ええ」

カグラは微笑んだ。

「約束です」

夕暮れまでに、井戸は使えるようになった。

完璧ではない。
だが、水は汲める。

村人の一人が、ぽつりと呟く。

「……承認されてなくても、
助けてくれるんですね」

「承認されているから助ける、
という関係にはしたくありませんでしたの」

カグラは、そう答えた。

その夜。

政庁に戻る途中、国王が言った。

「効くぞ、これは」

「……何がですか?」

「圧力に対して、
“手間と覚悟”で返すのはな」

カグラは、空を見上げた。

星は、いつもと変わらず瞬いている。

「試されているのは、
私たちの“理念”です」

「折れたら?」

「そのときは――
その程度だった、ということです」

だが、折れなかった。

翌日から、似たような話が各地で起き始める。

契約破棄。
支援打ち切り。
取引停止。

そのたびに、サクラ共同体は黙って動いた。

誰かが困れば、手を出す。
名前も、旗も、要求もしない。

噂は、また広がり始める。

――「あそこは、面倒だ」
――「だが、裏切らない」
――「関わると、覚悟が要る」

そして、それは。

最も信用できる評判だった。

サクラ共同体は今、
力ではなく、
言葉でもなく、
行動によって、世界に試されていた。

その試練を、
彼女たちは――
受けて立っていた。
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