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第16話 小さな裏切りと、大きな選択
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第16話 小さな裏切りと、大きな選択
朝の空気は、どこかざらついていた。
政庁の前で物資の確認をしていた補佐役が、険しい顔で戻ってくる。
「……一部の運搬隊が、戻ってきていません」
カグラは、手を止めた。
「予定の時刻は?」
「昨夜です。
護衛付きで、交易路も問題なかったはずでした」
「名簿は?」
「あります。
……共同体内部の者が、二名」
その言葉に、空気が張りつめた。
「理由は?」
「不明です。ただ――」
補佐役は声を落とす。
「彼らは、五カ国側の承認条件に賛成していた者たちです」
沈黙。
(やはり、来ましたのね)
圧力は外からだけではない。
内側から崩す方が、ずっと早い。
「追いますか?」
「いいえ」
即答だった。
「追えば、“敵”を作ります」
「では……」
「呼び戻します」
カグラは、政庁の中央に人を集めるよう指示した。
その日の昼、集落の広場には多くの人が集まった。
誰もが、何かが起きていると感じている。
カグラは、静かに前に出た。
「本日、二名の仲間が、この地を離れました」
ざわめき。
「理由は、まだ分かっていません」
視線が、交差する。
「ですが――」
一拍。
「追いません」
驚きの声。
「捕まえません」
さらにざわつく。
「裏切りではないのですか?」
誰かが、声を上げた。
「不安だったのだと思います」
カグラは、そう答えた。
「承認を断った。
圧力は強まっている。
怖くなった――それだけです」
「……それを、許すと?」
「許す、という言葉は使いません」
カグラは、首を振る。
「選んだのです」
「ここに残ることも、
離れることも」
沈黙。
「ただし」
声に、芯が入る。
「戻るなら、条件があります」
人々が息を呑む。
「理由を隠さないこと。
誰かを責めないこと。
そして――」
少しだけ、間を置く。
「再び選び直す覚悟を持つこと」
その言葉は、厳しかった。
だが、追放よりも重い。
「私たちは、縛りません」
「でも、ごまかしも許しません」
広場は、静まり返っていた。
やがて、国王が一歩前に出る。
「聞いたか。
ここは、逃げ場ではない」
「だが、牢獄でもない」
誰かが、小さく頷いた。
その夜。
見張り台から、報告が入る。
「……戻ってきました」
「二人とも?」
「はい。
門の外で、待っています」
カグラは、深く息を吐いた。
「通してください」
二人は、疲れ切った顔で立っていた。
目は赤く、言葉を探している。
「……すみません」
「怖かったんです」
カグラは、何も言わずに聞いた。
言い訳も、責任転嫁もない。
ただ、正直な言葉だけが、そこにあった。
「戻りたい、と言う資格は……」
「あります」
カグラは、はっきりと言った。
「今、選び直したのなら」
二人は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「感謝は不要です」
カグラは、背を向ける。
「次は、
“怖い”と感じたとき、
逃げずに話してください」
その背中に、誰かが呟いた。
「……厳しいですね」
「ええ」
国王が答える。
「だが、これが“自由の代償”じゃ」
夜空に、星が瞬く。
小さな裏切りは、
罰ではなく、
選択の重さとして返された。
サクラ共同体は、
より強く、
より静かに、
覚悟を揃えていく。
そして――
次に試されるのは、
数ではなく、価値だった。
朝の空気は、どこかざらついていた。
政庁の前で物資の確認をしていた補佐役が、険しい顔で戻ってくる。
「……一部の運搬隊が、戻ってきていません」
カグラは、手を止めた。
「予定の時刻は?」
「昨夜です。
護衛付きで、交易路も問題なかったはずでした」
「名簿は?」
「あります。
……共同体内部の者が、二名」
その言葉に、空気が張りつめた。
「理由は?」
「不明です。ただ――」
補佐役は声を落とす。
「彼らは、五カ国側の承認条件に賛成していた者たちです」
沈黙。
(やはり、来ましたのね)
圧力は外からだけではない。
内側から崩す方が、ずっと早い。
「追いますか?」
「いいえ」
即答だった。
「追えば、“敵”を作ります」
「では……」
「呼び戻します」
カグラは、政庁の中央に人を集めるよう指示した。
その日の昼、集落の広場には多くの人が集まった。
誰もが、何かが起きていると感じている。
カグラは、静かに前に出た。
「本日、二名の仲間が、この地を離れました」
ざわめき。
「理由は、まだ分かっていません」
視線が、交差する。
「ですが――」
一拍。
「追いません」
驚きの声。
「捕まえません」
さらにざわつく。
「裏切りではないのですか?」
誰かが、声を上げた。
「不安だったのだと思います」
カグラは、そう答えた。
「承認を断った。
圧力は強まっている。
怖くなった――それだけです」
「……それを、許すと?」
「許す、という言葉は使いません」
カグラは、首を振る。
「選んだのです」
「ここに残ることも、
離れることも」
沈黙。
「ただし」
声に、芯が入る。
「戻るなら、条件があります」
人々が息を呑む。
「理由を隠さないこと。
誰かを責めないこと。
そして――」
少しだけ、間を置く。
「再び選び直す覚悟を持つこと」
その言葉は、厳しかった。
だが、追放よりも重い。
「私たちは、縛りません」
「でも、ごまかしも許しません」
広場は、静まり返っていた。
やがて、国王が一歩前に出る。
「聞いたか。
ここは、逃げ場ではない」
「だが、牢獄でもない」
誰かが、小さく頷いた。
その夜。
見張り台から、報告が入る。
「……戻ってきました」
「二人とも?」
「はい。
門の外で、待っています」
カグラは、深く息を吐いた。
「通してください」
二人は、疲れ切った顔で立っていた。
目は赤く、言葉を探している。
「……すみません」
「怖かったんです」
カグラは、何も言わずに聞いた。
言い訳も、責任転嫁もない。
ただ、正直な言葉だけが、そこにあった。
「戻りたい、と言う資格は……」
「あります」
カグラは、はっきりと言った。
「今、選び直したのなら」
二人は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「感謝は不要です」
カグラは、背を向ける。
「次は、
“怖い”と感じたとき、
逃げずに話してください」
その背中に、誰かが呟いた。
「……厳しいですね」
「ええ」
国王が答える。
「だが、これが“自由の代償”じゃ」
夜空に、星が瞬く。
小さな裏切りは、
罰ではなく、
選択の重さとして返された。
サクラ共同体は、
より強く、
より静かに、
覚悟を揃えていく。
そして――
次に試されるのは、
数ではなく、価値だった。
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