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第17話 値踏みされる共同体
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第17話 値踏みされる共同体
朝、市場に妙な沈黙が広がっていた。
人はいる。
品も並んでいる。
だが――動きがない。
「……値が、出ていません」
商人の一人が、困惑した顔で報告する。
「買う気はある。
だが、“今は様子見だ”と」
「誰が?」
「皆です」
カグラは、小さく息を吐いた。
(来ましたわね。“数”ではなく“価値”を測る段階)
これまでの圧力は、量だった。
取引停止。
支援打ち切り。
数を減らし、疲弊させる。
だが今回は違う。
――選別。
「安く買い叩こうとしている?」
「それもありますが……」
補佐役は言い淀む。
「“この共同体に関わる価値があるか”を、
秤にかけているようです」
「ええ。正解です」
カグラは、静かに立ち上がった。
「つまり、私たちは今――
“売り込み”を求められています」
「……何を?」
「理念を」
その日の午後。
複数の交易代表が、同時刻に訪れた。
偶然ではない。
「条件次第で、取引量を戻す」
「承認を受ける予定は?」
「代表は誰になる?」
質問は、どれも同じ方向を向いていた。
――分かりやすくなれ。
「申し訳ありません」
カグラは、全員を前にして言った。
「条件交渉は、いたしません」
「強気ですな」
「いえ」
微笑みは崩さない。
「一貫しているだけです」
ざわめき。
「我々は、
・値を吊り上げません
・独占しません
・囲い込みません」
「ですが――」
「その代わり」
声が、少しだけ強くなる。
「信頼を切り売りしません」
一人の商人が、苛立ちを隠さず言った。
「理想論だ!
現実は、利益で動く!」
「ええ」
カグラは頷いた。
「だからこそ、
利益“だけ”で来る方とは、
長く続かないのです」
沈黙。
誰かが、ぽつりと漏らす。
「……選別しているのは、
我々の方か」
「そうなりますわね」
その夜。
共同体の倉庫前で、若者たちが集まっていた。
「正直……不安だ」
「俺たち、強気すぎないか?」
「全部失ったら、どうする?」
その声を、カグラは止めなかった。
不安は、出し切らなければならない。
やがて、年配の職人が言った。
「安く見られて、
条件飲んで、
後で首を絞められるくらいなら」
一拍。
「今、苦しい方がマシだ」
静かに、だが確かな声だった。
翌朝。
一つの報告が入る。
「……小規模ですが、
取引を再開した都市があります」
「条件は?」
「“条件なし”です」
カグラは、わずかに目を細めた。
「理由は?」
「『面倒だが、信用できる』と」
小さな笑いが、政庁に広がった。
それは、
最も回りくどく、
最も強い評価だった。
夕暮れ。
カグラは、国王と並んで外を歩く。
「数は、まだ少ないですね」
「だが」
国王は、空を仰いだ。
「残るのは、芯のある者だけじゃ」
「ええ」
「それで良いのですか?」
「はい」
カグラは、迷いなく答えた。
「私たちは、
大きくなるために在るのではありません」
足を止める。
「続くために在るのです」
世界は今、
サクラ共同体を値踏みしている。
だが同時に――
サクラ共同体もまた、
世界を選び始めていた。
次に来るのは、
数の試練ではない。
“同調しない者”への、
露骨な圧力だった。
朝、市場に妙な沈黙が広がっていた。
人はいる。
品も並んでいる。
だが――動きがない。
「……値が、出ていません」
商人の一人が、困惑した顔で報告する。
「買う気はある。
だが、“今は様子見だ”と」
「誰が?」
「皆です」
カグラは、小さく息を吐いた。
(来ましたわね。“数”ではなく“価値”を測る段階)
これまでの圧力は、量だった。
取引停止。
支援打ち切り。
数を減らし、疲弊させる。
だが今回は違う。
――選別。
「安く買い叩こうとしている?」
「それもありますが……」
補佐役は言い淀む。
「“この共同体に関わる価値があるか”を、
秤にかけているようです」
「ええ。正解です」
カグラは、静かに立ち上がった。
「つまり、私たちは今――
“売り込み”を求められています」
「……何を?」
「理念を」
その日の午後。
複数の交易代表が、同時刻に訪れた。
偶然ではない。
「条件次第で、取引量を戻す」
「承認を受ける予定は?」
「代表は誰になる?」
質問は、どれも同じ方向を向いていた。
――分かりやすくなれ。
「申し訳ありません」
カグラは、全員を前にして言った。
「条件交渉は、いたしません」
「強気ですな」
「いえ」
微笑みは崩さない。
「一貫しているだけです」
ざわめき。
「我々は、
・値を吊り上げません
・独占しません
・囲い込みません」
「ですが――」
「その代わり」
声が、少しだけ強くなる。
「信頼を切り売りしません」
一人の商人が、苛立ちを隠さず言った。
「理想論だ!
現実は、利益で動く!」
「ええ」
カグラは頷いた。
「だからこそ、
利益“だけ”で来る方とは、
長く続かないのです」
沈黙。
誰かが、ぽつりと漏らす。
「……選別しているのは、
我々の方か」
「そうなりますわね」
その夜。
共同体の倉庫前で、若者たちが集まっていた。
「正直……不安だ」
「俺たち、強気すぎないか?」
「全部失ったら、どうする?」
その声を、カグラは止めなかった。
不安は、出し切らなければならない。
やがて、年配の職人が言った。
「安く見られて、
条件飲んで、
後で首を絞められるくらいなら」
一拍。
「今、苦しい方がマシだ」
静かに、だが確かな声だった。
翌朝。
一つの報告が入る。
「……小規模ですが、
取引を再開した都市があります」
「条件は?」
「“条件なし”です」
カグラは、わずかに目を細めた。
「理由は?」
「『面倒だが、信用できる』と」
小さな笑いが、政庁に広がった。
それは、
最も回りくどく、
最も強い評価だった。
夕暮れ。
カグラは、国王と並んで外を歩く。
「数は、まだ少ないですね」
「だが」
国王は、空を仰いだ。
「残るのは、芯のある者だけじゃ」
「ええ」
「それで良いのですか?」
「はい」
カグラは、迷いなく答えた。
「私たちは、
大きくなるために在るのではありません」
足を止める。
「続くために在るのです」
世界は今、
サクラ共同体を値踏みしている。
だが同時に――
サクラ共同体もまた、
世界を選び始めていた。
次に来るのは、
数の試練ではない。
“同調しない者”への、
露骨な圧力だった。
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