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第19話 分断という名の提案
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第19話 分断という名の提案
朝霧の中、政庁に一通の招待状が届いた。
封は丁寧。
筆致は上品。
差出人は――周辺三都市の連名。
「……“協議の場”ですか」
補佐役が、眉をひそめる。
「ええ」
カグラは、静かに紙を折った。
「分かりやすいですわね。
圧力で折れないなら、
割る」
会場は、中立を装った小都市の公会堂。
長い卓の向こうに、三都市の代表が並ぶ。
笑顔。
穏やかな声。
だが、視線は鋭い。
「まずは、これまでの尽力に敬意を」
代表の一人が言った。
「サクラ共同体は、
周辺の安定に大きく寄与している」
「ありがとうございます」
カグラは、感情を乗せずに答える。
「本題に入りましょう」
別の代表が、身を乗り出す。
「我々は、貴方方の“理念”を尊重している」
(来ますわね)
「そこで、提案があります」
紙束が、卓に置かれた。
「共同体を、
二つに分けてはどうでしょう」
空気が、止まる。
「交易・流通部門は、
我々の枠組みに入る」
「福祉・救援・定住支援は、
貴方方の裁量に任せる」
「代表も、
それぞれに立てればいい」
笑顔のまま、言い切る。
「理念は守れる。
現実も回る」
「……美しい提案ですわね」
カグラは、紙に目を落とした。
(そして、最も壊しやすい)
「質問があります」
顔を上げる。
「分けた場合、
行き来は自由ですか?」
「原則として――」
「制限が入る、ということですね」
一瞬の沈黙。
「では、次」
カグラは続ける。
「福祉側が資源不足になった場合、
交易側は無条件で支援しますか?」
代表は、言葉を選んだ。
「協議の上で――」
「最後に」
声が、わずかに冷える。
「対立が起きた場合、
どちらを“正当”と認定します?」
誰も、答えなかった。
カグラは、ゆっくりと紙束を戻した。
「この提案は、
分断ではありません」
静かな声。
「序列化です」
ざわめき。
「善意を“任意”にし、
現実を“必須”にする」
「やがて、
善意は疲弊し、
現実が支配する」
代表の一人が、苛立ちを隠せず言う。
「理想を守るには、
現実と折り合う必要がある!」
「ええ」
カグラは、頷いた。
「ですが――
切り離してはいけない」
一拍。
「私たちは、
困っている人を助ける“から”
交易をしているのです」
「交易の“ついで”に
助けているわけではありません」
沈黙が、重く落ちた。
やがて、最初の代表が言った。
「……拒否する、と?」
「はい」
迷いはない。
「分けた瞬間、
互いを疑う構造になります」
「疑いは、
いずれ刃になります」
会場を出るとき、
廊下で若い使者が追いすがった。
「……分ければ、
楽になります」
「ええ」
カグラは立ち止まり、答えた。
「だからこそ、
楽な道は選びません」
その夜。
共同体に戻ると、
すでに噂は広がっていた。
「分ける話があったらしい」
「受ければ、助かる人もいるのに……」
焚き火の前で、議論が起きる。
怒り。
迷い。
ため息。
カグラは、皆の前に立った。
「分ければ、
早く、楽に、
回るでしょう」
正直な言葉。
「でも、
戻れなくなります」
視線が集まる。
「困っている人を、
“部門の外”に追い出す瞬間」
「私たちは、
別の名前の国になります」
静寂。
やがて、誰かが言った。
「……一緒に、苦しい方がいい」
「疑い合うより、
支え合う方がいい」
小さな声が、重なっていく。
カグラは、深く息を吸った。
「ありがとうございます」
「これが、
私たちの選択です」
分断という名の提案は、
丁寧に、
しかし確実に、
拒まれた。
世界は、もう一手打つだろう。
次に来るのは――
“正義”の名を借りた、
非難だった。
朝霧の中、政庁に一通の招待状が届いた。
封は丁寧。
筆致は上品。
差出人は――周辺三都市の連名。
「……“協議の場”ですか」
補佐役が、眉をひそめる。
「ええ」
カグラは、静かに紙を折った。
「分かりやすいですわね。
圧力で折れないなら、
割る」
会場は、中立を装った小都市の公会堂。
長い卓の向こうに、三都市の代表が並ぶ。
笑顔。
穏やかな声。
だが、視線は鋭い。
「まずは、これまでの尽力に敬意を」
代表の一人が言った。
「サクラ共同体は、
周辺の安定に大きく寄与している」
「ありがとうございます」
カグラは、感情を乗せずに答える。
「本題に入りましょう」
別の代表が、身を乗り出す。
「我々は、貴方方の“理念”を尊重している」
(来ますわね)
「そこで、提案があります」
紙束が、卓に置かれた。
「共同体を、
二つに分けてはどうでしょう」
空気が、止まる。
「交易・流通部門は、
我々の枠組みに入る」
「福祉・救援・定住支援は、
貴方方の裁量に任せる」
「代表も、
それぞれに立てればいい」
笑顔のまま、言い切る。
「理念は守れる。
現実も回る」
「……美しい提案ですわね」
カグラは、紙に目を落とした。
(そして、最も壊しやすい)
「質問があります」
顔を上げる。
「分けた場合、
行き来は自由ですか?」
「原則として――」
「制限が入る、ということですね」
一瞬の沈黙。
「では、次」
カグラは続ける。
「福祉側が資源不足になった場合、
交易側は無条件で支援しますか?」
代表は、言葉を選んだ。
「協議の上で――」
「最後に」
声が、わずかに冷える。
「対立が起きた場合、
どちらを“正当”と認定します?」
誰も、答えなかった。
カグラは、ゆっくりと紙束を戻した。
「この提案は、
分断ではありません」
静かな声。
「序列化です」
ざわめき。
「善意を“任意”にし、
現実を“必須”にする」
「やがて、
善意は疲弊し、
現実が支配する」
代表の一人が、苛立ちを隠せず言う。
「理想を守るには、
現実と折り合う必要がある!」
「ええ」
カグラは、頷いた。
「ですが――
切り離してはいけない」
一拍。
「私たちは、
困っている人を助ける“から”
交易をしているのです」
「交易の“ついで”に
助けているわけではありません」
沈黙が、重く落ちた。
やがて、最初の代表が言った。
「……拒否する、と?」
「はい」
迷いはない。
「分けた瞬間、
互いを疑う構造になります」
「疑いは、
いずれ刃になります」
会場を出るとき、
廊下で若い使者が追いすがった。
「……分ければ、
楽になります」
「ええ」
カグラは立ち止まり、答えた。
「だからこそ、
楽な道は選びません」
その夜。
共同体に戻ると、
すでに噂は広がっていた。
「分ける話があったらしい」
「受ければ、助かる人もいるのに……」
焚き火の前で、議論が起きる。
怒り。
迷い。
ため息。
カグラは、皆の前に立った。
「分ければ、
早く、楽に、
回るでしょう」
正直な言葉。
「でも、
戻れなくなります」
視線が集まる。
「困っている人を、
“部門の外”に追い出す瞬間」
「私たちは、
別の名前の国になります」
静寂。
やがて、誰かが言った。
「……一緒に、苦しい方がいい」
「疑い合うより、
支え合う方がいい」
小さな声が、重なっていく。
カグラは、深く息を吸った。
「ありがとうございます」
「これが、
私たちの選択です」
分断という名の提案は、
丁寧に、
しかし確実に、
拒まれた。
世界は、もう一手打つだろう。
次に来るのは――
“正義”の名を借りた、
非難だった。
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