婚約破棄、追放された令嬢ですが、国民全員ついてきました ――国王陛下まで付いてくるのは聞いてません――

ふわふわ

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第21話 耐えるという選択

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第21話 耐えるという選択

夜半、冷たい雨が降り始めた。

屋根を打つ音は、静かだが執拗で、
眠りを浅くする種類のものだった。

政庁の灯りは、まだ消えていない。

「……備蓄の目減りが、想定より早いです」

補佐役の声は、淡々としていたが、
その指先は僅かに震えていた。

「主要三路が止まったまま。
代替路も、遠回りになります」

「数字は?」

「現状の消費量なら――
三週間」

沈黙。

三週間は、短い。
だが、即座に崩れるほどでもない。

つまり――
“耐久力”を測るには、ちょうどいい。

「切り詰めますか?」

「いいえ」

カグラは、首を振った。

「急な引き締めは、
恐怖を生みます」

「では……」

「優先順位を、言語化します」

翌朝。

共同体の中央に、人が集められた。

強制ではない。
だが、ほとんど全員が来ている。

「物資は、十分ではありません」

カグラは、率直に言った。

ざわめき。

「だからこそ、
何を守るかを決めます」

一拍。

「まず――
子どもと病人」

頷きが、広がる。

「次に、
水・食料・医療に関わる人」

「そして、
支えがない人」

誰かが、声を上げる。

「じゃあ、
それ以外は?」

「減らします」

即答だった。

「不便になります」

「贅沢は、消えます」

「それでも――
生きてはいけます」

沈黙。

反発は、起きなかった。

なぜなら、
順番が明確だったからだ。

その日から、共同体は静かに変わった。

食事は簡素になる。
灯りは早く落ちる。
娯楽は、自然と減る。

だが――
奪われた感覚はなかった。

「選んだ、って感じがするな」

若者が、笑って言った。

「命令されてるわけじゃない」

「我慢してるけど、
納得はしてる」

数日後。

外からの視線は、さらに厳しくなる。

「まだ折れない」
「意地を張っている」
「無責任だ」

だが、次第に――
言葉の温度が下がっていった。

なぜなら、
期待していた“混乱”が起きないからだ。

ある晩。

倉庫で作業をしていた職人が、
小さく呟いた。

「……俺たち、
試されてるんだよな」

「誰に?」

「世界に、だろ」

別の者が、首を振る。

「違う」

「俺たち自身だ」

その言葉は、
ゆっくりと広がっていった。

さらに数日後。

一通の報告が届く。

「……取引再開の打診です」

補佐役が、信じられないものを見る目で言う。

「例の声明に名を連ねていた、
学術連盟の一部から」

「条件は?」

「ありません」

カグラは、目を閉じた。

(来ましたわね)

「理由は?」

「……“観察が終わった”と」

夜、国王が言った。

「耐えたな」

「いいえ」

カグラは、静かに答える。

「耐えている最中です」

窓の外では、
雨が上がり始めていた。

世界は今、
こう問いかけている。

――苦しいとき、
誰を切り捨てるのか。

――正しさのために、
誰を犠牲にするのか。

サクラ共同体は、
その問いに、
声高ではなく、
日々の選択で答えていた。

耐えるという選択は、
英雄的ではない。

だが――
最も多くを守る道だった。

そして世界は、
次の段階に進もうとしている。

**「評価」**だ。

耐えた者を、
どう扱うのか。

それを決めるのは――
もう、圧力をかけてきた側だけではなかった。
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