婚約破棄、追放された令嬢ですが、国民全員ついてきました ――国王陛下まで付いてくるのは聞いてません――

ふわふわ

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第22話 値札の付かない評価

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第22話 値札の付かない評価

雨が止んだ翌朝、空気は澄んでいた。

まるで――
一度、洗い流された後のように。

政庁に届く報告の質が、少し変わり始めていた。

「……問い合わせ、ですか?」

補佐役が眉を上げる。

「はい。
条件提示でも、通告でもありません」

「内容は?」

「“どうして続いているのか”
“何を犠牲にしたのか”
……そういう質問です」

カグラは、わずかに目を細めた。

(圧力でも、非難でもない。
“評価”に入った、ということですわね)

昼前。

共同体を訪れたのは、
これまでとは違う種類の人々だった。

武装も、紋章もない。
豪奢な衣もない。

学者。
記録官。
旅商人。
そして――名もなき観察者。

「取材、というわけではありません」

一人が、丁寧に言った。

「記録です」

「何の?」

「選択の過程を」

カグラは、少し考えてから答えた。

「隠すものは、ありません」

彼らは、共同体を歩いた。

倉庫を見た。
簡素な食堂を見た。
水場で並ぶ人々を見た。

そして、必ず同じ質問をする。

「不満は、出ませんか?」

「あります」

職人が、即答した。

「不安は?」

「毎日あります」

「後悔は?」

少し考えてから、誰かが言った。

「……楽な道を選ばなかったことは、
たまに悔やみます」

だが。

「でも、
誰かを切り捨てて
楽になるのは、
もっと嫌でした」

観察者たちは、
何も書き足さず、
ただ記録した。

夕刻。

一人の学者が、カグラに尋ねた。

「貴方は、
何を目指しているのですか?」

カグラは、即答しなかった。

しばし沈黙し、
空を見上げてから言う。

「……目指している“形”は、ありません」

「では、何を?」

「選び続ける余地です」

学者は、ペンを止めた。

「固定された正義ではなく」

「決められた制度でもなく」

「状況ごとに、
“誰を優先するか”を
話し合える余白」

「それが、
残っていればいい」

学者は、深く息を吐いた。

「……非常に、
値札の付けにくい価値ですね」

「ええ」

カグラは、微笑んだ。

「だから、
売りに出していません」

その夜。

共同体の外縁で、
小さな焚き火がいくつも灯っていた。

去った者。
残った者。
外から来た者。

立場は違うが、
火を囲む距離は近い。

「……戻っても、いいのかな」

かつて離れた一人が、呟く。

「今度は、
ちゃんと選びたい」

誰も、すぐには答えなかった。

だが、カグラが言った。

「戻る理由は、
問います」

一拍。

「でも、
戻ること自体は、
拒みません」

その言葉に、
焚き火の火が、
少しだけ大きく揺れた。

翌日。

複数の都市から、
ほぼ同じ内容の文が届く。

> 「サクラ共同体を、
危険視対象から除外する」



> 「判断理由:
不安定だが、
敵対的ではない」



国王が、声を出して笑った。

「評価としては、
ずいぶん曖昧じゃな」

「ええ」

カグラは頷く。

「でも――
生き残るには、十分です」

世界は、
サクラ共同体に
“値段”を付けることを諦め始めていた。

安くも、
高くも、
測れない。

だからこそ、
扱いづらい存在として。

それは、
排除でも、承認でもない。

第三の位置。

――無視できないが、
従わせられない。

サクラ共同体は今、
ようやくそこに立った。

そして次に問われるのは――
「この立場を、
どう使うのか」。

評価された者は、
必ず次の役割を
期待される。

それを受けるか、
拒むか。

選択は、
また――
彼女たちの手にあった。
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