婚約破棄、追放された令嬢ですが、国民全員ついてきました ――国王陛下まで付いてくるのは聞いてません――

ふわふわ

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第23話 期待という圧力

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第23話 期待という圧力

評価が下された翌日から、
空気は確かに変わった。

敵意は減った。
非難も止んだ。
露骨な圧力は、影を潜めた。

だが――
軽くなったわけではない。

「……依頼、ですか」

補佐役が読み上げる文書の束は、
昨日までとは明らかに性質が違っていた。

「はい。
難民受け入れの調整、
交易路の仲裁、
水利権の調停……」

「全部、“どちらにも属さない者”向けですわね」

カグラは、机に指を置いた。

世界は、
サクラ共同体を
便利な中立点として見始めていた。

「理由は明確です」

補佐役が言う。

「どの国にも肩入れせず、
それでいて無視もできない」

「ええ」

カグラは、小さく笑った。

「評価された結果、
使われ始めた」

その日の午後。

共同体の代表者たちが集まる。

職人、医療者、交易担当、
そして――国王。

「正直に言おう」

国王が口を開く。

「これは、
好機でもあり、
罠でもある」

「はい」

カグラは頷く。

「仲裁に関われば、
感謝もされます」

「だが同時に、
不満も背負います」

「そして」

国王は、低く続けた。

「一度“役割”を引き受ければ、
断りづらくなる」

沈黙。

誰も、軽々しく賛成しなかった。

「……断れば?」

若い代表が尋ねる。

「“無責任”と言われます」

補佐役が答える。

「引き受ければ?」

「“都合のいい存在”になります」

重たい二択。

カグラは、しばらく考えたあと、
静かに言った。

「全ては、引き受けません」

「……一部だけ?」

「いいえ」

首を振る。

「条件を付けます」

視線が集まる。

「仲裁や支援を行うのは、
当事者全員が、
“結果を受け入れる”と
事前に明言した場合のみ」

「敗者が出る調停では、
必ず不満が残ります」

「だから――」

一拍。

「責任を、
こちらに押し付けないこと」

ざわめき。

「そんな条件、
飲みますか?」

「飲まなければ、
関わりません」

カグラは、淡々と言った。

「私たちは、
裁判所でも、
神でもありません」

「選択肢を整えることはできます」

「決断までは、
引き受けません」

国王が、低く笑った。

「相変わらず、
厄介な条件じゃな」

「ええ」

「だが――」

国王は、周囲を見渡した。

「それでこそ、
使い潰されずに済む」

数日後。

条件付きの返書が、
各地へ送られた。

反応は、様々だった。

「条件が重すぎる」
「責任逃れだ」
「それでも、頼みたい」

結果――
半分以上が、引いた。

だが、
残った依頼は、
どれも本気だった。

最初の案件は、
小さな水利争いだった。

大国同士ではない。
だが、
生活に直結する問題。

当事者たちは、
事前に署名した。

> 「結果を、
第三者のせいにしない」



調停は、
静かに行われた。

決定後、
一方は不満を抱え、
もう一方は安堵した。

だが――
怒号はなかった。

「……約束、だな」

悔しそうに言い、
拳を下ろした。

その様子を、
観察者たちは見ていた。

夜。

焚き火の前で、
誰かが言った。

「結局、
期待ってのも
圧力だな」

「ええ」

カグラは、炎を見つめる。

「でも、
選んで受けた圧力は、
押し潰されません」

期待を拒めば、
孤立する。

期待を無条件で受ければ、
消耗する。

サクラ共同体は、
その間に、
細い線を引いた。

踏み越えない線。
守るための線。

世界は今、
彼女たちを
“試す対象”から
“使う対象”へ
移行させようとしている。

その流れに、
ただ乗らず。

ただ逆らわず。

用途を、
こちらで決める。

それが、
次の戦いだった。
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