『公爵家を乗っ取った男爵一家は、家系図から消えました』 ―偽令嬢は王太子妃を夢見て国外追放、私は公爵として責務を果たします―

ふわふわ

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第十一話 王宮監査

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第十一話 王宮監査

王宮の白い廊下は、やけに冷たい。

エレノアは静かに歩いていた。

隣にはルーク。

背後には、王宮監査官たち。

今日は事情聴取ではない。

事実確認。

――つまり、裁きの前段階。

大広間ではなく、監査室。

豪奢さのない部屋。

書類と印章が整然と並ぶ。

感情は不要という空間。

そこに、グレゴール男爵一家が座っていた。

昨日までの威勢はない。

叔母は豪奢なドレスを着ているが、もうそれは“公爵夫人の装い”ではない。

ただの虚飾だ。

監査官が淡々と告げる。

「確認する。公爵家の名で契約した商会は三十七件」

机に積まれた書類。

「すべて、直系当主の署名なし」

グレゴールの額に汗が滲む。

「私は後見人だ」

「後見人に、公爵位を名乗る権限はない」

即答。

感情がない。

事実だけ。

叔母が割り込む。

「でも、皆そう呼んでいたわ!」

監査官が視線を向ける。

「呼ばれたから事実になるわけではない」

冷酷な言葉。

従妹が震える。

「私は、公爵令嬢として舞踏会に出席しました」

「その身分で王太子殿下と婚約協議を?」

「……はい」

監査官が別の書類を広げる。

「持参金名目で動いた金額、莫大だ」

その金の出所。

公爵家の資産。

つまりエレノアの財産。

監査官がエレノアへ向く。

「異議は?」

「ございません。事実です」

淡々と。

感情を乗せない。

グレゴールが立ち上がる。

「家族だろう!」

声が響く。

「私は公爵家を守ろうとした!」

「守るために、偽った?」

監査官の問い。

言葉が詰まる。

沈黙。

監査官が宣告する。

「爵位僭称、公文書偽造、財産横領、王家欺瞞の疑い」

一つずつ。

重い罪名。

叔母が叫ぶ。

「触らないで! 私は公爵夫人よ!」

近衛兵が動く。

「あなたは男爵夫人」

冷ややかに。

「いえ、審議中の被疑者です」

その一言で、叔母の顔色が変わる。

従妹が泣き出す。

「お父様、どうにかして!」

グレゴールの拳が震える。

「私は……王家のために……」

監査官が書類を閉じる。

「王家を騙した」

静かな断定。

部屋が凍る。

「王太子殿下は既に報告を受けている」

従妹が顔を上げる。

「殿下は……?」

「大変不快であると」

それだけ。

見捨てられた。

婚約は停止。

擁護もない。

利用価値が消えた瞬間だ。

監査官が最後の確認をする。

「公爵エレノア殿」

「はい」

「公爵家資産の返還請求を正式に行うか」

一瞬の静寂。

エレノアは迷わない。

「はい。全額」

はっきりと。

グレゴールの膝が崩れる。

「そんな……」

監査官が告げる。

「即日、財産凍結」

叔母の悲鳴。

「嘘でしょう!?」

「嘘ではない」

机に判が押される。

重い音。

それは、金脈の断絶を意味する。

従妹が呟く。

「私は王太子妃になるはずだった……」

誰も答えない。

監査官が近衛兵へ頷く。

「審理までの間、屋敷からの外出を禁ずる」

軟禁。

まだ裁きは確定していない。

だが、逃げ道は閉じた。

エレノアは静かに立ち上がる。

叔父が叫ぶ。

「エレノア! 助けてくれ!」

振り返らない。

「私は、公爵としての責務を果たしているだけです」

冷たい言葉。

情けはない。

部屋を出ると、長い廊下が続く。

ルークが小さく言う。

「容赦なさいませんね」

「容赦は、公爵家を守れません」

足音が響く。

背後では、すすり泣きと怒号。

だが、もう遠い。

監査は終わらない。

次は正式な裁判。

王家の前で、罪が確定する。

そして。

そのとき、彼らは完全に“落ちる”。

エレノアは空を見上げる。

雲一つない青空。

静かだ。

だが、嵐は確実に近づいている。
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