婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

文字の大きさ
1 / 39

第1話 婚約破棄宣告

しおりを挟む


第1話 婚約破棄宣告

晩春の王宮大広間。
シャンデリアの光が磨き上げられた大理石に反射し、華やかな社交場をいっそう眩しく照らしていた。

そんな祝宴の真ん中で、ひとりの令嬢が凍りついていた。

「――エレノア・アルディナ。君との婚約は、今この場をもって破棄する」

第一王子アレクシオンが、堂々たる声でそう言い放ったのだ。

ざわっ、と貴族たちの間に波紋が走る。

エレノアは淡い金髪を揺らし、信じられないものを見るように顔を上げた。
涙を浮かべたその瞳は、周囲から見れば“衝撃を受けた哀れな令嬢”そのものである。

――が。

(……え? ちょっと待ってくださいまし。今、なんと?
婚約破棄? この場で?
……えっ、それ最高では?)

内心では、彼女は目を輝かせていた。
けれどもちろん顔には出さない。完璧令嬢の嗜みである。

アレクシオンは続ける。

「理由は明白だ。君は完璧すぎる。常に冷静で、つつましく、礼儀正しく、間違いがない。だが、可愛げというものがないのだ」

(……理不尽にも程がありますわね。可愛げの不足で罰を受ける時代、まだ終わってませんの?)

王子は得意げに胸を張る。

「これから私の隣に立つのは――彼女、リリィだ」

控えていた小柄な少女が一歩前へ出る。
栗色の髪をふわりと揺らし、涙ぐみながら、しかし確かな勝ち誇りを隠しきれずに微笑んでいた。

「エレノア様……申し訳ありません。でも、わたし、殿下の真心に応えたいのです」

(まあ、ご立派な“平民の天使”を演じていらっしゃること。舞台女優でも目指せばよろしいのに)

周囲の貴族たちは同情と興味の入り混じった視線を向けてくる。

エレノアはゆっくりと息を吸い、震える手を胸に当てた。

「……殿下。理由は……よく、分かりましたわ……」

声はかすれ、肩は震えている。
完璧な“捨てられた令嬢”の演技だった。

(よくもまあ堂々と言えますわね、そんな理由。
でもまあ……これで早起きと王宮の雑務から解放されるのですもの。
泣き倒してみせる価値は十二分にありますわ)

ぽたり、と涙が落ちる。

大広間に、同情のため息が広がった。

王子は満足げだ。

「君には新たな道を歩んでもらいたい。これが君のためだ」

(私のため? いえ、あなたが勝手に振り回した結果ですけれど……。まあ、自由が手に入るなら許して差し上げなくもありませんわ)

エレノアは深々と礼をした。

「……承知いたしました。殿下のご決断に従います」

その姿に、貴族たちは胸を打たれる。

――が、その表情の裏側では。

(やりましたわ……!
ついに……!
自由を!!!)

心の中で盛大にガッツポーズを決めながらも、エレノアは最後まで淑女の微笑みを崩さなかった。

こうして――
侯爵令嬢エレノアの“婚約破棄ありがとうございます生活”は、静かに幕を開けたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

処理中です...