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第1話 婚約破棄宣告
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晩春の王宮大広間。
シャンデリアの光が磨き上げられた大理石に反射し、華やかな社交場をいっそう眩しく照らしていた。
そんな祝宴の真ん中で、ひとりの令嬢が凍りついていた。
「――エレノア・アルディナ。君との婚約は、今この場をもって破棄する」
第一王子アレクシオンが、堂々たる声でそう言い放ったのだ。
ざわっ、と貴族たちの間に波紋が走る。
エレノアは淡い金髪を揺らし、信じられないものを見るように顔を上げた。
涙を浮かべたその瞳は、周囲から見れば“衝撃を受けた哀れな令嬢”そのものである。
――が。
(……え? ちょっと待ってくださいまし。今、なんと?
婚約破棄? この場で?
……えっ、それ最高では?)
内心では、彼女は目を輝かせていた。
けれどもちろん顔には出さない。完璧令嬢の嗜みである。
アレクシオンは続ける。
「理由は明白だ。君は完璧すぎる。常に冷静で、つつましく、礼儀正しく、間違いがない。だが、可愛げというものがないのだ」
(……理不尽にも程がありますわね。可愛げの不足で罰を受ける時代、まだ終わってませんの?)
王子は得意げに胸を張る。
「これから私の隣に立つのは――彼女、リリィだ」
控えていた小柄な少女が一歩前へ出る。
栗色の髪をふわりと揺らし、涙ぐみながら、しかし確かな勝ち誇りを隠しきれずに微笑んでいた。
「エレノア様……申し訳ありません。でも、わたし、殿下の真心に応えたいのです」
(まあ、ご立派な“平民の天使”を演じていらっしゃること。舞台女優でも目指せばよろしいのに)
周囲の貴族たちは同情と興味の入り混じった視線を向けてくる。
エレノアはゆっくりと息を吸い、震える手を胸に当てた。
「……殿下。理由は……よく、分かりましたわ……」
声はかすれ、肩は震えている。
完璧な“捨てられた令嬢”の演技だった。
(よくもまあ堂々と言えますわね、そんな理由。
でもまあ……これで早起きと王宮の雑務から解放されるのですもの。
泣き倒してみせる価値は十二分にありますわ)
ぽたり、と涙が落ちる。
大広間に、同情のため息が広がった。
王子は満足げだ。
「君には新たな道を歩んでもらいたい。これが君のためだ」
(私のため? いえ、あなたが勝手に振り回した結果ですけれど……。まあ、自由が手に入るなら許して差し上げなくもありませんわ)
エレノアは深々と礼をした。
「……承知いたしました。殿下のご決断に従います」
その姿に、貴族たちは胸を打たれる。
――が、その表情の裏側では。
(やりましたわ……!
ついに……!
自由を!!!)
心の中で盛大にガッツポーズを決めながらも、エレノアは最後まで淑女の微笑みを崩さなかった。
こうして――
侯爵令嬢エレノアの“婚約破棄ありがとうございます生活”は、静かに幕を開けたのであった。
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