婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

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第2話 泣き崩れる令嬢…のフリ

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王宮の正門前。
夜の冷たい風が、エレノアの薄いショールを揺らしていた。

先ほどまで華やかな祝宴が広がっていたとは思えないほど、外の世界は静かだ。

だが――
その静寂を打ち破るように、群衆のざわめきが高まった。

「お気の毒に……」
「あんなに美しい令嬢なのに……」
「王子殿下、あれは酷すぎるわ」

エレノアは、馬車に乗り込む前にひと呼吸置いた。
表情を作る時間が必要だからだ。

そして――
その場に膝をつくようにして、ふらりと身体を揺らした。

「……わたくし、いったい……何を……」

涙が頬を伝い落ちる。

(※もちろん演技である)

涙の量を調整しつつ、声は震えさせすぎず。
喉を詰まらせるタイミングにも気を配る。

王宮前はひと際大きな衝撃に包まれ、貴族だけでなく通りすがりの市民までエレノアを取り囲んだ。

「なんて可哀想なの……!」
「もっと泣いてもいいのよ!」
「王子は何を考えているんだ!」

(皆さま、演技に反応いただきありがとうございます。ええ、これくらい大げさに騒いでもらったほうが“もう戻れませんわよね?”という圧になって助かりますの)

エレノアは、自分の胸元をぎゅっと握りしめる。

「殿下の……お幸せを……祈っておりますわ……」

これ以上ないほど健気な台詞を、
今世紀最大級の“悲痛な声”で放り込んだ。

ざわぁっ。

観衆の心が揺れる気配が、風に乗って伝わってくる。

(……ふふ。これで“恨んでいないアピール”は完璧ですわね。
本当は何も恨んでいませんのよ? むしろ大歓迎。
だって、明日から王宮勤めの雑務がなくなるのですもの!)

侍女ミリアが涙ぐみながら駆け寄る。

「お、お嬢様……! お気を確かに……!」

エレノアはそっとミリアの腕を借り、立ち上がる。
ゆらりと揺れる姿は、もはや“悲劇のヒロインそのもの”。

しかし、ミリアには分かる。
この顔は泣き腫らしているのではなく、完璧に計算された顔だ、と。

(……お嬢様、やっぱり楽しんでいらっしゃいますね?
目が笑ってますもの……)

ミリアは心の中で小さくツッコんだ。

エレノアは馬車へ向かう途中、振り返り、観衆へ儚げな微笑みを向ける。

「皆さま……どうか、殿下のことを……お支えくださいませ……」

その言葉は、美しく夜空へ溶けた。

――演技としては、満点以上である。

群衆は一層騒ぎ立てた。

「なんて健気なの!!」
「王子よりよほど王妃にふさわしいわ!」
「見てられない……!」

(はい、これで“王子が悪い”の世論、かなり固まりましたわね。助かりますわ)

やがて、エレノアは馬車へと乗り込み、扉が閉まる。

外の声は少しずつ遠ざかる。

……そして。

扉が閉まった瞬間、エレノアの肩がぴょこんと軽やかに跳ねた。

「……うふふっ。もう……もう本当に、終わりましたのね……!」

誰も見ていないのをいいことに、
彼女はクッションをぎゅっと抱きしめる。

「最高ではありませんこと!?
明日から早起き不要、雑務不要、理不尽な王宮行事も不要……!
ああ……! わたくし、自由になりましたのね……!」

馬車の揺れも気にならないほど、エレノアの胸は軽かった。

ミリアがそっと微笑む。

「……お嬢様。その、嬉しい気持ちは……周囲にはどうか秘密で」

「もちろんですわ。わたくし、完璧令嬢ですもの」

外では、
“捨てられた哀れな令嬢”として涙を流し――

内側では、
“解放を祝う自由令嬢”として大きく息を弾ませる。

そのギャップこそ、エレノアという令嬢の武器だった。

こうして――
自由を手にした彼女の新しい人生が本格的に動き出す。

王都はまだ知らない。
この日を境に、すべてがひっくり返ることを。

次にひっくり返るのは、
彼女を捨てた王子と“平民の天使”の番なのだから。
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