婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

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第11話 去り際の静寂と、辺境公爵の混乱

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ノルヴィア公爵ライナルトは、屋敷を後にした。
玄関が静かに閉じられ、空気がふっと軽くなる。

ミリアはその場にへたり込みそうになりながら、エレノアに向き直る。

「お……お嬢様……!」

「ミリア、そんなに肩の力を抜いてはだめですわよ。背筋を伸ばして」

「無理です!! 辺境公爵ですよ!? 王国最強のひとりですよ!?
お嬢様、なんであんな落ち着いていられるんですか!!」

エレノアは首をかしげる。

「あら、だって……普通にお客様として対応しただけですわ」

ミリアは天を仰いだ。

(この人は……! “普通”の基準が違いすぎますわ!)

エレノアは、紅茶をもう一度温めなおしながら言った。

「公爵様って、噂とは違いましたわね。
冷徹で人に興味なんてない方だと思っていましたけれど……
実際は、随分周囲をよく見ている方でしたわ」

「お嬢様……公爵様の評価を“仕事のできる同僚”みたいに語らないでください……」

エレノアはくすりと笑った。

「でも本当に、殿下とわたくしの件を丁寧に調べてくださったようでしたわ。
あの方、自分の目で確かめるまで納得なさらないタイプですわね」

ミリアは同意しつつも、少し不安げだ。

「でも……お嬢様に興味を持たれてしまったのでは?
あの鋭い目、完全に“観察対象”を見る目でしたよ?」

「観察対象……?」

エレノアはふふっと微笑んだ。

「まあ、興味を持たれるのは悪いことではありませんわ。
わたくし、もう王宮とは関係ありませんし」

ミリアは思わず身を乗り出した。

「でも、公爵様と関係ができたら、それはそれで王宮以上に大変では……!」

エレノアは、さらりと言い放った。

「公爵様が大変なのではなくて?」

ミリアは両手で顔を覆った。

(お嬢様……ほんとに……怖い……!)

その頃、屋敷を出たライナルト一行は、
王都の大通りを馬車で進んでいた。

車内は重い沈黙に包まれている。

側近の一人が、おそるおそる口を開いた。

「……公爵閣下。アルディナ嬢、想像と違いましたな」

ライナルトは短く答えた。

「全く違った」

「泣いていなかったどころか……あれは……」

「むしろ解放感に満ちていたな」

側近たちは頷きながら、そろって深いため息をついた。

「殿下では荷が重すぎたのでしょうか……」

「いや……殿下が悪いわけではない。
あれほど強い精神を持つ令嬢を、殿下が理解できなかっただけだ」

ライナルト自身、まだ整理できていない感情を胸に抱えていた。

(何だ、この感覚は……。
予想できない。
読めない。
それなのに、見続けたいと思う……?)

別の側近が口を開いた。

「閣下……アルディナ嬢を、どうなさるおつもりですか?」

ライナルトの瞳がわずかに細められた。

「どうする……か。
まだ決めていない」

言葉は慎重だ。
だが、側近たちはうっすら気づいていた。

(閣下……興味を持たれている……)

「ただ一つ言えるのは……」

「……?」

「誤解を解くと言った以上、責任は果たす。
殿下の暴走に、彼女を巻き込ませるつもりはない」

側近たちは同時に息を呑んだ。

(“守る”つもりだ……閣下が誰かを……!)

ライナルトはそのざわつきに気づきながらも、
静かに目を閉じた。

(あの微笑み……。
なぜだ、脳裏に焼きついて離れない)

馬車が石畳の上を進み、窓の外に王都の街並みが流れていく。

エレノアとライナルト。
二人が最初に交わした言葉は数えるほどだったが——
確かに運命の線は、互いに向かって伸び始めていた。

一方エレノアはというと。

紅茶を飲みながら、のんびりと呟いた。

「……公爵様の瞳、すごく綺麗でしたわね」

ミリアが椅子から落ちかけた。

「お嬢様!? な、なにを突然……!」

「いえ、ただの感想ですわ。
あのような人のもとで働く部下の方々も大変でしょうけれど……
ふふ、公爵様も大変ですわね」

ミリアは震える声で言った。

「……お嬢様が一番恐ろしいです」

こうして、エレノアの平穏な午後は続くのだった。


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