20 / 39
第21話 王子と“天使”リリィ、ついに化けの皮が剥がれる
しおりを挟む王都は朝から妙なざわつきに包まれていた。
市場でも、役所でも、酒場でも――誰もが同じ噂を口にしている。
「聞いたか? リリィ嬢、なんか怪しいって話だ」
「第一王子様が連れてる“天使の平民”? あの子が?」
「どうも、金貸しや行商人たちが“金を返さない女がいる”って騒ぎ始めてな……」
「まさか。それって……」
「……リリィ嬢らしいぞ」
その噂は瞬く間に王都中へ広がった。
そして正午――ついに、王宮近くの広場で事件が起きた。
「返済の期限はとうに過ぎてるんだよ!!」
「うそ……そんな、私……知らなくて……!」
商人三名が、泣き真似をするリリィを取り囲んで怒鳴っていた。
「知らなくて、じゃねえ! サインもされてる!!」
「王子の恋人だからって、許されるとでも思ったのか!」
野次馬がざわめく。
「サイン……? 読み書きできないって言っていたのに……」
「名前書けるじゃん……」
「読み書きできない“清らかな天使”設定、崩壊?」
リリィの顔が青ざめる。
そこへ、ちょうどアレクシオン王子が姿を現した。
「リリィ!! 何をされているんだ!」
「アレク様ぁっ! 助けてぇ……っ!」
リリィは飛びつき、王子に抱きつく。
だが商人たちは逃がさない。
「王子、こいつから借りた金を返してもらいたいんだ! 逃がすな!」
「リリィがそんなことをするわけが――!」
王子が商人たちを睨みつけたそのとき。
「では、こちらをご覧ください」
冷たい声が割り込んだ。
王宮監査官が証書の束を掲げる。
「リリィという女性からの借用書が十数枚。すべて署名入り、金額も高額。さらに――」
「ま、待って!? それは、その……!」
「ごまかすな。監査の結果、金を借りて返していないだけでなく、詐欺の疑いが強い」
広場がざわつき、空気が一気に冷え込んだ。
「まさか……リリィ嬢が詐欺師……?」
「王子様……終わった……」
「これじゃ、ただの詐欺の片棒担いでた男じゃん……」
アレクシオンの顔がみるみる蒼白になる。
「リリィ……これは、どういうことだ?」
「ち、違うの! アレク様だけは、信じて……! 私は、私は……!」
震える声で縋りつくリリィ。
しかし、その目は明らかに怯えていた。
「リリィ……?」
「アレク様、お金ならすぐに返すわ! だから――ね? お願い……!」
アレクシオンの喉がひくりと震える。
「……金を? お前に返せるのか?」
「そ、それは……アレク様が……」
「…………」
王子は絶句した。
周囲の視線は冷たく、民衆は口々に囁く。
「結局、王子の金目当てだったのか」
「エレノア様を捨ててまで選んだ相手がこれ?」
「王子、大丈夫? もう立ち直れないでしょ……」
嘲笑とも同情ともつかぬ声。
アレクシオンの膝が震え、リリィは顔を伏せる。
そして――王宮監査官が静かに告げた。
「リリィ。あなたには事情聴取を行う。潔白を主張するなら、それに見合う証拠を提示していただきます」
「い、いやあああ!! 離してっ!!」
リリィは泣き叫び、監査官たちに半ば引きずられるようにして連行されていった。
残されたアレクシオンは、広場にひとり立ち尽くす。
その目には、もはや“恋に酔う王子”の色はなかった。
「……エレノア……俺は……」
呟きは風に消えた。
---
11
あなたにおすすめの小説
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる