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第22話 王子、国中の笑い者になる
しおりを挟むリリィが監査官に連行されてから三日。
王都の空気は完全に“王子ざまぁ祭り”と化していた。
街角の市場。
野菜を並べるおばちゃんたちが、ひそひそと笑いながら噂を交わす。
「聞いた? 第一王子様、完全に騙されてたって話」
「ええ、あの“天使の平民”にねぇ」
「結局、恋に盲目だったってことかい。若いって怖いねぇ」
「いやぁ、若さ以前に見る目の問題よ」
旅の行商人がそれに加わる。
「俺は見たぜ。取り調べを受けるリリィ嬢、もう天使でもなんでもねぇ顔してた」
「怖かったわねぇ。あれじゃ悪役が天使の皮をかぶってただけだわ」
「で、王子様はあれだろ? “エレノア様を捨てた報いだ”って民衆に言われてるらしいじゃないか」
「あんな素晴らしい令嬢を捨てて……本当に馬鹿なことするねぇ」
笑い声が広がる。
そして、この噂は庶民だけでは終わらなかった。
王城でも――。
「殿下の執務室、今日も空のままです」
「また、ですか……」
「陛下がお怒りになるのも無理はありませんな」
文官たちは疲れ果てた表情で溜息をついた。
そこへ国王が通りかかる。
「アレクシオンの様子はどうだ」
「……ご報告を申し上げにくいのですが、部屋から出ておられません」
「はぁ……愚息め。公務を放棄するとは何事だ」
国王の眉間に深い皺が刻まれる。
「そもそも、エレノアを捨てた時点で兆候はあった。周囲の忠告も聞かず、勝手に婚約を破棄し、挙げ句に詐欺師に入れあげるとは……!」
怒りと呆れを隠さない国王の声が廊下に響いた。
「しかも民の信用は落ち、諸外国にも笑われている。王族として最悪の失態だ」
そのころアレクシオン本人は、薄暗い部屋で布団に包まりながら呟いていた。
「……俺は……ただ、幸せになりたかっただけなのに……」
だが、扉の外に控える侍従は冷めた目をしている。
(……エレノア様を捨てた時点で間違いだったのですよ)
その思いは、王宮の誰もが同じだった。
◆ そしてエレノアは――
一方エレノア本人はというと。
「まあ……なにやら王都が騒がしいようですが」
公爵家の庭園で紅茶を飲みながら、他人事のように空を見上げていた。
(婚約破棄されてよかった、とは心の底から思いますわ)
侍女がそっと囁く。
「エレノア様は、本当に……見る目がおありですわね」
「え? そんなことありませんわ。ただ、あの方が“私の人生に必要ない”と気づいただけですもの」
穏やかに笑うエレノアを見て、侍女はうっとりとした。
(……王子様、あれを捨てたのか。本当に信じられませんわ)
こうして――
王子は国中の笑い者に。
エレノアは辺境で優雅に暮らし、
人生は明らかに二人の間で“逆転”しつつあった。
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