婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

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30話 王都の“本物の宝石”再評価

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 リリィ捕縛の知らせは、一瞬にして王都中に広がった。
 同時に、王太子アレクシオンの評判は地に落ちる。

「詐欺師に入れあげて、公務も放り出してたって本当?」
「殿下……見る目なさすぎ……」
「捨てられたエレノア様のほうが、よほど立派だったじゃない」

 市場では、買い物客が噂を交わし、
 酒場では商人たちがため息まじりに語り、
 路地裏では子どもたちまでが話題にする。

「エレノア様って、あの完璧令嬢?」
「学校でも有名だったらしいよ。勉学も礼儀も誰より上だったって」

 ――失ってから気づく本物の価値。

 その空気が王都全体に満ちていた。

 とりわけ注目されたのは、王立魔術院が出した公式文書だった。

《本院の研究成果の多くは、元王太子妃候補エレノア・フロレンティア嬢の献身的な協力により成立した》

 この一文が大きな火種となった。

「エレノア様が……研究協力?」
「王宮はそんなこと一度も公表してなかったじゃない!」
「あの王太子、彼女の功績を全部隠してリリィを持ち上げてたのか……!」

 王宮への怒りと、エレノアへの称賛が一気に膨れ上がる。

 

 一方――王宮の中。

 側妃候補の侍女たちが、ため息をついていた。

「エレノア様、本当に惜しい方を……」
「殿下じゃなくて、別の方が相応しかったのね」
「辺境公爵家が保護したのも納得だわ」

 アレクシオンは部屋にこもり、
 外から聞こえてくる噂話に顔をゆがめた。

「……どうして……皆、エレノアばかり……」

 自分が捨てた相手を、
 民も貴族もこぞって褒め称える。

「なぜだ……リリィは天使だった。
 エレノアは……完璧すぎて、冷たかったはずだ……」

 強がりの声は、もはや誰にも届かない。

 

 その頃、辺境の公爵邸。

 侍女マリアンヌが新聞を抱えて駆け込んできた。

「エレノア様! また記事が出ておりますわよ!」

「まあ……またですの?」

 エレノアは紅茶を飲みながら、軽く目を細めた。
 公爵家に移って以来、王都の騒ぎには距離を置いている。

 だが、記事の見出しだけは目に入った。

《失われた宝石エレノア嬢――王都が悔やむ人材とは》

「……宝石、ですって?」

「はい! エレノア様が王宮におられた頃、
 どれほど有能だったか、ようやく皆が気づいたのです!」

 エレノアは肩をすくめ、微笑した。

「過ぎたことですわ。私は今の暮らしに満足していますもの」

 そこへ、ライナルト公爵が廊下から現れる。

「エレノア、王都は騒がしいようだな。
 ……気にしていないか?」

「ええ。私はただ……静かに過ごしたいだけですわ」

 エレノアの微笑みに、公爵の瞳がやわらかく揺れた。

「そうだな。君の自由は、誰にも渡さない」

 その言葉は、後に彼自身が自覚する“恋の芽”の始まりだった。

 

 王都は今、はっきりと理解した。
 “本物の宝石”を捨てたのは王太子自身だと。

 そして――
 その宝石は、もう二度と王都には戻らない。


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