婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

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31話 エレノア、公爵との生活に慣れる

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 辺境公爵領での生活にも、すっかり慣れてきた。
 エレノアはその朝、窓を開けて深呼吸をした。

 王都の喧騒とは違う、澄んだ空気。
 遠くに広がる森、朝露に濡れた庭。
 公爵家の屋敷は、驚くほど静かで心が落ち着く。

「エレノア様、おはようございます」

 侍女マリアンヌが温かい紅茶を運んできた。

「ここ数日、とても明るい表情をされていますわね」

「ええ。王宮にいた頃より、ずっと気が楽なのです。
 ここは……息がしやすいと言いますか」

 エレノアはふっと微笑む。

 朝はゆっくり起きて、
 紅茶を飲みながら読書をして、
 庭を散歩する。

 「完璧」であることを求められ続けたあの日々とは違い、
 誰も彼女を縛らない。

 ――自由。

 その言葉が胸の中に溶けるようだった。

 

 朝食の時間になると、使用人たちがさりげなく視線を向ける。

「今日もお美しいですね……」
「公爵様とお似合いですわ……」

 小声での囁きに、エレノアは軽く肩をすくめた。

「皆、勘違いをしているわ」

 とは言いつつ、
 頬がほんのり温かくなる。

 

 食堂へ向かうと、すでにライナルト公爵が席についていた。

「おはよう、エレノア。よく眠れたか?」

「はい。おかげさまで」

 その丁寧な挨拶に、公爵の口元が微かに緩む。

「以前より顔色が良いな」

「こちらの環境が肌に合っているのかもしれませんわ」

「……そうか。ならば安心だ」

 言葉はいつも通り淡々としているのに、
 目だけが不思議と優しい。

 心が、少し温まる。

 まるで――
 自分の幸せを、本気で気にしてくれているような。

 

 朝食後、庭に出ると侍女が小声で言った。

「エレノア様……公爵様、最近とても柔らかな表情をなさいますのよ。
 エレノア様が来てから、ずいぶん変わられた気がします」

「え、ええ!? わたくしのせいで……?」

「良い意味で、ですわ!」

 侍女が楽しそうに笑う。

「庭師たちも言っていました。
 “公爵様がご機嫌だと、風の流れまで違う気がする”って」

「風まで……? そんなはずありませんわ」

 呆れたようにため息をつきながらも、
 エレノアの胸は少しだけくすぐったい。

 

 日が傾き始める頃。
 ライナルト公爵が書斎から姿を見せた。

「散歩に行くのなら、護衛をつけよう。
 君が危険な目に遭うのは避けたい」

「わたくし、ただの散歩ですのに……」

「そういう問題ではない」

 その声音は有無を言わせないのに、
 どこか優しさが滲んでいた。

 エレノアは気づかない――
 その言葉の裏に、ほんの少しの“独占欲”が混ざっていることを。

 

 辺境での生活は、
 穏やかで、静かで、温かい。

 エレノアはふと思った。

(……ああ、心が休まるというのは、こういうことなのね)

 公爵邸に満ちるこの空気が、
 彼女の日常をやさしく包み始めていた。

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