婚約破棄されましたが、辺境公爵に溺愛されて自由まで手に入れました

ふわふわ

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32話 ライナルトの嫉妬(可愛い)

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 公爵邸の中庭は、今日も穏やかな陽光に包まれていた。
 エレノアは侍女マリアンヌと共に、庭園のテラスで紅茶を楽しんでいた。

「ここの薔薇、色がとても鮮やかですわね」
「はい、庭師のルーカスが丹精を込めて育てておりますの。
 エレノア様がお喜びになるように、毎日お手入れしているとか」

「まあ……そんなことまで……」

 エレノアが軽く頬を染めたその時――

「ほう。庭師の腕が良いのか?」

 背後から低い声が聞こえた。

 振り返ると、ライナルト公爵が立っていた。
 いつもの無表情……に見えるが、どこか雰囲気が違う。

「公爵様。中庭の薔薇が素晴らしくて――」

「ふん……庭師が褒められて喜ぶだろうな」

「……? ええ、とても励みになるのではないかと」

 その返答に、公爵の眉がわずかにピクリと動いた。

 

 マリアンヌが空気を察し、小声で耳打ちしてきた。

(エレノア様……公爵様、ちょっと不機嫌ですわ)

(なぜ?)

(“庭師が褒められた”からかと……)

(そんな理由で!?)

 心の中で思わず盛大にツッコむエレノア。

 

 沈黙のまま、公爵はテラス席へ歩み寄ってきた。

「……紅茶が冷めている。新しく持ってこさせる」

「い、いえ、このままで……」

「いや。君が冷めた紅茶で我慢する必要はない」

 言いながら、自らポットを手に取り、
 そっとカップへ丁寧に紅茶を注いだ。

「公爵様が……淹れてくださるなんて」

「当然だ。君が淹れてほしいと望むなら、いつでも」

「望んでなど――!」

 否定しかけて言葉が詰まる。
 侍女マリアンヌの目が「はいはい、これは確定ね」と言わんばかりに輝いている。

 

 そこへ、庭師ルーカスが通りかかった。

「エレノア様、本日はお日柄も良く――」

「……ルーカス」

 ライナルト公爵の低い声が、空気を震わせた。
 ルーカスはビクッと肩を跳ねさせる。

「な、なんでしょう、公爵様」

「仕事は済んだのか?」

「は、はいっ! ただエレノア様にご挨拶を――」

「……挨拶は後で構わん。今は持ち場へ戻れ」

「し、失礼いたします!!」

 ルーカスは全速力で庭へ走り去った。

 

 エレノアは固まった。

 マリアンヌは確信した顔。

 そしてライナルト公爵は――

「……あの男、最近よく君の近くにいるな」

「庭師ですから。それに、とても良い仕事をされていますし――」

「……ほう。よく見ているのだな、君は」

 返した言葉の意味を一瞬理解できず、
 エレノアは目を瞬かせた。

「い、いえ! そういう意味ではなくて!」

「ならば良い」

 ほんの少しだけ口角が上がった気がする。
 そう、わずかに……誇らしげに。

 

 その後、公爵はなぜかエレノアのそばから離れなかった。

 テラスで紅茶を飲むときも、
 廊下を歩くときも、
 庭へ出るときも。

(……公爵様、いつになく距離が近い気がしますわ)

 本人は全く気づいていなかった。

 このささやかな“独占欲”こそ、
 恋の始まりだということに。


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