婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ

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第二十八話 最後の頼み

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第二十八話 最後の頼み

 翌朝、元ノーランド公爵は粗末な外套を羽織り、門を出た。

 かつては四頭立ての馬車が待っていた場所。
 今は小さな借り馬車が一台だけ。

 御者も、以前の家臣ではない。

 行き先は告げてある。

 サウザー公爵邸。

 その名を口にするだけで、胸が締めつけられる。

 理性と秩序の象徴。

 自分が退けられた側。

 娘が迎えられた側。

 馬車が石畳を進むたび、過去の光景が浮かぶ。

 交際費を増やせと頼んだ日。
 帳簿を差し出した娘。
 規則を守れと諭した声。

 あのとき、耳を貸さなかったのは自分だ。

 サウザー公爵邸の門が見える。

 高く、だが威圧的ではない。

 整えられた庭。

 揺るぎのない静けさ。

 門番が近づく。

「御用向きは」

 元公爵は名乗る。

 わずかな間が空く。

 かつての爵位は付かない。

 ただの名だけ。

「面会を願いたい」

 門番は冷静に応じる。

「確認いたします」

 門はすぐには開かない。

 それが現実だ。

 待たされる時間が、身分の差を示す。

 やがて戻ってきた門番が告げる。

「公爵様はお忙しい。だが、長女様への伝言であれば承る」

 元公爵の喉が鳴る。

 長女様。

 もう自分の家の娘ではない。

 サウザー家の一員。

「……会いたい、と」

 それだけを言う。

 門番は再び下がる。

 邸内では執務が続いている。

 ナチュは報告書に目を通していた。

 家令が静かに告げる。

「門前に、元ノーランド公爵が」

 筆が止まる。

 一瞬の沈黙。

 だが表情は変わらない。

「ご用向きは」

「面会を希望」

 サウザーが窓辺から振り返る。

 視線は静かだ。

「判断は君に任せる」

 ナチュはゆっくりと書類を閉じる。

 父。

 守れなかった家の長。

 だが、血は繋がっている。

 母の教えが脳裏をよぎる。

 地位とは責任の量。

 では、今の自分の責任は何か。

 情に流れることではない。

 秩序を守ること。

 ナチュは家令に告げる。

「応接室でお待ちいただいてください」

 門が開く。

 元公爵は通される。

 かつてと同じ廊下。

 だが立場は逆だ。

 応接室に通され、一人で待つ。

 装飾は控えめ。

 だが品格がある。

 それは家が安定している証。

 扉が開く。

 ナチュが入室する。

 落ち着いた衣装。

 背筋は伸び、視線は揺れない。

 父は立ち上がる。

 一瞬、言葉が出ない。

 謝罪か、懇願か。

 どちらにせよ、遅い。

「……ナチュ」

 その呼びかけは、かつてのものと違う。

 娘に対する命令ではない。

 ただの名。

 ナチュは一礼する。

「ご用件を承ります」

 父と娘。

 だが今は、家同士の立場。

 元公爵はようやく口を開く。

「わしは……間違えた」

 声が震える。

「家を守るべき者を、遠ざけた」

 ナチュは黙って聞く。

 感情を表に出さない。

「もう一度、力を貸してくれぬか」

 それが本音だった。

 家を失った今、

 頼れるのは正統の継承者だけ。

 だが、それは甘い願いだ。

 ナチュの立場は、もう変わっている。

 彼女は静かに答える。

「私はサウザー公爵家の一員でございます」

 声は穏やか。

 だが線は引かれている。

 父は目を伏せる。

 まだ拒絶ではない。

 だが、助けは保証されない。

 最後の頼みは、これから裁かれる。

 正統とは、情では動かない。

 責任で動く。

 その意味を、元公爵はようやく理解し始めていた。
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