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第11話 監視という名の歓迎
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第11話 監視という名の歓迎
その日から、屋敷の空気が変わった。
ジェシカは、朝の紅茶を口に運びながら、はっきりとそれを感じていた。
茶葉の香りも、陽の差し方も、何ひとつ変わらない。
けれど――視線だけが、確実に増えている。
(始まったわね)
廊下に立つ使用人の配置。
庭に出る際の、さりげない同行。
偶然を装った質問の数々。
すべてが「配慮」という顔をしている。
だが実態は、監視だ。
「奥様、本日は貴族院の茶会がございます」
侍女がそう告げた時、ジェシカは内心で小さく息を吐いた。
――来た。
貴族院。
王都における権力と噂の集積地。
そこで開かれる茶会は、社交の場であると同時に、情報戦の前線でもある。
会場に足を踏み入れた瞬間、空気がわずかにざわめいた。
視線。
微笑。
探るような沈黙。
「ヴァルモント夫人、お久しぶりですわ」
そう声をかけてきたのは、柔らかな笑みを浮かべた侯爵夫人だった。
「最近、お屋敷が賑やかだとか?」
探り球。
ジェシカは、穏やかに微笑み返す。
「ええ。家の整理を少し」
「まあ、白の誓約の家が“整理”ですって?」
周囲の貴婦人たちが、さりげなく耳を傾ける。
ジェシカは気づいていた。
今日の茶会は、歓迎ではない。
確認だ。
「変化は必要ですわ」
彼女は、紅茶を口にしてから続けた。
「どんなに伝統ある家でも、澱は溜まるものですもの」
一瞬、空気が止まった。
侯爵夫人の笑みが、ほんのわずかに引きつる。
「……ずいぶん率直ですこと」
「誓約とは、信じ合うためにあるものですわ」
ジェシカは、視線を逸らさない。
「隠すためではなく」
沈黙。
誰も、否定しなかった。
その時だった。
「失礼する」
低い声が、場を割った。
入ってきたのは、貴族院監査官。
王直属の役職を持つ男だ。
「ジェシカ・ヴァルモント夫人。
少々、お話を」
周囲が息を呑む。
これは、非公式な呼び出し。
つまり――警告。
別室で向かい合った監査官は、書類を机に置いた。
「最近、貴女が“知りすぎている”という報告が上がっている」
ジェシカは、静かに答える。
「知ることは、罪ですか?」
「場合による」
「では、私の場合は?」
監査官は、しばらく彼女を見つめてから言った。
「貴女は、まだ“守られている側”だ」
その言葉に、ジェシカは微笑んだ。
「それは、誰が決めるのです?」
一瞬、男は言葉を失った。
「私は、壊すつもりはありません」
ジェシカは続ける。
「けれど、知らないままでいることも、選びません」
沈黙の後、監査官は立ち上がった。
「……賢い選択を」
それは忠告であり、脅しだった。
茶会を終えて屋敷に戻ると、アルヴィンが待っていた。
「呼ばれたな」
「ええ」
「どうだった?」
ジェシカは、外套を外しながら答える。
「歓迎されたわ。
――檻付きで」
アルヴィンは、苦く笑った。
「もう後戻りはできない」
ジェシカは、まっすぐ彼を見た。
「ええ。だから聞くわ」
静かな声だった。
「あなたは、私を“守る側”でいる?
それとも――監視する側?」
アルヴィンは、すぐには答えなかった。
その沈黙こそが、答えだった。
その夜、ジェシカは日記に一行だけ書いた。
――私は、歓迎された。
――敵として。
白い誓約は、いよいよ鎖として牙を剥き始めている。
だが同時に、それは――
反撃の舞台が整ったという合図でもあった。
その日から、屋敷の空気が変わった。
ジェシカは、朝の紅茶を口に運びながら、はっきりとそれを感じていた。
茶葉の香りも、陽の差し方も、何ひとつ変わらない。
けれど――視線だけが、確実に増えている。
(始まったわね)
廊下に立つ使用人の配置。
庭に出る際の、さりげない同行。
偶然を装った質問の数々。
すべてが「配慮」という顔をしている。
だが実態は、監視だ。
「奥様、本日は貴族院の茶会がございます」
侍女がそう告げた時、ジェシカは内心で小さく息を吐いた。
――来た。
貴族院。
王都における権力と噂の集積地。
そこで開かれる茶会は、社交の場であると同時に、情報戦の前線でもある。
会場に足を踏み入れた瞬間、空気がわずかにざわめいた。
視線。
微笑。
探るような沈黙。
「ヴァルモント夫人、お久しぶりですわ」
そう声をかけてきたのは、柔らかな笑みを浮かべた侯爵夫人だった。
「最近、お屋敷が賑やかだとか?」
探り球。
ジェシカは、穏やかに微笑み返す。
「ええ。家の整理を少し」
「まあ、白の誓約の家が“整理”ですって?」
周囲の貴婦人たちが、さりげなく耳を傾ける。
ジェシカは気づいていた。
今日の茶会は、歓迎ではない。
確認だ。
「変化は必要ですわ」
彼女は、紅茶を口にしてから続けた。
「どんなに伝統ある家でも、澱は溜まるものですもの」
一瞬、空気が止まった。
侯爵夫人の笑みが、ほんのわずかに引きつる。
「……ずいぶん率直ですこと」
「誓約とは、信じ合うためにあるものですわ」
ジェシカは、視線を逸らさない。
「隠すためではなく」
沈黙。
誰も、否定しなかった。
その時だった。
「失礼する」
低い声が、場を割った。
入ってきたのは、貴族院監査官。
王直属の役職を持つ男だ。
「ジェシカ・ヴァルモント夫人。
少々、お話を」
周囲が息を呑む。
これは、非公式な呼び出し。
つまり――警告。
別室で向かい合った監査官は、書類を机に置いた。
「最近、貴女が“知りすぎている”という報告が上がっている」
ジェシカは、静かに答える。
「知ることは、罪ですか?」
「場合による」
「では、私の場合は?」
監査官は、しばらく彼女を見つめてから言った。
「貴女は、まだ“守られている側”だ」
その言葉に、ジェシカは微笑んだ。
「それは、誰が決めるのです?」
一瞬、男は言葉を失った。
「私は、壊すつもりはありません」
ジェシカは続ける。
「けれど、知らないままでいることも、選びません」
沈黙の後、監査官は立ち上がった。
「……賢い選択を」
それは忠告であり、脅しだった。
茶会を終えて屋敷に戻ると、アルヴィンが待っていた。
「呼ばれたな」
「ええ」
「どうだった?」
ジェシカは、外套を外しながら答える。
「歓迎されたわ。
――檻付きで」
アルヴィンは、苦く笑った。
「もう後戻りはできない」
ジェシカは、まっすぐ彼を見た。
「ええ。だから聞くわ」
静かな声だった。
「あなたは、私を“守る側”でいる?
それとも――監視する側?」
アルヴィンは、すぐには答えなかった。
その沈黙こそが、答えだった。
その夜、ジェシカは日記に一行だけ書いた。
――私は、歓迎された。
――敵として。
白い誓約は、いよいよ鎖として牙を剥き始めている。
だが同時に、それは――
反撃の舞台が整ったという合図でもあった。
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