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第17話 揺れる沈黙派
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第17話 揺れる沈黙派
夜会から数日。
王都は、目に見えない緊張に包まれていた。
賛同と反発、そのどちらにも属さない“沈黙派”――
彼らの動きが、にわかに活発になり始めたのだ。
「呼び出し?」
ジェシカは、アルヴィンから渡された名簿に目を落とした。
「伯爵、子爵、準男爵……
いずれも、これまで明確な立場を取ってこなかった家だ」
「つまり」
「様子見を続けてきた層ね」
ジェシカは、静かに頷いた。
(ここが、分水嶺)
沈黙派は、敵ではない。
だが、味方でもない。
彼らがどちらに転ぶかで、
貴族社会の天秤は大きく傾く。
最初の面会は、グラント伯爵家だった。
応接間は質素で、飾り気がない。
それだけに、当主の性格が透けて見えた。
「ヴァルモント夫人」
伯爵は、深く頭を下げた。
「正直に申し上げましょう。
私は、あなたの考えに“全面的に賛成”というわけではありません」
「構いません」
ジェシカは、落ち着いて答える。
「今日は、同意を求めに来たわけではありませんから」
伯爵は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「では、何を?」
「判断材料を、お渡ししに来ました」
ジェシカは、持参した書類を差し出した。
「白の誓約に関する、過去三十年の記録です。
“問題が起きなかった”とされている事例も含めて」
伯爵は、目を通し、眉をひそめる。
「……未成年時の締結、
説明記録の欠如、
当事者の同意書なし……」
「すべて、合法です」
ジェシカは、淡々と続けた。
「“現行制度”の中では」
沈黙が落ちる。
「私は、伝統を壊したいわけではありません」
ジェシカは、伯爵をまっすぐ見た。
「ただ、“知らされないこと”を前提にした制度が、
いつまで続けられるのかを問うているだけです」
伯爵は、深く息を吐いた。
「……あなたは、危険だ」
「ええ」
ジェシカは、微笑んだ。
「変化は、いつだって危険ですから」
その言葉に、伯爵は苦笑した。
数日後。
同様の面会が、続いた。
慎重な子爵。
恐れを隠さない準男爵。
沈黙の理由は、それぞれ違う。
だが、共通していたのは――
「今のままでいいとは、思っていない」
その本音だった。
一方で、反対派も動きを強めていた。
「沈黙派を取り込む前に、叩くつもりよ」
ジェシカは、届いた情報を確認する。
「“危険思想の女”として、
公式に切り捨てる準備をしている」
アルヴィンが、低く唸った。
「評議会での決議か……」
「ええ。
そこで沈黙派がどう動くかが、すべてを決める」
夜。
ジェシカは、一人で机に向かっていた。
(私は、扇動者になりたいわけじゃない)
(ただ、選ぶ権利を奪われてきた“声”を、
無視できなくなっただけ)
ふと、あの日の少女の顔が浮かぶ。
怖い、と言った令嬢。
――あの子たちの未来を、
「伝統」という言葉で縛っていいはずがない。
翌朝。
新たな書簡が届いた。
『次の評議会において、
我々は棄権しない』
差出人は、グラント伯爵。
続けて、二通、三通。
立場表明は、まだ曖昧だ。
だが――沈黙は、破られ始めていた。
ジェシカは、静かに目を閉じた。
(動いた)
沈黙派が揺れ始めたということは、
貴族社会そのものが、
「選ぶ」段階に入ったということ。
次の戦場は、
社交界ではない。
――評議会。
制度の中枢で、
“声を上げた者を排除するか、
問いを受け止めるか”。
その選択が、
まもなく下されようとしていた。
夜会から数日。
王都は、目に見えない緊張に包まれていた。
賛同と反発、そのどちらにも属さない“沈黙派”――
彼らの動きが、にわかに活発になり始めたのだ。
「呼び出し?」
ジェシカは、アルヴィンから渡された名簿に目を落とした。
「伯爵、子爵、準男爵……
いずれも、これまで明確な立場を取ってこなかった家だ」
「つまり」
「様子見を続けてきた層ね」
ジェシカは、静かに頷いた。
(ここが、分水嶺)
沈黙派は、敵ではない。
だが、味方でもない。
彼らがどちらに転ぶかで、
貴族社会の天秤は大きく傾く。
最初の面会は、グラント伯爵家だった。
応接間は質素で、飾り気がない。
それだけに、当主の性格が透けて見えた。
「ヴァルモント夫人」
伯爵は、深く頭を下げた。
「正直に申し上げましょう。
私は、あなたの考えに“全面的に賛成”というわけではありません」
「構いません」
ジェシカは、落ち着いて答える。
「今日は、同意を求めに来たわけではありませんから」
伯爵は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「では、何を?」
「判断材料を、お渡ししに来ました」
ジェシカは、持参した書類を差し出した。
「白の誓約に関する、過去三十年の記録です。
“問題が起きなかった”とされている事例も含めて」
伯爵は、目を通し、眉をひそめる。
「……未成年時の締結、
説明記録の欠如、
当事者の同意書なし……」
「すべて、合法です」
ジェシカは、淡々と続けた。
「“現行制度”の中では」
沈黙が落ちる。
「私は、伝統を壊したいわけではありません」
ジェシカは、伯爵をまっすぐ見た。
「ただ、“知らされないこと”を前提にした制度が、
いつまで続けられるのかを問うているだけです」
伯爵は、深く息を吐いた。
「……あなたは、危険だ」
「ええ」
ジェシカは、微笑んだ。
「変化は、いつだって危険ですから」
その言葉に、伯爵は苦笑した。
数日後。
同様の面会が、続いた。
慎重な子爵。
恐れを隠さない準男爵。
沈黙の理由は、それぞれ違う。
だが、共通していたのは――
「今のままでいいとは、思っていない」
その本音だった。
一方で、反対派も動きを強めていた。
「沈黙派を取り込む前に、叩くつもりよ」
ジェシカは、届いた情報を確認する。
「“危険思想の女”として、
公式に切り捨てる準備をしている」
アルヴィンが、低く唸った。
「評議会での決議か……」
「ええ。
そこで沈黙派がどう動くかが、すべてを決める」
夜。
ジェシカは、一人で机に向かっていた。
(私は、扇動者になりたいわけじゃない)
(ただ、選ぶ権利を奪われてきた“声”を、
無視できなくなっただけ)
ふと、あの日の少女の顔が浮かぶ。
怖い、と言った令嬢。
――あの子たちの未来を、
「伝統」という言葉で縛っていいはずがない。
翌朝。
新たな書簡が届いた。
『次の評議会において、
我々は棄権しない』
差出人は、グラント伯爵。
続けて、二通、三通。
立場表明は、まだ曖昧だ。
だが――沈黙は、破られ始めていた。
ジェシカは、静かに目を閉じた。
(動いた)
沈黙派が揺れ始めたということは、
貴族社会そのものが、
「選ぶ」段階に入ったということ。
次の戦場は、
社交界ではない。
――評議会。
制度の中枢で、
“声を上げた者を排除するか、
問いを受け止めるか”。
その選択が、
まもなく下されようとしていた。
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