34 / 40
第34話 揺らぐ秩序
しおりを挟む
第34話 揺らぐ秩序
変化は、
静かに――
だが確実に、
広がっていた。
王都の片隅で囁かれる噂は、
もはや「妙な場所がある」
という段階を越えていた。
「名を聞かれない」
「登録がない」
「誰も責任を取らない」
それは本来、
危険な要素の集合だ。
だからこそ――
秩序を生業とする者たちにとって、
無視できない。
王城内、
法務院の会議室。
重厚な扉の内側で、
数人の高官が
書類を囲んでいた。
「報告は?」
中央席の男が問う。
「第三地区、
例の非登録施設です」
若い書記官が、
慎重に言葉を選ぶ。
「利用者数は不明。
記録なし。
資金の流れも不透明」
「閉鎖理由としては?」
「……
成立します」
一瞬、
空気が緩む。
だが。
「問題は」
別の声が、
割り込んだ。
「閉鎖した場合の反応だ」
その一言で、
場が静まる。
「既に、
複数の貴族家から
“関心”が寄せられています」
「関心?」
「公式な抗議ではありません。
しかし――」
書記官は、
一枚の紙を差し出す。
「“なぜ、
あの場所が危険なのか
説明せよ”
という内容です」
高官の眉が、
わずかに動く。
「……
説明が、
できないな」
できない。
なぜなら、
あの場所は
制度を破っていない。
制度に、
載っていないだけだ。
「管理されていない、
という一点だけでは、
理由として弱い」
「だが、
放置すれば、
前例になる」
前例。
それこそが、
制度が最も恐れるもの。
「ジェシカ・ヴァルモント」
誰かが名前を口にした。
「彼女が、
表に出ない限り、
強硬策は取りづらい」
「なら、
出させればいい」
静かな声。
「どうやって?」
「“選択肢”を
与える」
数日後。
第三の場所に、
一通の書状が届いた。
封蝋は、
王城のもの。
ジェシカは、
それを開いた。
内容は、
簡潔だった。
> ジェシカ・ヴァルモント殿
貴殿の活動について、
王城より
公式な場での説明を求める。
応じた場合、
当該施設の
暫定的存続を認める。
暫定。
その言葉に、
全てが詰まっている。
「……
表に出ろ、
ということですね」
側にいた女性が、
呟いた。
ジェシカは、
頷く。
「ええ。
そして――
名を与えろ、
という意味でもある」
沈黙。
ここにいる誰もが、
それを理解していた。
名を持てば、
管理される。
管理されれば、
役割を背負う。
「行くんですか?」
誰かが問う。
ジェシカは、
書状を折り畳んだ。
「行きます」
即答だった。
「ただし」
一呼吸。
「代表としては
行きません」
「え?」
「個人としてです」
それは、
制度にとって
最も扱いづらい形。
「私は、
場所の名を語らない。
人の名も語らない」
ただ、
自分の言葉だけで
立つ。
「もし、
それで潰されるなら――」
ジェシカは、
扉の方を見た。
「この場所は、
役目を終えた
ということです」
誰も、
止めなかった。
止められないと、
分かっていたから。
秩序は、
揺らぎ始めている。
それは、
破壊ではない。
説明できない存在が
現れたという事実。
制度は、
次の一手を
誤ればならない。
その舞台に、
ジェシカは――
名を背負わずに
立つつもりだった。
そして、
王城はまだ、
それが
どれほど危険かを
知らない。
変化は、
静かに――
だが確実に、
広がっていた。
王都の片隅で囁かれる噂は、
もはや「妙な場所がある」
という段階を越えていた。
「名を聞かれない」
「登録がない」
「誰も責任を取らない」
それは本来、
危険な要素の集合だ。
だからこそ――
秩序を生業とする者たちにとって、
無視できない。
王城内、
法務院の会議室。
重厚な扉の内側で、
数人の高官が
書類を囲んでいた。
「報告は?」
中央席の男が問う。
「第三地区、
例の非登録施設です」
若い書記官が、
慎重に言葉を選ぶ。
「利用者数は不明。
記録なし。
資金の流れも不透明」
「閉鎖理由としては?」
「……
成立します」
一瞬、
空気が緩む。
だが。
「問題は」
別の声が、
割り込んだ。
「閉鎖した場合の反応だ」
その一言で、
場が静まる。
「既に、
複数の貴族家から
“関心”が寄せられています」
「関心?」
「公式な抗議ではありません。
しかし――」
書記官は、
一枚の紙を差し出す。
「“なぜ、
あの場所が危険なのか
説明せよ”
という内容です」
高官の眉が、
わずかに動く。
「……
説明が、
できないな」
できない。
なぜなら、
あの場所は
制度を破っていない。
制度に、
載っていないだけだ。
「管理されていない、
という一点だけでは、
理由として弱い」
「だが、
放置すれば、
前例になる」
前例。
それこそが、
制度が最も恐れるもの。
「ジェシカ・ヴァルモント」
誰かが名前を口にした。
「彼女が、
表に出ない限り、
強硬策は取りづらい」
「なら、
出させればいい」
静かな声。
「どうやって?」
「“選択肢”を
与える」
数日後。
第三の場所に、
一通の書状が届いた。
封蝋は、
王城のもの。
ジェシカは、
それを開いた。
内容は、
簡潔だった。
> ジェシカ・ヴァルモント殿
貴殿の活動について、
王城より
公式な場での説明を求める。
応じた場合、
当該施設の
暫定的存続を認める。
暫定。
その言葉に、
全てが詰まっている。
「……
表に出ろ、
ということですね」
側にいた女性が、
呟いた。
ジェシカは、
頷く。
「ええ。
そして――
名を与えろ、
という意味でもある」
沈黙。
ここにいる誰もが、
それを理解していた。
名を持てば、
管理される。
管理されれば、
役割を背負う。
「行くんですか?」
誰かが問う。
ジェシカは、
書状を折り畳んだ。
「行きます」
即答だった。
「ただし」
一呼吸。
「代表としては
行きません」
「え?」
「個人としてです」
それは、
制度にとって
最も扱いづらい形。
「私は、
場所の名を語らない。
人の名も語らない」
ただ、
自分の言葉だけで
立つ。
「もし、
それで潰されるなら――」
ジェシカは、
扉の方を見た。
「この場所は、
役目を終えた
ということです」
誰も、
止めなかった。
止められないと、
分かっていたから。
秩序は、
揺らぎ始めている。
それは、
破壊ではない。
説明できない存在が
現れたという事実。
制度は、
次の一手を
誤ればならない。
その舞台に、
ジェシカは――
名を背負わずに
立つつもりだった。
そして、
王城はまだ、
それが
どれほど危険かを
知らない。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる