白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ

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第37話 静かな崩れ方

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第37話 静かな崩れ方

 

 制度が最も恐れるのは、
 反乱ではない。

 

 説明できない変化だ。

 

 第三の場所は、
 今日も変わらず開いていた。

 

 扉は半開き。
 看板もない。
 呼び込みもない。

 

 それなのに、
 人は来る。

 

 理由を聞かれないから。
 役割を求められないから。

 

 ただ、
 そこに座れるから。

 

 午前。

 

 王都の記録官が来た。

 

 正式な外套。
 正式な印章。

 

 だが、
 態度は妙に柔らかい。

 

「視察です」

 

 それ以上、
 何も言わない。

 

 ジェシカは、
 頷いた。

 

「どうぞ」

 

 案内はしない。

 

 質問も、
 投げない。

 

 記録官は、
 困ったように
 室内を見回した。

 

 人数。
 年齢。
 職業。

 

 どれも、
 測りにくい。

 

「……
 ここでは、
 何をしているのですか」

 

 ついに、
 耐えきれず聞いた。

 

 ジェシカは、
 少し考えた。

 

「何も
 していません」

 

「……
 それは、
 回答になりません」

 

「ええ」

 

 即答。

 

「だから、
 正確です」

 

 記録官は、
 言葉を失った。

 

 午後。

 

 王城の内部で、
 小さな混乱が起きた。

 

 第三の場所を
 利用した者のうち、
 数名が――

 

 自発的に職を変えた。

 

 命令ではない。
 圧力でもない。

 

 自分で選んだ。

 

 理由は、
 どれも似ている。

 

「戻れたから」

 

 それだけ。

 

 制度は、
 それを“異常”と
 記録した。

 

 だが、
 対処法がない。

 

 命令違反ではない。
 怠慢でもない。

 

 むしろ、
 生産性は上がっている。

 

 夕刻。

 

 アルヴィンが、
 低い声で言った。

 

「王城が、
 分裂し始めている」

 

「でしょうね」

 

「排除派と、
 利用派に」

 

「……
 どちらも、
 理解していない」

 

 ジェシカは、
 静かに言った。

 

「利用できると思っているうちは、
 まだ余裕がある」

 

「では、
 本当の危険は?」

 

「――
 名前を付けられなくなったとき」

 

 夜。

 

 第三の場所に、
 新しい人物が現れた。

 

 王城の下級官僚。

 

 制服を脱ぎ、
 外套だけで立っている。

 

「……
 ここに来ると、
 叱られますか」

 

「いいえ」

 

「評価は?」

 

「しません」

 

「……
 罰は?」

 

 ジェシカは、
 首を横に振った。

 

「ありません」

 

 官僚は、
 深く息を吐いた。

 

「それなら……
 少しだけ」

 

 その言葉が、
 制度の隙間だった。

 

 夜更け。

 

 王城の会議室で、
 こんな報告が上がる。

 

「第三の場所は、
 秩序を乱してはいません」

 

「だが、
 秩序を
 強化もしていない」

 

 沈黙。

 

 誰も、
 それを
 どう扱えばいいか
 分からない。

 

 ジェシカは、
 窓を開けた。

 

 夜風が、
 静かに入る。

 

 壊していない。
 攻撃していない。

 

 それでも。

 

 制度は、
 内側から
 軋み始めている。

 

 静かな崩れ方は、
 音がしない。

 

 だからこそ――
 止められない。
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