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第3話 下賜は、追放ではない
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第3話 下賜は、追放ではない
後宮において、下賜という言葉は、決して珍しいものではなくなっていた。
かつては、皇帝の寵愛を受けた姫が、功績ある臣下に与えられる――
そうした特別な意味を持っていたらしい。
だが今は違う。
後宮の人数は増えすぎ、
すべてを抱え続けることはできなくなっている。
そのため下賜は、
名誉であると同時に、
整理のための制度として機能していた。
「選ばれたのよ。おめでとう」
そう言って微笑む姫もいる。
だが、その笑みの裏にあるのは、羨望よりも安堵だ。
自分ではなかった。
今日は、まだ自分の番ではない。
その程度の感情しか、
後宮には残っていなかった。
タニアは、その空気を冷静に眺めていた。
下賜された姫が、どんな末路を辿るのか。
それは一様ではない。
良い家に迎えられ、
正妻として遇される者もいる。
だが多くは、
ただ“与えられた”だけだ。
相手の性格も、屋敷の状況も知らされない。
拒否権はない。
条件交渉もない。
それでも、後宮に残るよりはましだと、
多くの姫が思っていた。
なぜなら――
後宮に残る未来には、
確実な終わりが待っているからだ。
年を取れば、呼ばれなくなる。
呼ばれなくなれば、存在が薄れる。
存在が薄れれば、ある日突然、
「整理」される。
その時には、
行き先を選ぶ余地すら残っていない。
だからこそ、下賜は、
追放ではない。
少なくとも、
選択肢があるうちに外へ出る機会ではある。
タニアは、その現実を理解していた。
「下賜は、怖くないの?」
かつて、そう尋ねられたことがある。
その姫は、まだ若く、
まだ期待を捨てきれていなかった。
タニアは、少し考えてから答えた。
「怖くないわけじゃないわ」
だが、続く言葉は、
相手の想像とは違っていた。
「でも、何も起こらないまま年を取る方が、もっと怖い」
姫は、黙り込んだ。
それが、この世界の現実だった。
下賜は、
“捨てられる”ことではない。
むしろ、
使い道があるうちに、外へ出されるということだ。
残酷ではあるが、
理にかなっている。
そして、だからこそ――
側近たちは、下賜の人選に頭を悩ませていた。
誰を出すか。
誰を残すか。
実家の力関係。
後ろ盾。
派閥。
本来は、それらを考慮して決めるのが慣例だ。
だが、後宮の人数が増えすぎた今、
すべてを精査する余裕はない。
その結果、
賄賂が横行するようになった。
「今回は、あの姫を」
「こちらの事情も、少し考慮してほしい」
そんなやり取りが、
側近たちの間で、半ば公然と行われている。
誰が選ばれても、
どうせ皇帝は細かくは見ない。
――それが、彼らの本音だった。
タニアは、そうした話を、
直接聞いたことはない。
だが、
察するには十分な経験があった。
だからこそ、
下賜の内示を受けたとき、
彼女は理解した。
これは、
誰かの悪意であり、
同時に、制度の結果だ。
自分が有能すぎたのかもしれない。
目立ちすぎたのかもしれない。
あるいは、
誰かにとって、
邪魔な存在になっただけかもしれない。
理由は、どうでもいい。
重要なのは、
これから、どこへ行くかだ。
下賜先は、
アークトゥルス侯爵。
戦場で功績を挙げ、
軍師としても重用されている男。
情報として知っているのは、
それだけだった。
だが、少なくとも――
無能ではない。
それだけで、
十分だった。
タニアは、静かに息を整える。
追放ではない。
終わりでもない。
これは、
盤面が変わるだけだ。
そう理解できる自分を、
彼女は少しだけ、
信頼していた。
後宮において、下賜という言葉は、決して珍しいものではなくなっていた。
かつては、皇帝の寵愛を受けた姫が、功績ある臣下に与えられる――
そうした特別な意味を持っていたらしい。
だが今は違う。
後宮の人数は増えすぎ、
すべてを抱え続けることはできなくなっている。
そのため下賜は、
名誉であると同時に、
整理のための制度として機能していた。
「選ばれたのよ。おめでとう」
そう言って微笑む姫もいる。
だが、その笑みの裏にあるのは、羨望よりも安堵だ。
自分ではなかった。
今日は、まだ自分の番ではない。
その程度の感情しか、
後宮には残っていなかった。
タニアは、その空気を冷静に眺めていた。
下賜された姫が、どんな末路を辿るのか。
それは一様ではない。
良い家に迎えられ、
正妻として遇される者もいる。
だが多くは、
ただ“与えられた”だけだ。
相手の性格も、屋敷の状況も知らされない。
拒否権はない。
条件交渉もない。
それでも、後宮に残るよりはましだと、
多くの姫が思っていた。
なぜなら――
後宮に残る未来には、
確実な終わりが待っているからだ。
年を取れば、呼ばれなくなる。
呼ばれなくなれば、存在が薄れる。
存在が薄れれば、ある日突然、
「整理」される。
その時には、
行き先を選ぶ余地すら残っていない。
だからこそ、下賜は、
追放ではない。
少なくとも、
選択肢があるうちに外へ出る機会ではある。
タニアは、その現実を理解していた。
「下賜は、怖くないの?」
かつて、そう尋ねられたことがある。
その姫は、まだ若く、
まだ期待を捨てきれていなかった。
タニアは、少し考えてから答えた。
「怖くないわけじゃないわ」
だが、続く言葉は、
相手の想像とは違っていた。
「でも、何も起こらないまま年を取る方が、もっと怖い」
姫は、黙り込んだ。
それが、この世界の現実だった。
下賜は、
“捨てられる”ことではない。
むしろ、
使い道があるうちに、外へ出されるということだ。
残酷ではあるが、
理にかなっている。
そして、だからこそ――
側近たちは、下賜の人選に頭を悩ませていた。
誰を出すか。
誰を残すか。
実家の力関係。
後ろ盾。
派閥。
本来は、それらを考慮して決めるのが慣例だ。
だが、後宮の人数が増えすぎた今、
すべてを精査する余裕はない。
その結果、
賄賂が横行するようになった。
「今回は、あの姫を」
「こちらの事情も、少し考慮してほしい」
そんなやり取りが、
側近たちの間で、半ば公然と行われている。
誰が選ばれても、
どうせ皇帝は細かくは見ない。
――それが、彼らの本音だった。
タニアは、そうした話を、
直接聞いたことはない。
だが、
察するには十分な経験があった。
だからこそ、
下賜の内示を受けたとき、
彼女は理解した。
これは、
誰かの悪意であり、
同時に、制度の結果だ。
自分が有能すぎたのかもしれない。
目立ちすぎたのかもしれない。
あるいは、
誰かにとって、
邪魔な存在になっただけかもしれない。
理由は、どうでもいい。
重要なのは、
これから、どこへ行くかだ。
下賜先は、
アークトゥルス侯爵。
戦場で功績を挙げ、
軍師としても重用されている男。
情報として知っているのは、
それだけだった。
だが、少なくとも――
無能ではない。
それだけで、
十分だった。
タニアは、静かに息を整える。
追放ではない。
終わりでもない。
これは、
盤面が変わるだけだ。
そう理解できる自分を、
彼女は少しだけ、
信頼していた。
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