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第5話 計算できる女は、嫌われる
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第5話 計算できる女は、嫌われる
後宮で生きるうえで、
一つだけ、確実に嫌われる資質がある。
――計算できること。
それは、口には出されない。
だが、はっきりと伝わってくる。
感情を表に出さず、
無駄に期待せず、
状況を見て、次を考える。
そういう女は、後宮では浮く。
「冷たいわね」
「夢がない」
「可愛げがない」
そうした言葉が、
遠回しに、何度も投げかけられてきた。
タニアは、それを否定しなかった。
否定する理由が、なかったからだ。
夢を見てどうする。
期待して、裏切られて、
そのあとに残るのは、
時間を失った現実だけだ。
後宮では、
時間こそが最大の資産であり、
最大の敵でもある。
若さは、有限だ。
そして、その減り方は平等ではない。
誰かが呼ばれている間にも、
誰かは、ただ待たされる。
待つことに意味がある世界ではない。
待つだけの姫は、
確実に取り残されていく。
タニアは、それを知っていた。
だから彼女は、
人の噂話に加わらなかった。
誰が呼ばれたか、
誰が寵愛を受けているか。
そうした話題に、
一切、興味を示さなかった。
代わりに、
側近の動きを見る。
女官たちの態度を見る。
誰が忙しくなり、
誰が余裕を失っているかを見る。
それが、
後宮の流れを知る一番の近道だった。
「あなた、本当に変わってるわね」
そう言ってきたのは、
ハマルだった。
いつも自信に満ちた笑みを浮かべ、
自分が“選ばれる側”だと疑わない女。
彼女は、タニアを見下ろすように、
ゆっくりと視線を巡らせた。
「下賜されるって聞いたわ。
かわいそうに」
その言葉には、
同情の色など、どこにもない。
あるのは、
優越感と確信だけだ。
――自分は、違う。
そう思っている顔だった。
タニアは、軽く首を傾げる。
「そうかしら」
「だって、終わりじゃない。
ここを出るなんて」
ハマルは、楽しそうに言った。
「私はね、
ちゃんと分かってるの。
女は、可愛くしていればいいのよ」
タニアは、その言葉を否定しなかった。
否定する必要が、なかったからだ。
「そう思えるなら、
それでいいと思うわ」
静かな返答に、
ハマルは一瞬だけ、
不満そうな顔をした。
期待していた反応ではなかったのだろう。
「あなたって、本当に張り合いがないわね」
そう言い残し、
彼女は去っていった。
タニアは、その背中を見送りながら、
心の中で、淡々と評価を下す。
――あの人は、考えない。
それは、
後宮では致命的だ。
自分が選ばれる理由を、
疑わない女。
自分が外される可能性を、
想像しない女。
その無防備さは、
今は強みに見えるかもしれない。
だが、
盤面が変わった瞬間、
一気に弱点になる。
タニアは、
自分が嫌われる理由を理解していた。
計算できる女は、
安心できない。
周囲にとっては、
扱いづらい。
だから、
先に外される。
だが、それでいい。
嫌われてもいい。
目立たなくていい。
好かれなくていい。
生き残れれば、それでいい。
後宮は、
好かれた者が勝つ場所ではない。
最後まで、
盤面に残った者が勝つ場所だ。
タニアは、
静かにそう結論づけていた。
後宮で生きるうえで、
一つだけ、確実に嫌われる資質がある。
――計算できること。
それは、口には出されない。
だが、はっきりと伝わってくる。
感情を表に出さず、
無駄に期待せず、
状況を見て、次を考える。
そういう女は、後宮では浮く。
「冷たいわね」
「夢がない」
「可愛げがない」
そうした言葉が、
遠回しに、何度も投げかけられてきた。
タニアは、それを否定しなかった。
否定する理由が、なかったからだ。
夢を見てどうする。
期待して、裏切られて、
そのあとに残るのは、
時間を失った現実だけだ。
後宮では、
時間こそが最大の資産であり、
最大の敵でもある。
若さは、有限だ。
そして、その減り方は平等ではない。
誰かが呼ばれている間にも、
誰かは、ただ待たされる。
待つことに意味がある世界ではない。
待つだけの姫は、
確実に取り残されていく。
タニアは、それを知っていた。
だから彼女は、
人の噂話に加わらなかった。
誰が呼ばれたか、
誰が寵愛を受けているか。
そうした話題に、
一切、興味を示さなかった。
代わりに、
側近の動きを見る。
女官たちの態度を見る。
誰が忙しくなり、
誰が余裕を失っているかを見る。
それが、
後宮の流れを知る一番の近道だった。
「あなた、本当に変わってるわね」
そう言ってきたのは、
ハマルだった。
いつも自信に満ちた笑みを浮かべ、
自分が“選ばれる側”だと疑わない女。
彼女は、タニアを見下ろすように、
ゆっくりと視線を巡らせた。
「下賜されるって聞いたわ。
かわいそうに」
その言葉には、
同情の色など、どこにもない。
あるのは、
優越感と確信だけだ。
――自分は、違う。
そう思っている顔だった。
タニアは、軽く首を傾げる。
「そうかしら」
「だって、終わりじゃない。
ここを出るなんて」
ハマルは、楽しそうに言った。
「私はね、
ちゃんと分かってるの。
女は、可愛くしていればいいのよ」
タニアは、その言葉を否定しなかった。
否定する必要が、なかったからだ。
「そう思えるなら、
それでいいと思うわ」
静かな返答に、
ハマルは一瞬だけ、
不満そうな顔をした。
期待していた反応ではなかったのだろう。
「あなたって、本当に張り合いがないわね」
そう言い残し、
彼女は去っていった。
タニアは、その背中を見送りながら、
心の中で、淡々と評価を下す。
――あの人は、考えない。
それは、
後宮では致命的だ。
自分が選ばれる理由を、
疑わない女。
自分が外される可能性を、
想像しない女。
その無防備さは、
今は強みに見えるかもしれない。
だが、
盤面が変わった瞬間、
一気に弱点になる。
タニアは、
自分が嫌われる理由を理解していた。
計算できる女は、
安心できない。
周囲にとっては、
扱いづらい。
だから、
先に外される。
だが、それでいい。
嫌われてもいい。
目立たなくていい。
好かれなくていい。
生き残れれば、それでいい。
後宮は、
好かれた者が勝つ場所ではない。
最後まで、
盤面に残った者が勝つ場所だ。
タニアは、
静かにそう結論づけていた。
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