婆になる前に、嫁に行きます ――私が下賜を受け入れた理由――

ふわふわ

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第24話 守る側に立つ覚悟

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第24話 守る側に立つ覚悟

正妻として認められてから、
屋敷の内外で起こる出来事の質が変わった。

数は増えない。
だが、一つ一つが重い。

「侯爵夫人殿下」

そう呼ばれて訪ねてきたのは、
領内の小領主の使者だった。

内容は、
農地の管理を巡る訴え。

旱魃で収穫が落ち、
年貢の納入が難しいという。

以前なら、
この種の案件は後回しにされていた。
中央にとって重要ではないからだ。

だが今、
判断を求められているのは、
彼女だった。

「減免を求めています」

使者の声は、
どこか必死だ。

タニアは、
提出された資料に目を通す。

数字は、
誤魔化されていない。

「虚偽は?」

「ございません」

一瞬、
彼女は考える。

慈悲で決める話ではない。
だが、
切り捨てれば、
その土地は荒れる。

「一部減免と、
来年分の前倒し納入」

「それでは……」

「生き残れるはずです」

静かな声。

感情ではなく、
計算。

使者は、
しばらく沈黙した後、
深く頭を下げた。

「感謝いたします」

彼が去った後、
侍女長が小声で言う。

「甘いと、
思われませんか」

タニアは、
首を横に振る。

「切り捨てる方が、
高くつきます」

それだけだ。

午後、
別の報告が届く。

屋敷の下働きの一人が、
家族の病で働けなくなっている。

規則通りなら、
解雇。

だが――

「配置を変えます」

「ですが、人手が……」

「補います」

理由は、
それだけ。

情に流されたわけではない。

彼は、
誠実に働いていた。

その評価を、
無にする理由はない。

夕刻、
アークが言う。

「お前は、
切らない判断が多い」

責める口調ではない。

「切るのは、
簡単です」

タニアは答える。

「ですが、
切った後の責任は、
誰も取らない」

アークは、
しばらく黙っていた。

「……守る側に、
回ったな」

その言葉に、
タニアは否定しなかった。

後宮にいた頃、
彼女は常に
守られる側ですらなかった。

利用され、
消耗され、
捨てられる存在。

今は違う。

ここでは、
彼女の判断で、
誰かが生き、
誰かが残る。

それは、
重い。

だが、
逃げたいとは思わなかった。

夜、
自室で一人、
考える。

正妻になったから、
守るのではない。

判断できる立場に立ったから、
守る責任が生まれた。

それだけのことだ。

後宮では、
守るという選択肢はなかった。

今はある。

それを、
使わない理由はない。

タニアは、
静かに目を閉じる。

婆になる前に、
行き先を選んだ。

だが今は――
誰かの行き先を、
少しだけ延ばす女になっていた。

それが、
正しいかどうかは分からない。

だが、
この世界で生き残るために、
彼女が選んだ道だった。

そしてその道は、
もう後戻りできないほど、
はっきりと形を持ち始めていた。
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