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第26話 下賜の行き先
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第26話 下賜の行き先
ハマルの下賜が、正式に決まったのは翌日だった。
中央からの通達は、
いつものように簡潔で、
そして冷酷だった。
「後宮の秩序維持のため、
ハマルをカウス・アウストラリス子爵へ下賜する」
理由は、
一切書かれていない。
だが、
理由が不要なのが下賜という制度だ。
「……決まりましたか」
侍女長の声には、
わずかな緊張が混じっている。
タニアは、
書面から目を離さず頷いた。
「はい。
これで確定です」
後宮にいた者なら、
この一文の意味がどれほど重いかを知っている。
それは、
追放でも、
左遷でもない。
所有者の変更だ。
午後、
別の報告が入る。
「カウス子爵は、
非常に喜んでいる様子です」
「……そう」
粗野で、
豪快で、
女を“飾り”として扱う男。
中央の者たちが、
侮蔑を込めて
“蛮族”と呼ぶ存在。
だが――
彼は子爵だ。
れっきとした貴族であり、
戦功で地位を得た男でもある。
「ハマルは、
まだ知らないようです」
タニアは、
その言葉に一瞬だけ、
目を伏せた。
知らされるのは、
直前だろう。
逃げる時間も、
考える余裕も与えない。
それが、
後宮のやり方だ。
「彼女は……
抵抗するでしょうか」
侍女長が、
恐る恐る尋ねる。
「するでしょう」
即答だった。
「ですが、
意味はありません」
抵抗できるのは、
力がある者だけだ。
ハマルは、
中央で切られた。
それだけで、
すべてが決まっている。
夕刻、
アークが言う。
「辺境に、
“厄介払い”をしたな」
皮肉混じりの言葉。
「辺境は、
中央の掃き溜めではありません」
タニアは、
静かに返す。
「ですが、
中央はそう扱う」
「……そうだな」
アークは、
それ以上言わなかった。
彼もまた、
中央のやり方を
熟知している。
「ハマルは、
生き残れますか」
ふと、
彼が問う。
タニアは、
少し考えてから答えた。
「生きるだけなら、
可能でしょう」
「だが?」
「誇りは、
削られ続けます」
それは、
呪いに近い。
後宮で、
“選ぶ側”にいた女が、
選ばれる側に落ちる。
しかも、
中央から見下される場所で。
アークは、
短く息を吐いた。
「お前は、
それを見てきた」
「はい」
「……残酷だな」
タニアは、
否定しなかった。
残酷なのは、
制度だ。
個人の感情ではない。
夜、
タニアは一人、
自室で考える。
もし、
あの時。
自分が、
もう少し感情的だったら。
ハマルを、
許していたら。
結果は、
変わっただろうか。
答えは、
否だ。
後宮では、
情は弱点になる。
助けた者から、
次に切られる。
それが、
この世界の現実。
「私は、
正しかった」
そう言い聞かせるように、
呟く。
それは、
自己弁護ではない。
生き残るための、
確認だった。
下賜は、
終わりではない。
新しい地獄の、
始まりだ。
そして――
タニアはもう、
その地獄の内側にはいない。
その事実を、
静かに噛みしめながら、
彼女は灯りを消した。
次に動くのは、
中央か、
辺境か。
いずれにせよ、
彼女はもう、
流される側ではなかった。
ハマルの下賜が、正式に決まったのは翌日だった。
中央からの通達は、
いつものように簡潔で、
そして冷酷だった。
「後宮の秩序維持のため、
ハマルをカウス・アウストラリス子爵へ下賜する」
理由は、
一切書かれていない。
だが、
理由が不要なのが下賜という制度だ。
「……決まりましたか」
侍女長の声には、
わずかな緊張が混じっている。
タニアは、
書面から目を離さず頷いた。
「はい。
これで確定です」
後宮にいた者なら、
この一文の意味がどれほど重いかを知っている。
それは、
追放でも、
左遷でもない。
所有者の変更だ。
午後、
別の報告が入る。
「カウス子爵は、
非常に喜んでいる様子です」
「……そう」
粗野で、
豪快で、
女を“飾り”として扱う男。
中央の者たちが、
侮蔑を込めて
“蛮族”と呼ぶ存在。
だが――
彼は子爵だ。
れっきとした貴族であり、
戦功で地位を得た男でもある。
「ハマルは、
まだ知らないようです」
タニアは、
その言葉に一瞬だけ、
目を伏せた。
知らされるのは、
直前だろう。
逃げる時間も、
考える余裕も与えない。
それが、
後宮のやり方だ。
「彼女は……
抵抗するでしょうか」
侍女長が、
恐る恐る尋ねる。
「するでしょう」
即答だった。
「ですが、
意味はありません」
抵抗できるのは、
力がある者だけだ。
ハマルは、
中央で切られた。
それだけで、
すべてが決まっている。
夕刻、
アークが言う。
「辺境に、
“厄介払い”をしたな」
皮肉混じりの言葉。
「辺境は、
中央の掃き溜めではありません」
タニアは、
静かに返す。
「ですが、
中央はそう扱う」
「……そうだな」
アークは、
それ以上言わなかった。
彼もまた、
中央のやり方を
熟知している。
「ハマルは、
生き残れますか」
ふと、
彼が問う。
タニアは、
少し考えてから答えた。
「生きるだけなら、
可能でしょう」
「だが?」
「誇りは、
削られ続けます」
それは、
呪いに近い。
後宮で、
“選ぶ側”にいた女が、
選ばれる側に落ちる。
しかも、
中央から見下される場所で。
アークは、
短く息を吐いた。
「お前は、
それを見てきた」
「はい」
「……残酷だな」
タニアは、
否定しなかった。
残酷なのは、
制度だ。
個人の感情ではない。
夜、
タニアは一人、
自室で考える。
もし、
あの時。
自分が、
もう少し感情的だったら。
ハマルを、
許していたら。
結果は、
変わっただろうか。
答えは、
否だ。
後宮では、
情は弱点になる。
助けた者から、
次に切られる。
それが、
この世界の現実。
「私は、
正しかった」
そう言い聞かせるように、
呟く。
それは、
自己弁護ではない。
生き残るための、
確認だった。
下賜は、
終わりではない。
新しい地獄の、
始まりだ。
そして――
タニアはもう、
その地獄の内側にはいない。
その事実を、
静かに噛みしめながら、
彼女は灯りを消した。
次に動くのは、
中央か、
辺境か。
いずれにせよ、
彼女はもう、
流される側ではなかった。
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