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第17話 返還請求という現実
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第17話 返還請求という現実
翌朝。
アセルス・アウストラリスの執務室に、
一通の書簡が届けられた。
封蝋に刻まれているのは、
アルベルド商会の紋章。
それを見た瞬間、
彼の胸に、
言いようのない不安が走る。
(……なぜ、今)
封を切り、
中身に目を通したその数秒後――
アセルスの顔色は、
はっきりと変わった。
---
> 「これまで、
殿下が王太子に就かれることを前提として
当商会が提供してきた資金援助につきまして、
その前提が失われた以上、
投資契約は無効と判断いたします。
よって、
これまで提供した全額の返還を
速やかに求めます」
---
「……返還、だと?」
思わず、
声が漏れる。
アルベルド商会は、
王国最大の商会であり、
同時に商業組合の組合長でもある。
その資金力と影響力は、
王家ですら無視できない。
(投資……?)
アセルスは、
初めてその言葉を
真正面から意識した。
(支援では、
なかったのか?)
彼の記憶の中で、
資金はいつも“自然に”
用意されていた。
遠征費。
外交の贈答。
派閥の調整費用。
それらは、
第一王子である自分に
当然付いてくるものだと
思っていた。
だが書簡は、
はっきりと告げている。
――それは「投資」だったのだと。
額を確認した瞬間、
アセルスは、
息を呑んだ。
「……冗談ではない」
一度に返せる額ではない。
王家の予算から捻出するにも、
正当な理由が必要だ。
(父上に相談すれば……)
そう考えかけ、
すぐに思い直す。
今、
国王の周囲には
慎重論が渦巻いている。
第一王子に、
これほどの負債があると知れれば――
どう判断されるか。
「……まずは、
直接話すべきか」
そう結論づけ、
アセルスは近臣を呼び、
商会への面会を申し込ませた。
だが、
返ってきた答えは、
冷淡だった。
「殿下、
アルベルド商会より伝言です」
「“これ以上の協議は不要。
期日までの返還を
お待ちするのみ”
とのことです」
「……話し合いすら、
拒否するのか?」
近臣は、
言葉を選びながら続ける。
「また……
商業組合内でも、
殿下への信用が
揺らいでいるとの噂が」
その言葉は、
静かに、
しかし確実に
胸を抉った。
(……信用)
派閥を失い、
聖女に拒まれ、
今度は商会に切られる。
一つ一つは、
別の出来事のはずだった。
だが今、
それらが一本の線で
つながり始めている。
(私は、
“王太子になる存在”
として扱われなくなっている)
その事実を、
アセルスは
否応なく理解し始めていた。
机に置かれた書簡を、
彼はもう一度見つめる。
そこに書かれているのは、
非難でも、
嘲笑でもない。
ただ、
淡々とした現実だけだった。
この日、
アセルスは初めて――
「失う」という感覚を、
具体的な数字として
突きつけられた。
そしてそれは、
誇りや名誉ではなく、
返さなければならない負債として、
彼の前に立ちはだかった。
転落は、
まだ終わらない。
むしろ――
ここからが、
本当の始まりだった。
翌朝。
アセルス・アウストラリスの執務室に、
一通の書簡が届けられた。
封蝋に刻まれているのは、
アルベルド商会の紋章。
それを見た瞬間、
彼の胸に、
言いようのない不安が走る。
(……なぜ、今)
封を切り、
中身に目を通したその数秒後――
アセルスの顔色は、
はっきりと変わった。
---
> 「これまで、
殿下が王太子に就かれることを前提として
当商会が提供してきた資金援助につきまして、
その前提が失われた以上、
投資契約は無効と判断いたします。
よって、
これまで提供した全額の返還を
速やかに求めます」
---
「……返還、だと?」
思わず、
声が漏れる。
アルベルド商会は、
王国最大の商会であり、
同時に商業組合の組合長でもある。
その資金力と影響力は、
王家ですら無視できない。
(投資……?)
アセルスは、
初めてその言葉を
真正面から意識した。
(支援では、
なかったのか?)
彼の記憶の中で、
資金はいつも“自然に”
用意されていた。
遠征費。
外交の贈答。
派閥の調整費用。
それらは、
第一王子である自分に
当然付いてくるものだと
思っていた。
だが書簡は、
はっきりと告げている。
――それは「投資」だったのだと。
額を確認した瞬間、
アセルスは、
息を呑んだ。
「……冗談ではない」
一度に返せる額ではない。
王家の予算から捻出するにも、
正当な理由が必要だ。
(父上に相談すれば……)
そう考えかけ、
すぐに思い直す。
今、
国王の周囲には
慎重論が渦巻いている。
第一王子に、
これほどの負債があると知れれば――
どう判断されるか。
「……まずは、
直接話すべきか」
そう結論づけ、
アセルスは近臣を呼び、
商会への面会を申し込ませた。
だが、
返ってきた答えは、
冷淡だった。
「殿下、
アルベルド商会より伝言です」
「“これ以上の協議は不要。
期日までの返還を
お待ちするのみ”
とのことです」
「……話し合いすら、
拒否するのか?」
近臣は、
言葉を選びながら続ける。
「また……
商業組合内でも、
殿下への信用が
揺らいでいるとの噂が」
その言葉は、
静かに、
しかし確実に
胸を抉った。
(……信用)
派閥を失い、
聖女に拒まれ、
今度は商会に切られる。
一つ一つは、
別の出来事のはずだった。
だが今、
それらが一本の線で
つながり始めている。
(私は、
“王太子になる存在”
として扱われなくなっている)
その事実を、
アセルスは
否応なく理解し始めていた。
机に置かれた書簡を、
彼はもう一度見つめる。
そこに書かれているのは、
非難でも、
嘲笑でもない。
ただ、
淡々とした現実だけだった。
この日、
アセルスは初めて――
「失う」という感覚を、
具体的な数字として
突きつけられた。
そしてそれは、
誇りや名誉ではなく、
返さなければならない負債として、
彼の前に立ちはだかった。
転落は、
まだ終わらない。
むしろ――
ここからが、
本当の始まりだった。
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