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第38話 それぞれの春
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第38話 それぞれの春
王都に、
本格的な春が訪れていた。
石畳の隙間から芽吹く草、
市場に並ぶ果実、
人々の服装の変化。
誰かが消え、
誰かが立った――
そんな騒動が
まるで昔話のように
感じられるほど、
季節は前に進んでいる。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
窓辺で紅茶を飲みながら、
庭を眺めていた。
「……花が、
ずいぶん咲きましたわね」
「はい。
今年は
良い春です」
侍女の言葉に、
シャウラは
静かに頷く。
婚約破棄。
派閥の動揺。
王太子問題。
どれも、
自分の周囲で
起きたはずの出来事だ。
だが――
今となっては、
どれも
遠い。
(……失ったものは、
何もありませんでしたわ)
そう思えることが、
何よりの救いだった。
---
王宮。
マリー・アウストラリスは、
執務の合間に
窓を開け、
外の空気を吸い込んだ。
「……平和、
ですわね」
宰相が、
苦笑する。
「陛下の治世が
“退屈”と
言われ始めています」
「最高の評価ですわ」
マリーは、
即答した。
争いのない政治。
誰かを吊るさない権力。
それは、
派手さに欠ける。
だが、
長く続く。
「……シャウラ様も、
穏やかに
過ごされているとか」
「ええ」
マリーは、
微笑む。
「それで
いいのです」
---
神殿。
ジャネットは、
子どもたちと
向き合っていた。
祈りを捧げ、
怪我を癒やし、
話を聞く。
それだけの時間。
だが、
以前より
心は軽かった。
「……聖女様、
また来てね」
「ええ。
必ず」
その約束に、
偽りはない。
(……ようやく、
役目と
折り合いが
ついたのかもしれない)
彼女は、
静かにそう思った。
---
一方、
国境の向こう。
アセルス・アウストラリスは、
名を呼ばれることなく
働いていた。
番号で呼ばれ、
指示に従い、
身体を動かす。
疲労は、
考える時間を
奪ってくれる。
それが、
唯一の救いだった。
(……春、か)
遠くで聞いた
そんな言葉が、
胸を掠める。
だが、
それ以上
考えなかった。
---
王都では、
誰も彼の話をしない。
しないことが、
残酷であり、
同時に
優しさでもあった。
---
夕暮れ。
シャウラは、
庭を歩きながら
小さく呟く。
「……それぞれの春、
ですわね」
誰かを
踏み台にした
幸福ではない。
誰かを
見下ろす
安堵でもない。
ただ、
それぞれが
自分の場所で
季節を迎えている。
それが、
この物語の
“静かな勝利”だった。
春は、
等しく巡る。
選択の重さを
知った者にも、
知らずに
通り過ぎた者にも。
だが、
咲く花の場所は――
選んだ道の先にしか
現れないのだ。
王都に、
本格的な春が訪れていた。
石畳の隙間から芽吹く草、
市場に並ぶ果実、
人々の服装の変化。
誰かが消え、
誰かが立った――
そんな騒動が
まるで昔話のように
感じられるほど、
季節は前に進んでいる。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
窓辺で紅茶を飲みながら、
庭を眺めていた。
「……花が、
ずいぶん咲きましたわね」
「はい。
今年は
良い春です」
侍女の言葉に、
シャウラは
静かに頷く。
婚約破棄。
派閥の動揺。
王太子問題。
どれも、
自分の周囲で
起きたはずの出来事だ。
だが――
今となっては、
どれも
遠い。
(……失ったものは、
何もありませんでしたわ)
そう思えることが、
何よりの救いだった。
---
王宮。
マリー・アウストラリスは、
執務の合間に
窓を開け、
外の空気を吸い込んだ。
「……平和、
ですわね」
宰相が、
苦笑する。
「陛下の治世が
“退屈”と
言われ始めています」
「最高の評価ですわ」
マリーは、
即答した。
争いのない政治。
誰かを吊るさない権力。
それは、
派手さに欠ける。
だが、
長く続く。
「……シャウラ様も、
穏やかに
過ごされているとか」
「ええ」
マリーは、
微笑む。
「それで
いいのです」
---
神殿。
ジャネットは、
子どもたちと
向き合っていた。
祈りを捧げ、
怪我を癒やし、
話を聞く。
それだけの時間。
だが、
以前より
心は軽かった。
「……聖女様、
また来てね」
「ええ。
必ず」
その約束に、
偽りはない。
(……ようやく、
役目と
折り合いが
ついたのかもしれない)
彼女は、
静かにそう思った。
---
一方、
国境の向こう。
アセルス・アウストラリスは、
名を呼ばれることなく
働いていた。
番号で呼ばれ、
指示に従い、
身体を動かす。
疲労は、
考える時間を
奪ってくれる。
それが、
唯一の救いだった。
(……春、か)
遠くで聞いた
そんな言葉が、
胸を掠める。
だが、
それ以上
考えなかった。
---
王都では、
誰も彼の話をしない。
しないことが、
残酷であり、
同時に
優しさでもあった。
---
夕暮れ。
シャウラは、
庭を歩きながら
小さく呟く。
「……それぞれの春、
ですわね」
誰かを
踏み台にした
幸福ではない。
誰かを
見下ろす
安堵でもない。
ただ、
それぞれが
自分の場所で
季節を迎えている。
それが、
この物語の
“静かな勝利”だった。
春は、
等しく巡る。
選択の重さを
知った者にも、
知らずに
通り過ぎた者にも。
だが、
咲く花の場所は――
選んだ道の先にしか
現れないのだ。
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