婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

文字の大きさ
39 / 40

第39話 選ばなかった未来

しおりを挟む
第39話 選ばなかった未来

春が深まり、
王都の空気は
すっかり落ち着いていた。

もはや、
“あの婚約破棄”を
覚えている者の方が
少ない。

思い出されるとしても、
それは事件ではなく、
ただの「転換点」だ。


---

アルファルド公爵邸。

シャウラは、
久しぶりに
父と向かい合って
食事をしていた。

「……お前は、
 後悔していないのか?」

唐突な問い。

シャウラは、
一瞬だけ考え、
首を横に振った。

「いいえ」

「王妃になる未来も、
 あった」

「ええ」

それは事実だ。

王子の妻。
王の隣に立つ存在。
誰もが羨む立場。

「でも――」

シャウラは、
穏やかに言葉を続ける。

「それは、
 “選ばされた未来”ですわ」

沈黙。

父は、
何も言わない。


---

夜。

シャウラは、
自室の書棚の前に立ち、
古い日記を手に取った。

婚約当時の文字。

義務。
期待。
当然。

そこには、
「自分の意志」は
ほとんどなかった。

(……不思議ですわね)

(今のほうが、
 ずっと自由なのに)

誰のものでもない時間。
誰の期待も背負わない明日。

それは、
公爵令嬢としては
異端かもしれない。

だが――
一人の人間としては、
正しい。


---

王宮。

マリーは、
王位継承に関する
古文書を閉じた。

「……王太子を
 立てなかった国、か」

宰相が頷く。

「前例は、
 ほとんどありません」

「ですが、
 問題も起きていない」

マリーは、
微笑む。

「“選ばなかった”
 という選択も、
 時には
 最善ですわ」

誰かを持ち上げない。
誰かを切り捨てない。

その判断が、
今の安定を
生んでいる。


---

神殿。

ジャネットは、
夜の礼拝を終え、
一人で椅子に座っていた。

かつて夢見た未来。

王太子妃。
国の中心。

(……あれは、
 私が
 欲しがった未来)

(でも――
 欲しいだけでは、
 足りなかった)

今は、
自分の手で
何かを救っている。

小さくても、
確かな実感。

「……これも、
 選ばなかった未来、
 なのね」

そう呟き、
目を閉じた。


---

遠い地。

アセルスは、
夜の作業を終え、
粗末な寝台に
身を投げ出した。

夢を見ることは、
ほとんどなくなった。

ただ、
時折思い出す。

“王になれたかもしれない自分”。

(……違う)

(あれは、
 俺が
 選んだ未来じゃない)

誰かに
期待され、
押し上げられ、
勘違いした自分。

今さら、
遅い。


---

同じ夜空が、
それぞれの上に
広がっている。

だが、
見ている未来は
違う。

選ばれなかった道。
選ばなかった道。

それらが
交差しないからこそ、
今がある。

この夜、
物語は
終わりに近づいていた。

残るのは――
最後の一話。

それは、
誰かの勝利ではない。

「自分の人生を
 自分で選ぶ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。 オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。 「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」 「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」 「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」 妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

[完結]気付いたらザマァしてました(お姉ちゃんと遊んでた日常報告してただけなのに)

みちこ
恋愛
お姉ちゃんの婚約者と知らないお姉さんに、大好きなお姉ちゃんとの日常を報告してただけなのにザマァしてたらしいです 顔文字があるけどウザかったらすみません

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃
恋愛
バートン伯爵家のミアの婚約者、パーシーはいつも「魔法が使える人がいい」とばかり言っていた。 実はミアは幼いころに水の精霊と親しくなり、魔法も得意だった。 妹のリリーが怪我した時に母親に「リリーが可哀想だから魔法ぐらい譲ってあげなさい」と言われ、精霊を譲っていたのだった。 リリーはとっくに怪我が治っているというのにずっと仮病を使っていて一向に精霊を返すつもりはない。 それでもミアはずっと我慢していたが、ある日パーシーとリリーが仲良くしているのを見かける。 パーシーによると「怪我しているのに頑張っていてすごい」ということらしく、リリーも満更ではなさそうだった。 そのためミアはついに彼女から精霊を取り戻すことを決意する。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...