『沈黙を選んだ令嬢は、対等な未来を手に取る』

ふわふわ

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第18話 招かれない夜会と、静かな格付け

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第18話 招かれない夜会と、静かな格付け

 その知らせを、私は夕方になってから聞いた。

「お嬢様」

 マルタが、少しだけ言いにくそうに声をかけてくる。

「今夜、王都で大きな夜会が開かれております」

「……そうですの」

 私は、手にしていた本から視線を上げることなく答えた。

 夜会。
 その言葉に、胸がざわつくことはない。

 かつては、私の居場所だった。
 否応なく呼ばれ、笑顔を貼り付け、誰かの期待を背負わされる場所。

 けれど今は――

「ちなみに」

 マルタが、慎重に続ける。

「お嬢様のお名前は、招待者名簿にございません」

 私は、ようやく顔を上げた。

「……正式に?」

「はい。意図的に外されたようでございます」

 それは、予想していなかったわけではない。
 けれど、実際に言葉として突きつけられると、少しだけ空気が変わる。

(なるほど)

 これは、最後の揺さぶりだ。

 ――呼ばれなかった令嬢。
 ――グラーフ侯爵の婚約者でありながら、王城の夜会に姿を見せない女。

 周囲は、そう噂するだろう。

 落ちたのか。
 干されたのか。
 それとも、何か問題があるのか。

「……お気になさらなくて、よろしいのでしょうか」

 マルタの声には、わずかな不安が滲んでいた。

 私は、静かに本を閉じる。

「ええ。とても分かりやすいですもの」

「分かりやすい、ですか?」

「はい。今夜は、“誰を内側に置き、誰を外に出すか”を示す夜会なのでしょう?」

 マルタは、言葉を失ったように私を見る。

「王城は、まだ主導権を持っていると示したい。
 だから、私を呼ばない」

 私は、淡々と続けた。

「でも、それは逆効果ですわ」

 呼ばれなかったことで、
 私は“排除された存在”になったのではない。

 ――“呼ばなくてはならない存在”だと、
 自ら認めたようなものだ。

「お嬢様……」

「大丈夫です」

 私は、微笑んだ。

「今夜は、静かに過ごしましょう」

 夜会が始まる頃、屋敷の中はいつも以上に静かだった。

 遠くの喧騒は、厚い壁に遮られ、ここまでは届かない。
 私は居間のソファに腰を下ろし、温かい紅茶を手に取る。

(……不思議ですわね)

 かつては、夜会の時間になると、
 身体が緊張し、心がざわついていた。

 今は、ただの「夜」だ。

 静かで、穏やかで、
 誰にも評価されない時間。

 その時、控えめなノック音がした。

「お嬢様。書簡が一通、届いております」

 差出人を見て、私はわずかに目を細めた。

 アルベリク・フォン・グラーフ

 封を切ると、簡潔な文面が現れる。

> 今夜の夜会について、把握している。
招待がなかったのは、こちらの意向でもある。
あなたを、あの場に置く必要はない。
それだけだ。



 私は、しばらくその文字を見つめていた。

(……やはり)

 呼ばれなかったのではない。
 呼ばせなかったのだ。

 王城が格付けをしようとした夜に、
 すでに別の格付けが終わっていた。

 私は、ゆっくりと紅茶を一口飲む。

 苦味も、香りも、ちょうどいい。

 夜会では、きっと多くの会話が交わされているだろう。

 誰が誰に近づいたか。
 誰がどこで笑ったか。
 誰が、どの陣営に属したか。

 そのどれにも、
 私は関与していない。

 けれど、それでいい。

 いや――それだからこそ、いい。

 夜が更け、ランプの灯りだけが部屋を照らす。

 私は本を開き、文字を追いながら思った。

(……格付けとは、不思議なものですわね)

 声を上げる者が上位に立つとは限らない。
 姿を見せる者が、中心とは限らない。

 今夜、私は呼ばれなかった。
 けれど、それは「外された」のではない。

 選ばれなかった場所を、選ばなかっただけだ。

 夜会が終わる頃、
 誰かは疲れ果て、
 誰かは焦り、
 誰かは誤った判断を悔やむだろう。

 私は、静かな部屋で、
 穏やかな夜を過ごす。

 その差は、
 明日になってから、
 少しずつ、形になって現れる。

 招かれなかった夜は、
 私の価値を下げなかった。

 むしろ――
 何も動かずに残る場所を、
 はっきりと示しただけだった。

 私は本を閉じ、灯りを落とす。

 静かな夜。
 騒がない選択。

 それが、
 今の私の“立ち位置”だった。

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