『沈黙を選んだ令嬢は、対等な未来を手に取る』

ふわふわ

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第21話 沈黙の価値と、試される覚悟

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第21話 沈黙の価値と、試される覚悟

 王城が沈黙を求めてきてから、さらに数日が過ぎた。

 不思議なことに、
 その「沈黙要請」以降、表立った動きはぴたりと止まっている。

 まるで、こちらが声を上げるかどうか、
 息を潜めて待っているかのように。

(……試されていますわね)

 私は朝の紅茶を飲みながら、窓の外を眺めていた。
 庭の木々は、風に揺れながらも根を張ったまま動かない。

 今の私と、少し似ている。

 沈黙を守るというのは、簡単そうで難しい。
 何も言わないことは、
 ときに「弱さ」や「逃げ」と受け取られる。

 けれど、本当に難しいのは――
 沈黙のまま、揺らがずに立ち続けることだ。

「お嬢様」

 マルタが、慎重な足取りで近づいてくる。

「新たな動きが?」

「はい。王城ではありませんが……
 複数の貴族家が、“静観の姿勢”を取り始めております」

 私は、カップをソーサーに戻した。

「静観、ですか」

「はい。どちらにも近づかず、
 お嬢様とグラーフ侯爵家の動きを待つ、と」

 私は小さく息を吐いた。

「つまり、次に動くのが誰かを、見極めようとしているのですわね」

「そのようでございます」

 それは、ある意味で自然な反応だった。

 夜会の失敗。
 王城の沈黙要請。
 そして、こちらから何も出ない現状。

 誰もが、
 「どこが正解なのか」
 分からなくなっている。

(……だからこそ、沈黙は価値を持つ)

 軽率な言葉は、
 軽率な側につくことを意味する。

 私は、立場を示すために声を上げるつもりはない。
 むしろ、声を上げないことで、
 立場を固定している。

 昼前、父のもとから使いが来た。

『一部の家が、水面下で接触を試みている。
 直接ではなく、周辺からだ』

 私は、その言葉を聞いて、静かに頷いた。

(やはり)

 直接来れば、拒絶される。
 だから、間接的に様子を探る。

 それは、
 “こちらが揺れるかどうか”を確かめる行為だ。

「父上は、どう対応なさいますか?」

 私が尋ねると、父は即答した。

「対応しない」

 迷いのない声だった。

「沈黙を守ると言った以上、
 こちらが動く理由はない」

「……ありがとうございます」

「覚悟が、要るな」

 父は、そう付け加えた。

「何も言わないというのは、
 想像以上に、圧がかかる」

 私は、ゆっくりと息を吸い、吐いた。

「大丈夫です」

 不思議と、そう言い切れた。

 以前なら、
 沈黙の中で、私は自分を責めていた。

 ――何か言うべきではないか。
 ――誤解されているのではないか。

 今は違う。

 誤解される余地があるなら、
 それは、誤解する側の問題だ。

 午後、私は庭を歩きながら、考えを整理していた。

 沈黙が続けば、
 必ず誰かが耐えられなくなる。

 焦り、
 不安、
 そして、自滅。

 それは、私の責任ではない。

 私はただ、
 自分の輪郭を保っているだけだ。

 夕方、グラーフ侯爵家から、いつもの簡潔な書簡が届く。

> 現在の状況について、問題なし。
沈黙を保てている。
それ自体が、十分な答えになっている。



 私は、その文を読み、少しだけ目を閉じた。

(……本当に、同じ覚悟ですわね)

 沈黙は、
 相手を試す行為でもある。

 そして同時に、
 自分自身を試す行為でもある。

 夜。

 ランプの灯りの下で、私は今日一日を振り返った。

 何かを決めたわけではない。
 何かを宣言したわけでもない。

 けれど、
 “揺らがなかった”という事実が、
 確かに積み重なっている。

 沈黙の価値は、
 時間とともに増していく。

 軽い言葉が消えていく中で、
 動かないものだけが残る。

 私は、その残る側にいる。

 それは、
 楽な道ではない。

 けれど――
 自分で選んだ道だ。

 ベッドに入り、目を閉じる。

 今日も、何も起きなかった。

 だがそれは、
 世界が私を試し、
 そして少しずつ、諦め始めている証でもあった。

 沈黙は、弱さではない。
 沈黙は、覚悟だ。

 私は、その覚悟を手放さず、
 静かな夜に身を委ねた。

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