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第38話 対話の席と、試される本心
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第38話 対話の席と、試される本心
王城の奥にある応接間は、驚くほど静かだった。
華美な装飾は抑えられ、
余分な人影もない。
この場が「交渉」ではなく、
対話であることを示すように。
私は一礼し、指定された席に腰を下ろした。
向かいに座るのは、
ユージェーヌ王太子。
公式の場で見る彼とは違い、
今日の表情は、
少しだけ――
緊張している。
(……逃げ場のない席ですものね)
形式ばった挨拶は、最小限だった。
「本日は、お時間をいただき感謝します」
「こちらこそ。
“確認の場”という条件を、
受け入れてくださり、
ありがとうございます」
私は、淡々と答えた。
「条件を受け入れたのは、
殿下ご自身ですわ。
私は、それを尊重しただけ」
王太子は、わずかに息を整えた。
「……承知しています」
沈黙が落ちる。
だが、これは居心地の悪い沈黙ではない。
互いが、
どこから語るべきかを測っている沈黙だ。
先に口を開いたのは、彼だった。
「まず、
私の声明について、
どう受け止められたかを、
お聞きしたい」
私は、少し考えてから答えた。
「“覚悟を差し出した”
そう感じました」
王太子は、目を伏せる。
「……それだけ、ですか」
「はい。
それ以上でも、
それ以下でもありません」
彼は、ゆっくりと頷いた。
「評価でも、
許しでもない、
ということですね」
「ええ。
覚悟は、
示された時点では、
まだ“形”に過ぎませんから」
王太子は、
その言葉を否定しなかった。
「では……
私は、
何を確認される立場なのでしょうか」
私は、視線をまっすぐ向けた。
「殿下が、
何を引き受ける覚悟なのか、です」
「責任、でしょうか」
「責任“だけ”ではありません」
私は、静かに続ける。
「殿下は、
これまで多くの判断を、
“周囲の正しさ”に委ねてきました」
彼の肩が、
ほんのわずかに強張る。
「それは、
王太子として、
合理的な選択だったのでしょう」
私は、声を落ち着かせたまま言う。
「ですが――
合理性の裏で、
誰が傷ついたのか、
誰が置き去りにされたのか」
沈黙。
彼は、逃げなかった。
「……私は、
それを直視していなかった」
王太子は、
はっきりと認めた。
「それを、
今さら取り戻せるとは、
思っていません」
私は、
その言葉を遮らない。
「ですが、
だからこそ――
これからは、
自分の判断で、
引き受ける覚悟がある」
彼は、
言葉を選びながら続けた。
「周囲の賛同がなくても、
批判を受けても、
自分の名で決める」
私は、
少しだけ視線を細めた。
(……言えていますわね)
だが、
言えることと、
できることは、
違う。
「殿下」
「はい」
「では、
その覚悟は――
私に向けたものですか?」
王太子は、
一瞬、言葉を失った。
問いは、
鋭く、
だが感情的ではない。
「……いいえ」
彼は、正直に答えた。
「それは、
私自身に向けたものです」
私は、
小さく頷いた。
「それで、
よろしいですわ」
彼は、
意外そうに目を見開いた。
「……よろしい、のですか」
「ええ」
私は、穏やかに言った。
「覚悟が、
誰かを取り戻すためのものなら、
いずれ、
別の誰かを犠牲にします」
王太子は、
息を詰めたように見えた。
「ですが、
自分自身に向けた覚悟なら――」
私は、はっきりと言う。
「少なくとも、
同じ過ちは、
繰り返しません」
しばらく、
言葉はなかった。
やがて、
王太子が深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
「感謝は、
まだ早いですわ」
私は、静かに立ち上がった。
「今日の対話で、
確認は終わりました」
王太子は、
顔を上げる。
「では……
次は?」
「次は、
行動です」
私は、
扉へ向かいながら、
振り返らずに言った。
「言葉は、
もう十分に聞きました」
その背後で、
王太子が、
深く息を吐く気配がした。
王城を後にする廊下は、
来た時よりも、
少しだけ長く感じられた。
(……逃げませんでしたわね)
それが、
今日の最大の収穫だ。
夜、別邸の寝室。
私は、
静かに目を閉じた。
対話は終わった。
だが、
結論は出ていない。
それでいい。
覚悟は、
示されただけでは足りない。
――試されるのは、
これからなのだから。
王城の奥にある応接間は、驚くほど静かだった。
華美な装飾は抑えられ、
余分な人影もない。
この場が「交渉」ではなく、
対話であることを示すように。
私は一礼し、指定された席に腰を下ろした。
向かいに座るのは、
ユージェーヌ王太子。
公式の場で見る彼とは違い、
今日の表情は、
少しだけ――
緊張している。
(……逃げ場のない席ですものね)
形式ばった挨拶は、最小限だった。
「本日は、お時間をいただき感謝します」
「こちらこそ。
“確認の場”という条件を、
受け入れてくださり、
ありがとうございます」
私は、淡々と答えた。
「条件を受け入れたのは、
殿下ご自身ですわ。
私は、それを尊重しただけ」
王太子は、わずかに息を整えた。
「……承知しています」
沈黙が落ちる。
だが、これは居心地の悪い沈黙ではない。
互いが、
どこから語るべきかを測っている沈黙だ。
先に口を開いたのは、彼だった。
「まず、
私の声明について、
どう受け止められたかを、
お聞きしたい」
私は、少し考えてから答えた。
「“覚悟を差し出した”
そう感じました」
王太子は、目を伏せる。
「……それだけ、ですか」
「はい。
それ以上でも、
それ以下でもありません」
彼は、ゆっくりと頷いた。
「評価でも、
許しでもない、
ということですね」
「ええ。
覚悟は、
示された時点では、
まだ“形”に過ぎませんから」
王太子は、
その言葉を否定しなかった。
「では……
私は、
何を確認される立場なのでしょうか」
私は、視線をまっすぐ向けた。
「殿下が、
何を引き受ける覚悟なのか、です」
「責任、でしょうか」
「責任“だけ”ではありません」
私は、静かに続ける。
「殿下は、
これまで多くの判断を、
“周囲の正しさ”に委ねてきました」
彼の肩が、
ほんのわずかに強張る。
「それは、
王太子として、
合理的な選択だったのでしょう」
私は、声を落ち着かせたまま言う。
「ですが――
合理性の裏で、
誰が傷ついたのか、
誰が置き去りにされたのか」
沈黙。
彼は、逃げなかった。
「……私は、
それを直視していなかった」
王太子は、
はっきりと認めた。
「それを、
今さら取り戻せるとは、
思っていません」
私は、
その言葉を遮らない。
「ですが、
だからこそ――
これからは、
自分の判断で、
引き受ける覚悟がある」
彼は、
言葉を選びながら続けた。
「周囲の賛同がなくても、
批判を受けても、
自分の名で決める」
私は、
少しだけ視線を細めた。
(……言えていますわね)
だが、
言えることと、
できることは、
違う。
「殿下」
「はい」
「では、
その覚悟は――
私に向けたものですか?」
王太子は、
一瞬、言葉を失った。
問いは、
鋭く、
だが感情的ではない。
「……いいえ」
彼は、正直に答えた。
「それは、
私自身に向けたものです」
私は、
小さく頷いた。
「それで、
よろしいですわ」
彼は、
意外そうに目を見開いた。
「……よろしい、のですか」
「ええ」
私は、穏やかに言った。
「覚悟が、
誰かを取り戻すためのものなら、
いずれ、
別の誰かを犠牲にします」
王太子は、
息を詰めたように見えた。
「ですが、
自分自身に向けた覚悟なら――」
私は、はっきりと言う。
「少なくとも、
同じ過ちは、
繰り返しません」
しばらく、
言葉はなかった。
やがて、
王太子が深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
「感謝は、
まだ早いですわ」
私は、静かに立ち上がった。
「今日の対話で、
確認は終わりました」
王太子は、
顔を上げる。
「では……
次は?」
「次は、
行動です」
私は、
扉へ向かいながら、
振り返らずに言った。
「言葉は、
もう十分に聞きました」
その背後で、
王太子が、
深く息を吐く気配がした。
王城を後にする廊下は、
来た時よりも、
少しだけ長く感じられた。
(……逃げませんでしたわね)
それが、
今日の最大の収穫だ。
夜、別邸の寝室。
私は、
静かに目を閉じた。
対話は終わった。
だが、
結論は出ていない。
それでいい。
覚悟は、
示されただけでは足りない。
――試されるのは、
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