石を売る女の意思 ――後にダイヤモンドクイーンと呼ばれる女の威信――

ふわふわ

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第2話 ガラスは宝石より高価である

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第2話

ガラスは宝石より高価である

 

店内に流れた緊張は、
まるで張り詰めた硝子細工のようだった。

フォージェリ・ノックオフ侯爵令息の高笑いが消え、
その余韻だけが空気に残る。

「鑑定人を呼べばいいと言ったな」

彼はそう言って、
自信に満ちた視線をジェニュインへ向けた。

「この場で白黒をはっきりさせようじゃないか。
 貴婦人方も、詐欺師の店で買い物をしていたと知れば、
 さぞ驚かれるだろう」

その言葉に、
数人の貴婦人が息を呑んだ。

だが、ジェニュインは少しも動じない。

「ええ。
 鑑定なさるのが、もっとも確実でしょう」

その落ち着いた声は、
まるで結果が最初から決まっているかのようだった。

 

フォージェリは一瞬、
その態度に違和感を覚えた。

――なぜ怯えない?
――なぜ否定しない?

だが、その疑問はすぐに打ち消された。

(虚勢だ。
 追い詰められた女の、最後の強がりに過ぎない)

そう思い込むことで、
彼は自らの優位を疑わずに済んだ。

 

鑑定人が到着するまでの間、
店内では小声の囁きが交わされ始めた。

「……河原に落ちている、ですって?」
「ガラスが? そんな馬鹿な……」
「でも、この輝きは本物ですわ……」

貴婦人たちの視線は、
展示されたアクセサリーへと向けられる。

確かに、どれも美しい。
だが、それ以上に彼女たちを戸惑わせているのは、
“価格”だった。

この世界では、
ガラスは宝石以上に高価である。

それは単なる嗜好の違いではない。

ガラスは人工物だ。
高度な炉と、精密な温度管理、
失敗を重ねた末にようやく一つ完成する。

一度失敗すれば、
材料も時間も、すべてが無に帰す。

だからこそ、
完璧なガラス製品は「技術の結晶」とされ、
王侯貴族の威信を示す象徴となっていた。

「宝石は、運が良ければ掘り当てられるけれど……」
「ガラスは、才能と技術がなければ生まれませんものね」

そんな価値観が、
この国では常識だった。

 

にもかかわらず。

ジェニュインの店のガラスは、
“わずかに安い”。

それが、
彼女たちを惹きつけると同時に、
不安にもさせていた。

「もし本当に、
 拾った石を加工しただけのものだとしたら……」

そんな疑念が、
フォージェリの言葉によって、
一気に現実味を帯びてしまったのだ。

 

「まったく……」

その囁きを、
ジェニュインは聞き逃していなかった。

だが、彼女は説明を急がない。

価値とは、
声を荒らげて主張するものではない。

示されるものだ。

 

やがて、
店の外がざわついた。

「鑑定人が到着したようです」

店員の一人がそう告げると、
フォージェリは満足そうに頷いた。

「よし。
 さあ、見せてもらおうじゃないか」

年配の鑑定人が、
丁寧な所作で店内に入ってくる。

その胸元には、
王都鑑定協会の紋章が光っていた。

「お呼びでしょうか」

「ええ」

フォージェリは一歩前に出る。

「この店で売られている品が、
 本当に“ガラス”なのか、
 それともただの石ころなのか。
 鑑定していただきたい」

鑑定人は一瞬、
周囲を見渡した。

貴婦人たち。
怒気を帯びた侯爵令息。
そして、静かに佇む店主。

「……承知しました」

彼はそう答え、
ジェニュインへ視線を向ける。

「差し支えなければ、
 鑑定する品をお借りしても?」

「どうぞ」

ジェニュインは、
最もよく売れているペンダントを差し出した。

その動作に、
迷いは一切ない。

 

鑑定人は、
ルーペを取り出し、
光の角度を変えながら慎重に観察を始めた。

沈黙。

時計の針の音さえ、
やけに大きく聞こえる。

フォージェリは、
腕を組んだまま待つ。

(さあ、言え。
 ただの石だ、と)

シャロウ・フラッシーは、
口元に笑みを浮かべていた。

(これで、
 あの女は社交界から消えるわ)

 

だが――
鑑定人の表情が、
次第に変わっていく。

驚き。
戸惑い。
そして、確信。

彼は、
ゆっくりと顔を上げた。

「……興味深い」

その一言に、
店内がざわめく。

「これは――
 工業的に製作されたガラスではありません」

フォージェリの口角が上がる。

「ほら見ろ!
 やはり石ころ――」

「ですが」

鑑定人は、
きっぱりと言葉を続けた。

「間違いなく、
 ガラスです」

 

その瞬間、
空気が凍りついた。

「な……?」

フォージェリの声が、
間の抜けた響きを帯びる。

鑑定人は、
静かに説明を始めた。

「これは、
 自然の高熱によって生成された
 天然ガラスです」

 

ジェニュインは、
その言葉を聞きながら、
ほんのわずかに微笑んだ。

――ようやく、
話が始まっただけ。

本当の意味での“鑑定”は、
これからなのだから。

 

この場にいる誰もが、
まだ気づいていなかった。

自分たちが今、
“常識そのもの”を鑑定されていることに。
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