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第4話 逆転の証明
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第4話 逆転の証明
鑑定人の言葉が店内に落ちてから、
しばらくのあいだ、誰一人として声を発することができなかった。
正真正銘のガラス。
しかも、希少な天然ガラス。
その事実は、
フォージェリ・ノックオフ侯爵令息が
声高に叫んだ「詐欺」という言葉を、
無慈悲なまでに否定していた。
「…………」
最初に動いたのは、
貴婦人の一人だった。
彼女は、恐る恐るといった様子で、
展示台の上のアクセサリーを手に取る。
先ほどまでと、何も変わらない。
澄んだ透明感、
わずかな揺らぎを含んだ色彩。
だが今は――
それがまったく違って見えた。
「……私、
とんでもない勘違いをしていたのかもしれませんわ」
その呟きは、
自分自身に向けられたものだった。
それをきっかけに、
堰を切ったように囁き声が広がる。
「天然……ガラス……」
「宝石と同等の価値……」
「いえ、むしろ……」
視線が、
フォージェリとシャロウへ向けられる。
さきほどまで、
彼らの言葉に頷いていた者たちの目が、
今や、冷ややかな色を帯びていた。
「……ば、馬鹿な……」
フォージェリは、
喉を鳴らして唾を飲み込む。
「鑑定人の見解が、
必ずしも正しいとは限らないだろう!」
苦し紛れの反論。
だが、
鑑定人は眉一つ動かさない。
「私一人の判断ではありません。
必要であれば、
王都鑑定協会に正式な記録を残しますが」
その一言で、
フォージェリの顔色が変わった。
王都鑑定協会。
そこに記録が残れば、
この件は“公式な事実”となる。
もはや、
取り繕う余地はなかった。
「フォージェリ様……」
震えた声で、
シャロウ・フラッシーが呼びかける。
だが、
フォージェリは彼女を振り返らなかった。
彼の視線は、
ただ一人――
ジェニュイン・オーセンティックに向けられている。
「……君は……
最初から、知っていたのか」
「ええ」
ジェニュインは、
隠すことなく頷いた。
「だから、
鑑定をお勧めしたのですわ」
その言葉は、
あまりにも静かで、
あまりにも当然だった。
フォージェリの胸に、
じわじわと羞恥が広がっていく。
自分は――
何をした?
婚約者を、
人前で詐欺師と罵り、
無知をさらし、
しかも、それが誤りだった。
「……違う……」
小さな否定の言葉が、
彼の口からこぼれ落ちる。
「俺は……
騙されたんだ……」
「誰に、ですの?」
ジェニュインの問いに、
フォージェリは答えられなかった。
貴婦人の一人が、
はっきりと口を開く。
「フォージェリ様。
あなたは、
この店で買い物をしていた私たちに向かって、
“詐欺に加担した”とおっしゃいましたわね」
「それは……」
「つまり、
私たち全員が、
騙されるほど愚かだと、
そうお考えだったということですか?」
その問いは、
柔らかな口調でありながら、
逃げ場のないものだった。
フォージェリは、
言葉を失う。
答えれば、
さらに自分の立場を悪くする。
黙れば、
肯定と取られる。
どちらに転んでも、
結果は同じだった。
「……もう、十分ですわ」
ジェニュインが、
静かに声を上げた。
その一言で、
店内の空気が引き締まる。
「本日の件につきまして、
これ以上の混乱は望みません」
彼女は、
鑑定人へと向き直る。
「ご協力、感謝いたします。
正式な鑑定結果は、
後日、書面にてお願いできますか?」
「もちろんです」
鑑定人は深く頷いた。
それを見届けてから、
ジェニュインはフォージェリに向き直る。
「――フォージェリ様。
先ほどのご発言、
そして私の名誉を著しく傷つける行為については、
オーセンティック侯爵家へ、
正式に報告させていただきます」
「なっ……!」
フォージェリの顔が、
一気に青ざめた。
侯爵家への正式報告。
それは、
個人の諍いでは終わらないことを意味する。
「お待ちください!」
思わず、
彼は声を上げた。
「これは……
誤解だ!
俺は、
真実を確かめようとしただけで――」
「誤解、ですか」
ジェニュインは、
ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「詐欺師と呼ぶことが、
誤解で済むとお思いなら……
それは、
価値観の違いというものでしょう」
その言葉は、
あまりにも冷静で、
あまりにも残酷だった。
その日、
アクセサリーショップ《オーセンティック》を去る
フォージェリ・ノックオフ侯爵令息の背中に、
称賛の視線は一つもなかった。
代わりに向けられていたのは、
失望と、
そして――
明確な軽蔑だった。
ジェニュインは、
静かに店内を見渡す。
動揺は残っている。
だが、
疑念は消えつつあった。
彼女は、
いつものように告げる。
「本日は、
お騒がせしてしまい申し訳ございません。
ですが……」
一拍置いて、
微笑む。
「こちらの商品は、
何一つ変わっておりませんわ」
それは、
自信ではない。
事実だった。
この日を境に、
噂の向きは、
確実に変わり始める。
「詐欺師の店」ではなく、
「価値を見抜く女の店」へ。
そして同時に――
フォージェリ・ノックオフという名が、
“無知をさらした男”として、
静かに語られ始めるのだった。
鑑定人の言葉が店内に落ちてから、
しばらくのあいだ、誰一人として声を発することができなかった。
正真正銘のガラス。
しかも、希少な天然ガラス。
その事実は、
フォージェリ・ノックオフ侯爵令息が
声高に叫んだ「詐欺」という言葉を、
無慈悲なまでに否定していた。
「…………」
最初に動いたのは、
貴婦人の一人だった。
彼女は、恐る恐るといった様子で、
展示台の上のアクセサリーを手に取る。
先ほどまでと、何も変わらない。
澄んだ透明感、
わずかな揺らぎを含んだ色彩。
だが今は――
それがまったく違って見えた。
「……私、
とんでもない勘違いをしていたのかもしれませんわ」
その呟きは、
自分自身に向けられたものだった。
それをきっかけに、
堰を切ったように囁き声が広がる。
「天然……ガラス……」
「宝石と同等の価値……」
「いえ、むしろ……」
視線が、
フォージェリとシャロウへ向けられる。
さきほどまで、
彼らの言葉に頷いていた者たちの目が、
今や、冷ややかな色を帯びていた。
「……ば、馬鹿な……」
フォージェリは、
喉を鳴らして唾を飲み込む。
「鑑定人の見解が、
必ずしも正しいとは限らないだろう!」
苦し紛れの反論。
だが、
鑑定人は眉一つ動かさない。
「私一人の判断ではありません。
必要であれば、
王都鑑定協会に正式な記録を残しますが」
その一言で、
フォージェリの顔色が変わった。
王都鑑定協会。
そこに記録が残れば、
この件は“公式な事実”となる。
もはや、
取り繕う余地はなかった。
「フォージェリ様……」
震えた声で、
シャロウ・フラッシーが呼びかける。
だが、
フォージェリは彼女を振り返らなかった。
彼の視線は、
ただ一人――
ジェニュイン・オーセンティックに向けられている。
「……君は……
最初から、知っていたのか」
「ええ」
ジェニュインは、
隠すことなく頷いた。
「だから、
鑑定をお勧めしたのですわ」
その言葉は、
あまりにも静かで、
あまりにも当然だった。
フォージェリの胸に、
じわじわと羞恥が広がっていく。
自分は――
何をした?
婚約者を、
人前で詐欺師と罵り、
無知をさらし、
しかも、それが誤りだった。
「……違う……」
小さな否定の言葉が、
彼の口からこぼれ落ちる。
「俺は……
騙されたんだ……」
「誰に、ですの?」
ジェニュインの問いに、
フォージェリは答えられなかった。
貴婦人の一人が、
はっきりと口を開く。
「フォージェリ様。
あなたは、
この店で買い物をしていた私たちに向かって、
“詐欺に加担した”とおっしゃいましたわね」
「それは……」
「つまり、
私たち全員が、
騙されるほど愚かだと、
そうお考えだったということですか?」
その問いは、
柔らかな口調でありながら、
逃げ場のないものだった。
フォージェリは、
言葉を失う。
答えれば、
さらに自分の立場を悪くする。
黙れば、
肯定と取られる。
どちらに転んでも、
結果は同じだった。
「……もう、十分ですわ」
ジェニュインが、
静かに声を上げた。
その一言で、
店内の空気が引き締まる。
「本日の件につきまして、
これ以上の混乱は望みません」
彼女は、
鑑定人へと向き直る。
「ご協力、感謝いたします。
正式な鑑定結果は、
後日、書面にてお願いできますか?」
「もちろんです」
鑑定人は深く頷いた。
それを見届けてから、
ジェニュインはフォージェリに向き直る。
「――フォージェリ様。
先ほどのご発言、
そして私の名誉を著しく傷つける行為については、
オーセンティック侯爵家へ、
正式に報告させていただきます」
「なっ……!」
フォージェリの顔が、
一気に青ざめた。
侯爵家への正式報告。
それは、
個人の諍いでは終わらないことを意味する。
「お待ちください!」
思わず、
彼は声を上げた。
「これは……
誤解だ!
俺は、
真実を確かめようとしただけで――」
「誤解、ですか」
ジェニュインは、
ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「詐欺師と呼ぶことが、
誤解で済むとお思いなら……
それは、
価値観の違いというものでしょう」
その言葉は、
あまりにも冷静で、
あまりにも残酷だった。
その日、
アクセサリーショップ《オーセンティック》を去る
フォージェリ・ノックオフ侯爵令息の背中に、
称賛の視線は一つもなかった。
代わりに向けられていたのは、
失望と、
そして――
明確な軽蔑だった。
ジェニュインは、
静かに店内を見渡す。
動揺は残っている。
だが、
疑念は消えつつあった。
彼女は、
いつものように告げる。
「本日は、
お騒がせしてしまい申し訳ございません。
ですが……」
一拍置いて、
微笑む。
「こちらの商品は、
何一つ変わっておりませんわ」
それは、
自信ではない。
事実だった。
この日を境に、
噂の向きは、
確実に変わり始める。
「詐欺師の店」ではなく、
「価値を見抜く女の店」へ。
そして同時に――
フォージェリ・ノックオフという名が、
“無知をさらした男”として、
静かに語られ始めるのだった。
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